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小豆視点



柔らかな唇が肌を這う。

くすぐるような触れかたに喉が震えた。


拝啓お母さん。

この学校に編入してはや4年…ピンチです。


「考え事か?余裕だな」


「ん…っ!っそんな事ありませんから…止めて下さい!」


唇が臍の下当たりをくすぐる。

際どい場所だからか、触れかたが微妙だからかわからないが反応してしまいそうで危ない事この上ない。


桐島の厭味な面がにやりと笑う度にぶん殴りたくって仕方がなかった。


っていうかまじ危ないよね。

この状況まじ危ない。いやまじで。

うっかり掘られてしまいました、なんてシャレにならない。


そんな事を考えている内に桐島の手はどんどん下に下りて行ってついに内股に触れた。



「っ」


最悪だ。

内股弱いんだけどどうしよう、ねぇ俺どうしよう。殴っていいかな、ねぇ殴っていいかな!?


強姦未遂は殴ってもいいよね、ここで素直に従ってケツ穴拡張されるより殴ったほうがいいよね!?


しかしパニックを起こした頭は考えるばかりで行動にはうつしてくれなかった。



スラックスを下ろされる。

ひんやりとした指が腿を伝う。

緊張で小さく震えた表面を撫でられピクリと跳ねた。


「なんだ、内股が弱いのか?」



――…ギチ…ッ


「っぅあ!?」


ビクッ、と体が跳ねる。


快感ではない、むず痒いような痛み。

腿の柔らかな部分に桐島が容赦なく爪を立てたのだ。


「もう少し可愛らしく鳴けないのか?」


野郎に可愛らしさ求めんなっつの。


「きっ、り…まっ様ぁ!」


「なんだ」


「や…っです…っぅ」


必死で腹筋を使って桐島を見下ろす。


いつの間にか俺の手は桐島の髪を掴んでいた。

も、やばい。


撫でられたり爪を立てられたり摘まれたり。

鳥肌が止まらない。


俺の懇願に気分をよくしたのか、

桐島は「聞こえんな」更に指に力をいれた。


(どこの鬼畜だぁぁぁあ!!!)


「猫田小豆…温厚で頼りになる人気者。容姿は至って普通、素行も悪くない……そろそろ皮を脱いだらどうだ?」


――…ギシ…。


顔に陰がさす。

視線を合わせるように桐島は俺の腕をベッドに縫い付けながら不敵に笑った。


「っはぁ、んっ」


「貴様がそうして皮を被っている為に犠牲になってしまうんだ。可哀相に…素直に神田秋を潰してさえいれば…あんな目に合わなかったのに」


顎の裏を唇が這う。

熱に

浮されたように霞んでいた思考。



「神田も貴様も、友人を巻き込む所は一緒だな?」


それは一気に覚醒した。


(友、人……哲平…!!)


桐島の髪を掴んでいた手に力を入れて頭を引きはがす。


「!…はげたらどうしてくれる」


「育毛剤でもやりますよ…それより…どういう事ですかね」


「なにがだ?」


小豆の手を外そうと冷たい手が手首を掴む。

しかし小豆は更に力を込めた。


「あんな目ってなんですか?…俺をここに引き止めてる理由を教えてくれますよね」


「セックスをする為以外にあるのか」


「セックス?随分お優しい前戯な事で」


髪を掴んでいた手をそのまま引っ張ると自然に桐島はベッドに倒れる。

俺はその上に乗り上がるとグッと顔を近づけた。


「さっさと教えろ…粗末なモン潰されたくなかったらな…!!!」

ゴリ…、と膝で桐島の腹を圧迫する。


少しも顔色の変わらない桐島。

その余りの無表情さにますます俺の焦りは煽られる。悪循環だ。


「それが素か?」


「素?勘違いしてもらっちゃ困りますなぁ…あれも俺なんで」


「二重人格か」


「あったま固…どーでもいいから早く教えろって……哲平に何があった」


何が可笑しいのか、桐島は馬鹿にしたように口端を上げた。


「……なに」


「¨何があった¨か…何故過去形なんだ?」


「っ!!?」


固まっている小豆の隙をついて桐島は体を起こし小豆を突き飛ばした。


――…ガタンッ


「っだ!!」


「猫田小豆、携帯が光っているぞ?」


「っ…くそったれ」


ポケットの中で震える携帯。

着信、見上凛。取り出し耳に押し当てると悲鳴のような事で見上君はまくし立てる。



『大変なんだ!!三山君がっ一人で仮眠室行って…僕っクラスの奴らの中に違う生徒が混じってて引き離されたんだけどっ』


「……見上君落ち着いて。よくわからない」


『猫田か!?志摩だけど…っ』


「志摩…よく教えて」


パニックになってしどろもどろになっている見上君から携帯を奪ったのだろう、志摩が代わりに説明をしてくれた。


電話の向こうからうめき声が聞こえてくる。


『三山と見上が離れてる間になにかあったみたいなんだ、教室に息のかかったファンクラブの生徒が混じってたみたいで…』


「……手の混んだ事してくれるねぇ」


『俺の携帯に空メが来ておかしいと思ったから教室にきたらドアの前に見張りがいたから…先輩に頼んで強行手段とったんだ。それで慌て仮眠室行ったんだけど誰もいなくて…』


志摩が息を呑む。


『…血と暴れた跡が残ってて…多分違う所に移動したんだと思う。猫田…制裁がどこでやられてるか思い当たりないか?』


ひゅっ、と自分の息を呑む音がやけに大きく聞こえた。


「………哲平が仮眠室行ってからどれくらいたってる?」


『多分一時間ちょっとだと思「さんきゅ」えっあっ猫』


――…ツー、ツー、


アドレス帳からまた違う相手に電話をかける。


『はぁい問』


「後でそっち行くわ。哲平の場所教えて」


『ええっとワカメ君は特別練の視聴覚室っスね』



問屋。

情報屋、何かあれば俺に連絡がくるようになっていたはず、だった。


「俺ちょっと怒ってっからね」


『アハハハ!怒られる理

由ないんスけどねぇ』


「まぁまぁまた後で」


パタン、と閉じた携帯。

何も言わずに俺は風紀委員室を出ようとした、が。


「猫田小豆」


「………………」


「また後で、な」


――…バンッ


乱暴にしめたドア。

口の中にかすかに鉄の味が広がった。

噛み締めた奥歯から滲み出る血。


俺は走り出した。


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