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第3話 遭遇

 道の先。茂みの向こう。

 誰かの気配を感じ、俺は木陰に隠れた。

 今、かすかに人の話し声を聞いた気がする。

 いや、話し声というより、もう少し語気の強い――罵り声?

 とにかくは、人だ。助かった!

 しかしこの気配の主が俺を誘拐または監禁していた関係者ということもある。

 このまま出て行って大丈夫だろうか。


 小屋から持ち出した棒切れが無い事に気付く。

 昨夜眠った木の根元に置いたままだろうか。

 身を守るせめてもの武器に、なったかも知れないのに。


 頭の内から来る警告。

 飢えと渇きから来る諦観。

 ようやく人に会えた事による安堵。

 結局俺は、茂みの中を静かに移動し、せめて相手に気取られぬよう目視できないかと試みることにした。


 ひとつ、思い当たることがある。

 隣国等による拉致被害という事は、有り得ないだろうか?

 隣国からの脱走者の話を元にフランス人作家が描いた漫画――バンドデシネを読んだことがある。

 過酷な状況に置かれた人々の暮らしを描いた作品だ。

 例えば俺が拉致されて、収容所での強制労働に従事し、その果てに逃げ出した、というのは? とすればこの格好にもまだ納得が行く。


 俺が着ているこのボロ切れを縫い合わせたようなシャツとズボン。

 それに革を縫い合わせて木の中敷きを入れただけの靴。

 これらに、最初から納得がいっていないのだ。

 どう見ても工業製品ではないこれら衣類。

 今このご時世、手縫いでこんなものを作って着せる意味がわからなかったのだ。

 手製であれば、いっそ手間も暇も金もかかる。

 着替えさせる必要があるにせよ、量販店で安く買ったものを着せておけば良いだけの話。

 しかし、もしここが、そんなものの存在しない、隣国またはどこかの途上国であれば?


 やはり直接対峙する事は避けたい。

 こちらから一方的に観察する事ができれば、状況を掴むヒントになるやも知れない。

 友好的か敵対的かも、ひょっとしたら判断できるのでは。

 俺はそう考え、そろりそろりと声のする方へ、茂みの下から近づいた。

 幸い、風の音が俺の居場所を隠すだろう。


 声の主は、男が二人だった。

 様子が伺えず、ほんの10メートル程の距離まで近づいてしまった。

 男達は、向き合って何事か話している。

 彼らの服装等から、何か判断は――。


『外国かぁ~……』俺は頭の中で項垂れた。


 ボサボサの長髪。手には――刃物?

 そして、二人とも薄汚い外套を羽織っている。

 国内で見るような出で立ちではない。

 そうか、外国か……。

 ばったりと山菜取りの老人に出会い、『あらあら、大変だったねぇ』などと声を掛けられるのを期待していた俺は、絶望でつま先から力が抜けていくのを感じた。


 バランスを崩した俺は、よろけるままに獣道へふらつき出てしまった。

 それに気付き男二人がこちらに視線を向ける。

 しまった! が、時既に遅し。完全に、捕捉されている。

 男達は一瞬互いに顔を見合わせたが、直ぐにこちらに向き直り、一歩、二歩と俺に近づいてきた。


 これはもう、コンタクトを取ってみるより他にない。

 俺はよろよろと立ち上がり、男たちに近づきつつ声を掛けた。


『こんにちは。すみませんが、助けて頂けませんか?』


 男達は不思議なものを見る目つきでこちらを見ている。

 そりゃあ、そうだろう。まさか通じるとは、俺も思ってはいない。


『エクスキューズミー?プリーズ、ヘルプ!』


 男達の表情は変わらない。駄目か?通じないのか?


「xxxx!xxxxxxx」


 男の一人が俺に向かって何かを発したが、それが何語なのかも分からない。

 アジア系ではない気がするが、彼らが何人なのかも、俺には判断がつかない。


「xxxxxx、xxxxxxxxx!」


 もう一人も声を上げるが、同様だ。

 彼らは、手にした得物をこちらに向け、じりじりと俺に向かってにじり寄ってきた。


 その時、彼らの元居た場所にもう一人の存在がある事を知った。

 ――倒れている。仰向けに。

 喉元を切り裂かれたのか、大量の流れ出た血と共に。


 ヤバい。マズい。倒れている人物は、誰が?

 当然この男二人だろう。手には刃物らしきものを持っている。

 自らの行末を想像して血の気が失せる。

 動悸が早まり、背中にじっとりと汗をかく。

 逃げ出そうにも、膝が笑ってしまいその場を動けない。


 これはヤバい。

 よく分からん外国でよく分からん外国人に殺されて俺は終わるのか?


 男達は尚も俺に近づく。俺は力なく両手を挙げる。


『ウェイト!プリーズ!』


 残された距離は、数メートル。

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