危険
『メール?』
『ああ、だからメアド。なんかあったらメール送っから』
志摩は引き攣った顔で携帯をかざした。
『なんかあったらって…不吉すぎるだろ…できれば来ない事を願うよ』
志摩幸助のプロフィールを受信するとそのままアドレス帳に登録する。
――…ぱこん。
『まぁでも、三山の猫田への愛故の事だと思って了解』
『ところで志摩、久木にお前の全裸写メ送りてぇんだけど…『わああああごめんっ冗談です!!!』…最初からそうしとけ』
『横暴!!』
『デジャヴュだ』
そんなやり取りが一昨日。
本文を打ち込む余裕の無かったメールは空メールとなり、志摩に送信された。
「僕達がちゃんと写真、撮っててあげるから存分に楽しんでね」
「なっなぁ三山…俺達なにされるんだ…?」
薄い笑みを浮かべる相手に神田の震えた手が俺の手を掴んだ。
「……お前…生徒会の奴らに何も教えてもらってないのか?」
「え?あ、揚羽達はファンクラブの奴らは酷い事をしてるって…」
きょとん、と何もわからないような顔をしている神田。
思わず呆れて言葉も出ない。
(っざけんな無知にも程があるぞ…。)
汚い現実から目を逸らさせるつもりか、と苛立ちが積もる。しかし神田に非がないわけじゃない。
困惑している神田に向い哲平は冷たく言い放った。
「強姦されんだよ」
大きな目が更に大きく見開かれる。
「知らない奴らに強姦されて写真撮られて脅されて退学、そんな所だろ?」
冷たい視線をずらし、ニヤニヤと嗤う生徒達に尋ねた。
「寸分も違わないよ。その通りさ」
――…ガラ…。
「はぁいお呼びですかー?」
「あれっ一人だけじゃねぇじゃん」
ドアを開けて入ってきた柄の悪い不良達。
神田の顔が凍りつく。
「…D組の奴らか」
ジャラジャラと派手な装飾品が耳障りな音をたてた。
「志摩の友人をこんな目にあわしていいと思ってるのか」
「あ゛ぁ?アンチ久木派なんだよねー俺達。てめぇは好みじゃねぇけど神田は結構好みでさぁ!!まぁ志摩もいずれ、な」
べろ、と長い舌で渇いた唇を湿らす相手。
「ひっ」
神田の短い悲鳴を合図にD組の生徒達は一斉に飛び掛かってきた。
「やっやめろっ!!!」
甲高い悲鳴が響く。
神田は伸ばされた手から必死に逃げながら機敏に逃げ回る。
「ちょこまかしてんじゃっねェ!!!!」
「うわぁっ」
――…ガッ!!
鈍い音。骨と骨がぶつかった音と伴に神田な床に殴り倒された。
「チッ…!」
「おおっとお!お前はこっち」
――…ズンッ!
「か、、はっ」
後ろから伸びてきた腕に羽交い締めにされ、前の男の拳が鳩尾にめり込む。
せりあがってくる胃液を必死に下しながらギッ、と男を睨みつけた。
「……んだその目はよぉ!!!」
ふたたび衝撃。
口内に広がる鉄臭い味。
それを吐き出しながら悲鳴の絶えない神田に視線を向けた。
はじけ飛んだボタン。
ぼろぼろと涙を零しながら嫌々と首を振る神田。
(っあいつアレが抵抗のつもりか、よっ!!)
その姿は小柄な神田がやればやるだけ相手をただ煽るだけだ。
「お前もすぐにあぁなんだか…ぐふっ」
――…ゴリ…ッ!!
足の裏に肉の感触。
「その前にお前等は不能だな」
俺は目の前に立っていた男の股間を思い切り蹴り上げ、踏みにじった。
「あ……、ひ、ィ…」
「ってめぇ!!」
容赦なく何度も踏みにじったからかぐりんと白目を剥きながら失神した男。
哲平は素早くその場から飛びのくと神田の上にのしかかる生徒の襟首を掴み引き倒した。
「ふぅっあ、え…!?」
「ボサッとすんなのろま!!さっさと逃げるぞ!!」
「あ……っうん!!!」
腕をつかみあげてドアの外に押し出す。
神田の馬鹿力、意味なさすぎて笑える。
「っ早く捕まえて!!!」
「ま、ちやがれぇええ!!」
グンッ、
「っぐ!?」
神田がまた悲鳴を上げた。
後ろから伸びてきた腕に髪を掴まれた俺は外に出た体を強制的に中に引きずり戻されたのだ。
ぶちぶちと嫌な音が聞こえる。
「哲平!!!」
「っいいから早く行け!!」
ビクッ、と伸ばした手が震えた。
唇を噛み締めながら神田は走り去っていく。
それを数人が追いかけようとしたが小柄な生徒が引き止めた。
つかつかと足早に近付いてくると顔を上げさせられる。
――…バキッ!
「っ~よくもやってくれたね!!」
「……ペッ」
口の中に溜まった血。
床に唾液混じりの血を吐き出した。
綺麗な顔をした奴等に切れた口端を吊り上げ微笑む。
「バーカざまぁみろ」
「っっボロ雑巾にしてやって!!!」
殺意にぎらついた目に囲まれる。
次に襲い掛かってくるであろう痛みに歯を食いしばった。
「舐めやがって…てめぇは許さ、ねぇ!!」
――…ガンッ
「ぐっ」
血が飛び散る。
顔面を蹴り上げられる。ボタボタと床に落ちる血。
痛みに耐えながら志摩が早く気づく事を願った。




