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不穏

コンコン、と職員室をノックする。


授業が終わって放課後、俺は職員室の前に来ていた。


あれから、神田と最後に接触しから一週間ほど経っているが、特にこれといった問題もないまま過ごしている。志摩はちょくちょく教室に来ているようだ。

ただ日に日に顔色が悪くなっているらしいが、理由は定かではない。


俺はこれまでのサボりの罰として課題を受け取りに教室を出た。


哲平は一人でいる、なんとなく危ないかなとも思ったが見上君も一緒にいるから大丈夫だろうと思って放置してきたのだ。

ここ一週間、俺が見ている範囲ではまだ何もないから安心とまではいかないが、油断していた。


(沙希ちゃんもひいきだよねー…まぁひいきしない方が無理なんだろうけど。)


コンコン、と何度目かのノックで職員室の中から返事が返ってきた。それを合図に俺は中に入る。


「失礼します二年猫田です。プリントを受け取りにきました」


「ん?おお、猫田猫田…っとあったあった」


コーヒーを飲んでいた教師は沙希のデスクからプリントの束を手に取るとそれを小豆に手渡した。


自然と俺には苦笑いが浮かぶ。


一日休み、何時間か抜けただけにしてはやたらと量が多い。

軽い嫌がらせが含まれてるだろうな、と俺は思った。


「失礼しました」


―――ガララ、ピシャン


さて、来た道を戻るか、そう思って体を反転した俺は意に反して動きを止めた。


「あっれぇ猫田小豆だぁ」


「わー……」


目の前の、軟体動物。

もとい、


(なぁんで不良が職員室になんかきてんだぁ?)


佐藤都留。


――くにゃにゃ、ふにゃふにゃ、へらへら。


異常に柔らかい体が力なく動いている。

いくら脱力していても体はそんな事にはなんないと思っているのだが、どうやら佐藤はなるらしい。


「猫田ぁ小豆~長いよねぇなぁんて呼ぼーかぁ?」


「なんでも」


正直名前で呼ばれようが苗字で呼ばれようがさして変わりは無い。


ゆらゆらと揺れる体。


佐藤都留はへにゃー、と気のぬけた笑みを浮かべるとぽつりと呟いた。


「じゃあねぇ、にゃんこは?」


「嫌です」


「なんでぇー可愛いのにぃ」


「いや、可愛いから嫌なんじゃん」


へっ、と笑いながらぴしゃりと撥ね付けると少し意外だったのか佐藤都留は眼をまぁるくした。


「へぇ本性ばれてる相手には普通なぁんだぁ?」



「まぁ、相手に

もよりますけどねぇ」


へらりと笑う相手に釣られて俺も気のぬけた笑みを浮かべる。

だがあくまで浮かべただけだ。別に楽しくて笑っているわけじゃあない。


「んでぇ~おなかの調子はどーですかぁ?」


「腹?」


揺れるのはしだいに体だけじゃ収まらなくなってきたらしい、頭がかすかに揺れる。


その揺れに便乗してちょんまげも元気良く右往左往していた。


――――ズイッ


「う、おっ」


「おなかぁ、蹴ったでしょお?落ちたでしょお?」


軟体動物と思えない速さでぐっと距離をつめた相手。

俺は反応できなくてそのまま腰を引かれた。



下半身密着、この上なく不快だ。

すぐ近くに綺麗な顔がある。


ぴったりとくっついた下半身。佐藤都留の手が腹を撫でた。


「…痛いにきまってんじゃないですかー、俺喧嘩なれなんかしてないし?」


「だよねぇ~でも喧嘩できないこともないんじゃないのぉ?」


「そりゃあ俺も男だし出来ないって事もないすけどー…痛いの嫌いなんでねぇ」


たれた目が俺を一心に見つめる。フィニ先輩とはまた違った綺麗な目に俺はほんの少しだけ見とれた。


(まじでここ顔いい奴ばっかだよなぁ…ちょっぴりへこむかもー……なんて。)


両腕ごとホールドされていたわけだが、そこはなんとかもぞもぞと動いて相手の体を押しのける。


力を込めていなかったのか、案外簡単に佐藤都留は離れていった。


「じゃあさぁあんまり手出さない方がいいよ~」


「?」


ふらりと離れていった佐藤都留は猫背気味の背をトンッ、と壁に預けた。

見上げるようにこちらを見つめる目。


「竜也の機嫌ずっと悪いしー」


その言葉でああ、志摩の事かと理解した。


「どこに隠してんのかしらないけどさぁー、舎弟君は竜也の中でもう大切なものになっちゃってるから?」


「うわー俺危ない」


ふざけるようにへら、と笑えば佐藤都留は方眉を上げた。


「そこらへんは大丈夫じゃない?舎弟君と『むやみに喧嘩をしない手を出さない』って約束してるらしいからねぇー」


「つっまんない約束~くだらないよねぇ」と今までの中で一番ニヒルな笑みを浮かべる相手に俺はふ、と疑問に思った。


(そういえば…軟体動物…じゃなくてこの人志摩の事名前で呼ばないよなぁ。)



舎弟君。


愛称、というわけでもない気がする。そして今の言動。


「佐藤様さぁー、志摩の事ぶっちゃけ好きじゃないでしょ」


妙に確信を得たそれを口にだして言ってみると、これまた妙な感覚だった。

佐藤都留は志摩を庇うような事もしていたし、可愛がっているようなこともしていた。


俺は志摩みたいに相手の雰囲気や目で色々悟れるような超人じゃないわけだから、その理由はわからないし第一どうしてそんな事を思ったのかも分からない。


だが気付けばそういっていただけの事。


佐藤都留はうろたえるわけでもなく、焦るわけでもなく、いつもと変わらない気のぬけた笑みでふにゃふにゃと笑っているだけだ。


「なんでそう思うのー?」


「いやなんとなく…そういう生暖かいもん好

きそうじゃないなぁって」


フィニ先輩は俺とこのぶっとんでる奴が似てるといった。


一番世界に絶望している。


そんな大層なもんじゃないだろう、と思ったりしてみるけど、どこか食えないタイプのフィニ先輩の真意はわからない。


「まぁ一言で言ったら、超現実主義者の佐藤様に志摩とか神田の言う事は信用できない戯れ言に聞こえるんじゃないかなぁって思いまして?」


俺には戯れ言に聞こえるわけじゃないけど。

ああ綺麗だなぁとも思う。だがただ、それだけだ。


「ぶっ!!くふっふっあはっあははははははははは!!!」


突然、軽快な笑い声。

誰もいない廊下に高らかな笑い声が響いた。


職員室には絶対聞こえているはずなのに、声がぶっちゃけ怖いから誰一人として出てこなかった。


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