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茂みから現れたのは、
「ひっ久木先輩!」
最高潮に不機嫌な暴れん坊久木と。
「君って本当猫田君の足手まといだよね!!助けに来てやったんだから猫田君の使用済パン…生写真をよこしなよ!!!」
「……お前これから小豆の半径2メートル以内に入るなよ」
絶対役に立たないだろう見上だった。
あまりの予想外さに軽く頭痛をおこす俺に対して志摩は今にでも泡を吹きそうな程酷い顔色だ。
怯むガタイのいい生徒。
久木に鋭い眼光で睨みつけると生徒たちは大きな体を恐怖に縮めた。
見上は冷めた目でファンクラブの奴らを見渡すと不敵に笑う。
「こんな事していいのかなぁ?」
「なっなんだよ!!見上君だってファンクラブの一員だろ!?」
「僕は人見様のファンだもの。それに、アホの神田なんかどうでもいいけど三山は駄目だよ」
「っ庇うのか!?」
「フィニ先輩に逆らうの?」
(森崎…?)
ファンクラブ同士の小競り合い。やはりファンクラブ会長という地位は重要な権力になるらしい。
ぐっ、と息をつめる生徒達に見上はフンッと鼻をならした。
偉そうの一言に限る。
形勢逆転だ。ひとまず安心かと、哲平は視線を志摩に向けた。
「……幸助」
「う…、あ…」
久木が登場した事によってファンクラブ以外の生徒は逃げるし、久木は久木で不燃焼なのか機嫌は相変わらず悪い。
ここまで間近で久木を見た事が無かった哲平はじっくりと観察を始める。
無造作に跳ねた黒い髪、黒い瞳、厚めの唇、綺麗な鼻筋、アーモンド型の瞳を囲うような長い睫毛。
確かに、格好いいと騒がれるだけの事はある美形だ。
生徒会長と似た雰囲気の顔立ちだった。
「あんなカマ野郎共にノコノコ付いて行くなんか馬鹿じゃねぇのか…俺が通らなきゃどうなってたか……」
「…ご、めんなさ…い」
久木の言葉に志摩は答えるが完全に竦み上がっている。
それも当然だろう、肌が痺れる程の重圧だ。
「あと勝手に逃げんじゃねぇ。お前逃がした野郎をぶっ殺してぇってなんだろが」
「…いやそれはなっちゃ駄目でしょうよ」
(小豆、お前ぶっ殺される所だったぞ…。)
どこか無気力な雰囲気を漂わせる久木。
どこかの誰かによく似ている空気だった。
「まぁ幸助はとりあえず捕獲完了っと。赤井は四分の三殺しで勘弁してやるとして、あぁ都留は四分の四殺しか。…んで……テメェ誰だ」
「!」
悲鳴を上げる志摩を肩に担ぐ。
顔色一つ、声色だけ変えて、久木は哲平の顔を黒い瞳で覗き込んだ。
―――ゾクッ
「っ」
急速に喉の水分が消えていく。
全身を駆け巡った衝撃。それに名前をつける事は出来なかった。
だが突然確立とした威圧感が顔を覗きこまれた瞬間襲いかかってきたのだ。
「久木先輩!」
「んあ?」
(っ……はああぁぁ…。)
肩に担がれた志摩の呼びかけに久木は屈めていた体を戻す。
自然と離れた視線に知らず知らずの内に安堵した。
「三山君」
「志摩!!!…君」
不意に甲高い声に呼ばれ、志摩と俺は後ろを向いた。
「あれっ俺なんか最後にもんの凄いちっさい声で君付けされた!?」
「お前を担いでる奴が居るからな」
「…だよな」
乾いた笑みを浮かべる志摩。
(完璧虎の威を借りる狐の立場だもんな。)
しゅん、とうなだれる志摩の頭を満足そうに撫でる久木。
甘い雰囲気の漂うそれは先ほどの殺気を散漫させるものだった。
だが少しの違和感はある。
志摩が逃げ出した事に久木はあまり怒っていないようだ。
(……余裕綽々、って事か。)
どうやら小豆の体をはった救出も気分が悪くはなるが、憤怒する程ではなかったらしい。
確かに、この学園にいる限り完全に志摩が離れていく事はない。
余興。
まさに久木にとって志摩の抵抗など微々たるものだったのだろう。
不意に哲平の視線と久木の視線が一瞬絡まる。
その瞬間、久木は小さく笑った。
ぶるりと体が震える。
「猛獣使いってか…」
志摩が久木を無意識に扱えるならそれに越したことは無い。
多少イチャつきに胸焼けを催すが、それぐらい我慢しよう。
「…三山は珍獣使いだよ」
「使えてねーから、あいつやりたい放題だし。まじで誰かあいつを調…」
調教して欲しい、といいかけてぴたりと止まる。
あれは手は焼けるがどこの馬の骨ともわからん野郎に調教されてしまうのはソレはソレで嫌だな、と思う。
急に黙って考え込んだ哲平に志摩は苦笑を洩らす。
(あーあー考え込んじゃってる…三山も苦労性だよなあ。)
「っ聞いてんのかよ!!!!」
志摩だけではなく哲平までブツブツとなにやら一人呟きだしたことにファンの生徒達の恐怖は煽られる。
我慢できずに叫んだ生徒に志摩と哲平は漸くその生徒に視線を向けた。
可愛らしい顔がとんでもない事になっている。
「美形の域を超えたな」
「…ある意味ね」
「~っ馬鹿にするなァ!!!」
「キンキンうるせぇ」
「ひっ」
久木の呟きに戦き、志摩の態度に憤怒し、哲平の平然とした態度に薄ら寒さを覚え、散々である。
「っ…お前等が生徒会の皆様に近づかなかったらこんな事しないんだからね!!!」
「そ、そうですよ。こ、これからは気をつける事ですね」
「さっきの余裕なくなってんなあいつら」
「三山本音でも言っちゃ駄目ぇええええ!!!!」
「「っっ」」
鼻で軽く失笑をもらした俺に志摩は慌てる。
久木がいなきゃ言ってねーけど。借りれるもんは借りとくもんだろ。
「……いいよ、そっちがその気ならこっちだってそういうつもりでいるから!」
「気をつけ
る事ですね三山君。貴方達に容赦というものは必要ないようですから?」
ふんっ、と帰っていった生徒達。
呆然としている志摩。
(宣戦布告されたようなもんだよな…あ、。)
「志摩」
「………ん?」
「結局生徒会なんざに興味ないわっつー重要な事伝えてないな」
「……え」
「このままじゃ俺等下心有りで近づいてるって肯定してるようなもんだな、否定してないからそうなんだろ」
「嫌あああぁ!!」
悲鳴を上げて脱力する志摩に俺は笑った。