第7話 態度
焚火に照らされた、二つのシルエット――馬? いや、人が乗っている。
馬に乗った、二人の人間だ。
俺は、躊躇なく男の首を跳ねた騎手の事を思い出し身構えた。
恐怖で体が強張る。構えた鉈の刃先が震えているのが分かる。
クソっ! これで身を守れるとばかりに持ってきたものの、まるで無意味だ。
人を殴った事すらないのに!
せめて、せめてもの威嚇に、ならないだろうか?
それとも敵愾心を煽る行為自体が悪手だろうか?
態度を決めかねている俺をよそに、馬上の二人は何事かをこちらに語りかけながら、馬を降りた。
やはり何語かすら分からない。
一人は馬の手綱を取り離れて行ったが、残された一人は躊躇する様子もなく焚火に近づいた。
俺は、焚火を間に挟むように動く――手には、震える鉈を構えたまま。
「xxxxxx、xxxx?」
――この、声は。
「xxx、xxxxx」
話しながら近づく、白いフードの中に覗く顔――女だ!
それも、おそらく若い。
その女は、フードを外しながら焚火に近づき、そして焚火を指差した。
情けないのは承知だが、正直言って安堵した。
表情から敵意は読み取れない。
いきなり首を切られる事はなさそうだ。
……しかし、デカい女だな。175センチある俺よりも、尚視線が高い。
外套に隠れてはいるものの、体付きはいくらか華奢に思える。
相手が若い女であれば、最悪逃げ出すくらいは――どうすべきだ?
俺は、相手の顔と、その足元にある(死体から拝借した)俺の雑嚢とを、見比べた。
「xxx、xxxx」
迷っている内に、もう一人が戻ってきてしまった。
馬を繋いできたのだろう。
これは――男だ。やはり、若そうに見える。
実の所、外国人の年齢など予想も付かないが。
男も、女に声を掛けながら焚火に近づき、炎を指し示した。
――これは、焚火に当たらせろとの意か? それとも火事を危惧しての苦情か?
少なくとも襲われる事はなさそうだと踏んだ俺は、最大限に友好的な態度を示す事にした。
『良かったら、どうぞ。プリーズ?』
声を掛けながら鉈を下げ、手のひらで焚火を示す。
俺の発言に二人は顔を見合わせたが、どうやら通じた様だ。
女は明らかに安堵の表情を浮かべ、二人は火の傍に腰を降ろした。
俺も二人に続き腰を降ろしたが、警戒心から鉈を手放す事は出来なかった。
一先ず、様子を見るより仕方ないだろう。
失礼にならない程度に目を逸らしながらも、俺は二人を目の端で観察した。
――女。
年は若く、おそらく二十歳以下。
背は高く細身。
フードのついた白い外套。
中にも同様の白い厚手の衣服。
足元は脛まで覆うブーツ。
背中には……杖か?
衣類に複雑な刺繍飾りが見えるが、工業製品には見えない。
やはりどこかの未開、もとい伝統的な暮らしを営む民族か。
もし街中で見かければ、白魔導師か何かゲームキャラのコスプレだと思うだろう。
そして――そして、驚く程の美人だ。
いや、美少女と言うべきか。
肩まで流れる艶やかな赤毛。
大きな瞳。柔らかそうな、ふっくらとした唇。
鼻も、眉も、各パーツのバランスが絶妙だ。
言葉が通じないのが、悔やまれる。
――男。
年の頃は同様。
以上。
……いや、正直に言って興味が無い。
いやさ、男の存在が気にならぬ程、女は美しく、可憐で、愛らしい顔をしているのだ。
さりとて無視はできない。
状況を鑑みれば、むしろ注目すべきはこの男だ。
硬そうな革の上衣。
胴を守る薄い板金鎧。
腰には――剣だ。
嫌が上にも、首の飛んだ男が思い出される。
「xxxxx?xxxxxx?」
女は俺に話し掛けるが、なんの返答もできず仕舞いだ。
しかしこの友好的な態度を逃す訳にはいかない。
異文化交流を、試みるべきだろう。




