表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

第5話 再び、獣道

 獣道から50メートル程離れた森の中。

 しゃがみ込んで革袋の栓を抜く。

 手のひらに中身の液体をひと滴垂らす。

 すんすんと匂いを嗅ぎ、俺は恐る恐るそれを舐めた――水だ!


 革袋に口を付け、ぐいと煽る。

 潔癖症ではないものの、普段ならこんなもの絶対にお断りだろう。

 しかし今は状況が状況で、贅沢は言えない。

 革の匂いが染み付いたぬるい水が喉を潤す。

 あぁ、生き返る様だ……。

 俺はもうひと口水を煽り、おもむろに雑嚢を漁り始めた。


 雑嚢からは、布に包まれたひと塊のパンの様な何かを見つけた。

 同様に布に包まれた、饐えた臭いのする何か。

 そして、数枚の干し肉。

 何とか命を繋げる事が、できそうだ。

 持ち主であった男二人の事を想うと胸が痛むが、緊急時だから、緊急避難だから、と自分に言い聞かせる。


 堅く焼きしめられたパンと何の肉かも分からぬ干し肉でようやく人心地が付くと、改めて疑問が頭をもたげる。

 さて、結局ここは何処なんだ?


 外国であるのは間違いない。

 対峙した男達を見ても、果たして何処の何人かなど、知れる事ではなかった。

 アジア系では無い。黒人でも無し。なら中東か、南米か、ヨーロッパ?

 しかし刃物を持った野盗など。

 そして、馬に剣。

 どちらも近代文明からはかけ離れた格好をしていた。

 有り得るとしたら、どこかの伝統的少数民族自治区といった所だろうか?

 なら、何故俺はそんな所に?


 隣国からの拉致という線ではなさそうだ。

 俺は思い付きで旅行に行き、旅先で何かに巻き込まれ(または誘拐され)、そして事故で記憶を失った?

 それなら、有り得る気がする――であれば、探すべきは大使館だ。


 目的を得て腹も満たされた俺は気が大きくなり、それでも周囲に気を配りつつ獣道に戻る事にした。

 茂みから辺りを見回す。動くものは、無い。

 さっきの騎手はどこかへ去ったのだろう。

 俺にできる事と言えば、結局はこの獣道を進むよりない。

 しかし、その前に。


 斃された男に改めて目を遣る。

 死体なんてものを見るのは、今日が初めてだ。

 通勤途上に電車での人身事故に遭遇した事はあれど、俺はその痕跡を視界に入れることさえ厭うて、いっそその場から離れる事が常だった。

 当然だが、首と胴とが離れた肉体は、動かない。

 じいと見下ろし『ご愁傷様です』と両手を合わせる。

 俺の命も危険に晒されたとはいえ、既に死んだ人間に罪はない。

 そして…死体の持ち物を持ち去るなど、正直気味も悪いし後味も悪いが、今はそんな事を言っている余裕はない。


 俺は、死体の手に握られていた刃物――酷く錆の浮いた鉈、のように見える――を剥ぎ取り、手中に収めた。

 続けてもう一人。やはり同じように手を合わせ、腰に差したままの短剣――刃は無く、刺すことにしか用途はなさそうな――を抜き取った。


 まるで、羅生門だ。

 いつかこの行いへの罰が下るだろうか?


 自らの行為に後ろめたさを感じながら、俺は先へ進む事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ