No.無 回帰速度
うーん。どう言ったもんか…。俺は今、半壊した建物の中で女性と二人っきりである。…やっぱり犯罪感が半端ではない。これは通報されてもおかしくない。このシチュエーションを作ったのが女の方だと言っても信じてはくれないだろう。真白の肌、白濁とした髪色、触れれば崩れそうな身体。対して少し日に焼けた肌に真黒の髪、細いが筋肉質な身体。確実に疑われる。服装もどことなく怪しい。黒いパーカー、黒のズボン。どっちも黒。うん。怪しい。俺がこの状況を見かけたとしたら迷わずに110番だ。迷う必要などない。絶対にいかがわしい事がおきそうだ。ただ、1つおかしい事がある。どこかと言うと、男の方は上半身裸であり、女の方は男の上半身を触っている。うん。とりあえずやばい事は分かってくれたかな。
30分前…
「待ちくたびれましたよー。まぁ、お楽しみだったようなので仕方が無いですね~。」
「あの、勘違いしてるようなんですが」そんな事より秀一さん。」
被せられた。まぁここからお説教タイムになるな。流石にこの歳まで兄妹二人で風呂に入っているのはやばいもんな。倫理的にも法律的にも。
「何でその致命傷で生きているんですか?」
「…はい?」
「だから、肺と骨ですよ。何で潰れてるのに普通に動けるんですか?」
風呂の事はお咎め無しなのか。良かっ
「勿論お風呂の事も後で聞かせてもらいますよ?でも、それよりこっちの方が重要です。」
お咎め有りの様です。この歳になって同じ位の歳の女の子に説教されるのか…。とかは今はいいのだ。怪我のことを分かってる?何故だろうか。マッサージをした時には触っても違和感がないくらいには骨の仮止めは出来ていたはずだし、それに肺なんて体を触った所で分からないはずだろう。何故わかるのだろうか。
「質問に質問で答えないでくださいね。答えた後に質問してください。」
心の中、身体の髄まで見通されている。凄くやりずらい。
「そういうものだから、なんですけど…?」
「…きっかけとかないんですか?」
「うーん…。」
「例えば、何かに祈ったとか…。」
「…あぁ。」
「思い当たる節が?」
「ないことは無いんですけど…」
「?」
「ある訳でも無いんですよね。」
いや、本当に。思い当たる節が無い訳では無いのだ。ただ、あれを思い当たる節といってもいいのかわからない。
「どんな些細なことでも良いんです。」
「…分かりました。」
「あれは…12年くらい前の話です。その日僕は木登りや隠れんぼ、サッカーなどをして遊んでたんです。その日は天気が良く、体を沢山動かして遊びました。
「木登りでは誰が1番高いところまで登れるかを競い、隠れんぼでは、誰が1番最後まで隠れることが出来るか、サッカーでは人数を同人数に分けて、試合をしました。小学生がやるサッカーです。ルールなんて有って無いようなものでした。
「隠れんぼの後、隠れていて動かなかったので、次は体を動かす鬼ごっこをする事にしました。鬼を決めるために、ジャンケンをしました。その時の鬼は僕でした。
「小学生の時の僕は加減を知らず、元気いっぱいに動いていました。100m走10秒位でした。そのフルスロットルで走り続けることも出来ました。なので鬼になった時は、6人全員捕まえてやる!と意気込んでいました。
「が、それは叶わぬ願いとなりました。僕は小学生です。体が100m10秒で何時間も走り続けるという過労に耐えられるわけがありません。足の骨が折れてしまいました。
「しかし、周りの一緒に遊んでいた子達はもう結構遠くへ逃げてしまったのか、姿が見えません。助けを呼ぼうにも助けてくれる友達がいません。
「その時、偶然通り掛かった女子高校生が居ました。僕は藁にもすがる思いで助けを求めます。
「僕に気づいたのか、近くへ寄ってきてくれました。救急車を呼んでくれました。そして救急車が来るまでの間、声をかけ続けてくれました。とても優しい人でした。
「救急車が来ました。僕は救急車で運ばれました。ただ、遊びの途中だったこともあり、一緒に遊んでいた子に病院へ行くという事を伝えなければならないと思っていました。
「でも、その女の人が、私が言ってくるよ。と言ってくれたのでそのまま任せました。今思うと何故鬼ごっこをしていた事を知っているのか。疑問でしたが、そのまま任せました。
「その女の人は僕が救急車に乗る前に、骨折が早く治るようにと御守りをくれました。大切にしようと思いました。
「ただ、さすがやんちゃ小学生。入院十日目にその御守りを開けてしまいました。お守りの中身は気になるものです。が、入っていたのは紙切れ1枚。
「その紙には名前が書いてありました。地平終虚を受け入れろと。
「…で?」
「いや、ここで終わりなんですけど…」
「ふぅん…。で、地平終虚さんには未だに会えていない、と。」
「?確かに会えていないですけど、何で知ってるんですか?」
「…話し方で解りますよ。会えていたらこの話は特に不思議な話ではないですよ。」
多少の異常事態は起きてはいますけど。と、幽さんは付け加えた。多少の異常事態?何かあったか?と考えると、考える暇もなく幽さんは話し始める。
「怪我は今はどうなんですか?」
「骨は順調にくっついて、肺もまぁ再生してきてますよ。」
「…触診しようか。」
「え?」
「自分でわかるものでもないでしょ?だから診察と触診をします。上を脱いでください。」
「?…はい。」
確かに自分の体は自分でわかるものでもないだろう。分かる所がないとは言わないが、他人に見てもらった方が良いに決まっている。
で、こうなったのか。犯罪の香りが凄いです。…良く考えたら何でそんなに簡単に脱いだのだろうか。気心も知れておらず、まだ会ってから1週間も経っていない。無防備すぎるし馬鹿みたいだ。気を付けよう。
ってかめっちゃ触り方が艶かしい。押すとか叩くとかではなく、うっすらと触れて撫で回す感じだ。変な声が出てしまう。擽ったくて。あ、何人か絶対変な意味でとっていだだろ。別に触り方が艶かしい位では興奮しない。
はいそこ不能とかいうな。勃つときは勃つ。…なんてことを言わせるんだ。
「…成程。」
「ん?どうしたんですか?」
「いや、筋肉質だと思いまして。」
「下心満載で触ってる!?」
「違いますよ~触診ですって~。」
あの時人のことを欲求不満って言っていたのに自分が欲求不満なんじゃないのか?
「まぁ分かったことは普通の人間なら1ヶ月の分を1週間も経たないうちに治してることがわかりますね。…どちらかと言うと戻っている感じですね。」
「戻る?回帰してるってことですか?」
「まぁ、そんなもんですよ。」
さて無駄話はここまでにして。と幽さん。
「兄妹は10代でも一緒にお風呂に入るんですね~。」
「え?何のことですか?」
いきなり来たな。説教。まぁそのまま認めるよりか悪足掻きしてワンチャンの許しを請おう。
「とぼけるって事は疚しい事をしている意識がある上でやってるんですね~。」
悪い方向にシフトした。
「いや、その、普段は違うんですよ?」
「でも今回は一緒に入っていたと。」
「…はい。」
「その時点でおかしい事ですよ。funnyじゃ無くてcrazyです。」
「はい。反省しています。」
「じゃあ私とも入りましょう。」
「はい。…はい?」
「はい、決定ですね。」
「え?ちょつまとて!」
驚きすぎて噛んでしまった。
「ちょっと待ってください!え?入る?何にですか?」
「お風呂ですよ?」
「入りません!」
「約束破るタイプなんですね~。」
変なレッテルが増えていく。約束を破る優しすぎる変態。やばいやつだ。
「…ふふっ。」
「?」
「冗談ですよ。」
「…はぁ。」
「流石に疲れました?」
「まぁ、紛いなりにも人なんで。」
「…。」
頬にキスをされた。うん。なんで!?な、え?あ、ん?と、思考回路が覚束無い内に幽さんは話し始める。
「代わりです。」
「────────────────」
「私苦手なんですよ。感謝の言葉とかは。」
「───────」
「なので、キスに変えさせて頂きますね。」
そっちの方がハードル高くないか?会ってまだ数日の人の頬にキスをする方が。そんなことを考えながら、結局家に着くまで思考回路はまとまってくれなかった。
後日談というか次回への布石。
人数の差異には気づいたでしょうか?
評価よろしくお願いします。
酷評でも的はずれでなければ嬉しいです。