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「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「待てゴラァ!!」
俺は必死に走っている。
後ろから迫ってくる奴らから逃げながら、俺は足をひたすら動かさせた。
神田は追いかけてきた数人から必死に逃げる。
人気の少ない場所にいるのがやはり致命的か、誰もこの状況を打破してくれる人間はいない。
「っは、は、てっぺっ、はぁっ」
先程の哲平の姿が目に浮かぶ。
関係なんかないのに、自分を危険に曝してまで俺を助けてくれた。
俺の為に駆け付けてきてくれたんだ!!
なんとかしなければ、と神田の頭にはそれしか浮かばなかった。
呼吸法なんてめちゃくちゃだ。
そのまま走っていればどうなるかなんてわかりきっている。当然、
「っあ!」
中途半端に緩められたスラックスに足を取られて廊下で派手にこけた。
「っ~痛」
「はぁ、はぁ、やっと捕まえたぜ」
「ひっ!?やだやだやだやだやだやだやだやだやだぁあ!!」
「大人しくしとけば優しくしてやんぞ」
「そうそう、諦めろって。すくなくとももう一人よりはマシだぜ?」
ばたつかせる足を抑えつけられる。
俯けの状態で頭を掴まれ、頬を伝う涙が廊下に水溜まりを作った。
(いやだいやだいやだ助けて…助けて!)
「ひっく、うあっ、た…すけ……」
涙でぼやける視界の中、俺は必死に首を振った。
だけど腕を地面に押しつける男達は楽しそうに笑っている。
「ざーんねん!!」
男の手がバックルにかかった。
「や、あ…嫌だあああぁぁぁあああ!!!!」
最後の力を振り絞って俺はありったけの声で叫んだ。
誰か…誰でもいい……助けてくれ!!!
――…ガッ!
瞬間。
俺の上から重みが消えた。
「ぎゃあああぁぁっ」
「ヒッやめっガァッ!?」
「ぐァッッ」
次に聞こえてきたのは悲鳴。俺はゆっくりと瞼を開く。
「秋に何してんだテメェ…!!!」
白い手で俺を抑えつけていた奴の首をつかみあげる男。
そいつを見た瞬間、俺は崩壊していた涙腺が更に崩壊した。
「あっ揚羽!!」
いつも不機嫌そうな目が怒りに見開かれギリギリと相手を締め付けている。
「秋!大丈夫ですか!?」
「吟!」
ほうけていた俺の体を優しく抱き起こしてくれる。吟は俺の腫れた頬をなぞりながらあやすように抱き上げてくれた。
恥ずかしいけど腰が抜けてるから甘える。
「吟…
なんでここが…」
「情報屋から連絡が入りまして…本当に危なかった…!」
ぎゅ、ときつく抱きしめられて俺は少しだけ眉を潜めた。
「あっ吟!!仮眠室に哲平が居るんだ!俺の代わりにあいつらに…」
ハッ、とこんな事をしている場合じゃないと吟のシャツを握る。
「そうですか…大丈夫、俺達がちゃんと助けに行きます。だから今は寝なさい」
「あ、りがと…」
実を言うと安心したからか瞼が凄く重たい。
俺は吟の手に促されてゆるやかに意識を放した。
「おい、秋なんて?」
「ありがとうですって」
すうすうと眠る神田を抱えながら水城は微笑んだ。
敷島気がすんだのか血濡れの手をふいている。
「なんか他に言ってなかったか?」
「ええ、何も。早く戻りましょう」
そう言うと水城は仮眠室とは反対の廊下に足を進めた。
「何もね」




