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3

鳥が鳴いている。流石山の中にある学園だ。空気がいい。


朝だという事はわかる。

だけどね、身体は怠いのさ。



――ズル…ズル…。


「小豆入る…ぞ…うおっ!?」


ガチャ、と 開かれたドア。

俺は哲平を見上げた。


「……あぁ……ぉ…は…ょぅ」


「おまっ貞子みたいな事してんじゃねぇよビビるだろが!!!」


げしげしと足で踏まれながら冷たい床に頬をべたりとつけた。


「…沙希ちゃん……鬼畜…」


絶対高二の問題じゃないよ。

一夜漬けでやり遂げた俺をだれか褒めて欲しい。もう崇めて。


机の上には最後はミミズ文字になりながらも書き上げられたプリントが散らばっている。


「しゃきっとしろ!!お玉で殴るぞ」


「…お玉って凶器だよね」


しゃきーんと立ち上がっ……れなかった俺の襟首を掴みながらリビングに引きずる哲平。


(鬼だ……。)


適当に味噌汁を啜っていれば次第に覚醒していくもので。

部屋をでる頃には皆の猫田君に戻っていた。


「今日は香水つけねぇの?」


カシャン、と鍵を閉める直前。

哲平の一言で気づいて俺は慌てて自室へと戻る。


「ごっめん!」


すっかり気の抜けていた俺はガタガタと棚の中を探る。


「先行っとくぞー」


「ああっちょっまっ!!哲平の愛を感じない!!」


バタン、とドアが閉まる音をきいて俺は同時に香水を床に零した。

(まったくもってついていない…。)




「三山君おっはよー…ってなんだ…猫田君が居ないじゃない!!」


「…キンキンうるせーよ」


ショックだ、と喚く見上。


小柄な生徒達に囲まれた時、そいつらを追い払った後実は見上がいた。

それを機に最近よく絡んでくるようになったのだ。


後ろから飛び掛かってきてなんだそれは。

ジロリと睨み付ければ流石に怯んだのか、見上はおとなしくなる。


(朝から騒がしいっての…。)


部屋を出た瞬間聞こえた悲鳴を思い出し俺は鼻を鳴らした。


小豆といい見上といい…あと周りの奴ら全員。

廊下を歩いているだけでチクチクとした視線が刺さる。

それを鬱陶しく感じながら教室のドアを開けた時だった。


――ガラ…――パシッ!


「………あ?」


ドロリとした物体が頭から下へ流れる。


「なっ」


「……卵?」


ぬめった感触。

触れば当然ぬめった。


驚いた顔が次第に怒りに代わっていく見上。


「君達…」



「きゃああっごめんなさい三山君!!!」


「え…?」


「は?」


「僕達神田だと思って!!わぁあどうしよう!?ごめんなさい!!!」


予想外の反応に俺と見上は顔を見合わせる。


ゆっくりと辺りを見回すとなるほど、半分くらいの生徒が卵を持っていた。


(まったくもってついてねぇ…。)


頭から頬にどろりと卵が流れ落ちる。


地味に卵は痛かった。


いや、痛いのは当たり前なんだろうがそれ依然に…。


「臭ェ…」


猛烈に臭かった。


「わぁあ本当ごめんね三山君っあっあらかじめ腐らしてたんだ!早く洗ったほうがいいよ!!」


慌てて小柄な生徒が弁解をしてくるがとにかく臭かった。

しかも嫌な事に頬から顎や口元に濁った卵が垂れる度にガタイのいい生徒達の鼻息が荒くなるので一層嫌悪感が煽られた。


嫌すぎる。

しかもそれが腐っているもんだからうっかり口の中に入ってしまうと思えばダブルパンチだ。


…嫌すぎる。


(つか神田と間違われて俺が被害被るってのが……そりゃ志摩の役目だろうが。)


神田に巻き込まれるのは志摩の役目だ。

悪いが神田の巻き添えなんて御免被る。


「先生には僕達が言っておくからっ本当ごめんね!わざとじゃないんだ…」


しゅん、とうなだれる生徒。

それも一瞬でぱっと顔を上げた生徒は必死な形相で俺の胸を押した。


「三山君早く洗いながしてきたほうがいいよ!!」


「ちょっと待「見上君も少しかかったんじゃない!?あっ僕ハンカチ持ってるよ!!」


「見上は俺がやっておくよ!悪かったな、臭いだろ?」


(おーおー…まぁ洗わなきゃならねぇからいいんだけど。)


見上が群がられて身動きがとれていない。

元々低い身長なのに囲んでいるのが高い身長の奴らばかりなので完璧埋もれてしまっていた。


「三山!!」


(格下に見られてるから呼び捨てになったのか?膝枕の時から見上うぜぇんだよな…。)



どこか冷めた俺が呑気にそんな事を考えている間に俺は教室から押し出されてしまっていた。


グイグイと、普段女々しい奴等もやはり男だと言う事だ。


「ああっタオル…ごめん三山君っタオル僕持ってないんだ…」


最後にすまなさそうな顔をする生徒に別に構わないとだけ伝えるとその生徒は僅かに微笑み、ドアは閉められた。


「……はぁ」


べたべたになった髪を触る。

頭を洗うなら仮眠室か。


普段は役員専用なのだが仕方ないだろう。


水道で洗うとか嫌だし。

そう考えた俺は仮眠室に足を向けた。



――ガチャ…。



「…?…今…なんか鳴ったか?」


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