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人ってもんはいつでも自分が一番可愛い。
自分より大切なものができるのは早々あるものじゃない。
自分が一番可愛い、それは悪い事じゃないしごく当たり前の事だ。
イジメを傍観する心理の根っこはまさにそれだろう。
だから当然のように俺も¨目の前のトラブル¨をみてみぬフリをしようとしていた。
「お前等は間違ってる!!そんなのっ悲しませてるだけだろ!?」
「僕達はあの方達が快適に過ごせるように掃除をしているだけさ」
「でも実際あいつらは悲しんでる!!」
「君は何もわかっていない」
仮眠室へたどりついた哲平は不快そうに眉を潜めた。
洗い流そうと来てみればこれだ。
しし座の運勢は今日は最低なのかと思わざるをえない。
「…ダブル過ぎてトリプルじゃねぇか」
仮眠室から聞こえてくる声は昨日の冷静な声と同じ種類のものだった。
という事は副会長のファンによる制裁だろう。
そしてもう片方の声は言わずもがな、神田だ。
実はあいつは制裁が好きなんじゃないか?と疑いたくなる。
「僕達はお前が疎ましい。生徒会の皆様に無条件で愛されて…僕達の方が何倍も好きなのに…っ…どうしてお前みたいな奴が…」
「俺だって揚羽や吟達の事好きだ!!!」
「…君は全くのイレギュラーだよ」
中でガタガタと激しく音が鳴っている。
俺は一度深くため息をつくと立ち上がった。
「…俺には関係ない」
大体強姦コースだろう。
巻き添え喰らうなんてごめんだ。
そう思い早々と前を通り過ぎようとした時だった。
一際大きな、そう。あの時のような馬鹿でかい声で神田は叫んだ。
「友達をなんて呼ぼうがお前等にはかんっけーないだろっっ!!!!!」
「「「「っっ」」」」
そのうちに窓割れそうだ。
何目指してんだてめぇはよ。
「友達の隣にいるのがそんなに悪い事か!!身の程知らず!?知らなくていいよそんなんっ!!」
思わず止まった足。
続いて聞こえた怒号に俺は息を呑んだ。
「そんなつまんねぇ事が友達になっちゃいけない理由になるか!!!!」
「!!!」
『こんなナリだからって友達になっちゃ駄目な理由になるの?』
ああ……これだから馬鹿は嫌なんだ。
小豆のへらついた顔が妙に何かを想うような顔で神田を見つめていた事を思い出した。
はらはらとこぼれ落ちる涙が綺麗だと呟いた事を俺は知
っている。
「じゃあ…見過ごす訳にもいかねぇ…か」
俺達が神田を嫌いなわけ。
言葉が通じないから。
子供だから。
馬鹿だから。
そして、恐れる事なく踏みこんでくるから。
周りも全て無視して真っ直ぐ進むから。
でもそれは全て嫌いな所であり、同時に羨ましい所でもある事を俺は知っていた。
(だから嫌いなんだ…クソ…。)
俺は戸に手をかけ、思い切り引いた。
馬鹿が真っ直ぐじゃなくなったらこっちの馬鹿がきっとどこかで悲しむだろう。
「………なぁんて、な」
真似してみたり。
随分焼が回ったようだった。
けたたましい音を立てて開いたドア。
「てっ……哲平…っ?」
「……悪いけど出ていってくれないか?見ての通り、シャワー浴びたいんだけど」
ドロドロの身体を見せてわざとらしく肩を竦める。
陳腐な芝居よりわざとらしい。
固まっていた生徒達は俺が誰だかわかるとキッと目を吊り上げた。
「三山…っ」
白い肌を紅潮させながら睨みつけられてもちっとも恐ろしいと思えない。
小さく鼻で笑ってやると怒りで拳が震えていた。
「理解できないか?でていけっていってるんだ」
神田より前に出て指を後ろで動かす。
「!」
思い切り開いたドア。
開けっ放しにされたドアを指さしながら「逃げろ」と手を振った。
が、
「っなんでそんな事言うんだよ!!!」
「「「「!!!??」」」」
「~~~~っ!?」
神田の突然の叫びに全員視線を神田に向ける。
当然俺の手が後ろに回っている事に気付いた奴らはギリッと歯を噛み締めた。
「あ…っ」
漸く気付いた神田は慌てて口を押さえるが時既に遅し。
(ありえねぇ…神田ありえねぇ…ありえねぇ…クソッ。)
俺は既に後悔の念にかられていた。
完全に選択を間違えた。
あの神田と馬鹿を重ねた時点でゲームオーバー決定してたようなもんだ。
「神田は予定外だったけど…そんなに後悔したいなら神田と仲良く鳴いてるんだね!!」
「っ誰が泣くか!!!」
「…そっちの泣くじゃねぇよ…はぁ」
果敢にも言い返す神田。
逆に煽るとも考えず、思った事を正直に口にだすその性格は今はマイナスにしか働かなかった。
(今更逃げれるか…?…
答えは否。逃げ道などとうに塞がれてしまっている。
そうなればするべき事は一つだった。
「頭のいい三山ならわかると思うけど…まさか僕達が相手すると思っていないよね」
噛み締められていた唇は朱く色付いている。
その微笑みは酷く妖艶だ。
携帯を開き、その画面を哲平達へと見える様にかざす。
光の反射した画面にはコールの文字と焦りを目に浮かべた自らが映りこんでいた。
―…とんでもない事に首突っ込んじまった…。
これじゃああいつにもう何もいえねぇな、と自嘲じみた事を考える。
口をすっぱくして言っていた「余計な事に首を突っ込むな」
自分が守れてなけりゃざまぁねぇ。
ポケットの中で開いた携帯。
送信、と決定キーを押した。




