No.弐。平との約束。そして劣の重い思い。
風呂を上がり着替えてリビングに向かうと平が待っていた。いや、友達の家でくらい正座で微動だにせず待つ。なんていう礼儀を崩せばいいのに。僕だったらスマホ弄りながら胡座かいて待つぞ。
「んで、どうしたんだよ平。」
「実はさ、今日からさ…」
「なんだよ。変にためて。何かあったの──」
「春休みでーす!」
…
「お帰り願いまーす。」
「えっ?」
「もう一度言おうか?お帰り願います。」
「なんで?!」
「そんなしょうもない事のために風呂まで入って来るか普通!」
「待った!まだ話あります!聞いてください!」
「…何だよ。またしょうもないこと言ったら通報するからな。」
「えっ?通報?」
こいつ自分のした事覚えてないのか…?
「勝手に家に上がり風呂まで入るのが犯罪じゃなかったらなんだって言うんだ…。」
「何だよー!お前だって冬休みの時に思いっきり俺の家に不法侵入してたじゃん!」
「あ。」
忘れてた。冬休みの時はだいぶ世話になったからな。流石に恩を返し忘れて変な所で恩返し求められても嫌だしな。
「…分かったよ。話聞くよ。」
「まじで?やた!じゃあ話すね。」
と言ってポケットからスレンダーマンさながらの身長の男の写真を取り出した。
「誰だこれ?」
「あ、間違えた。スレンダーマンの写真だわ」
「お前話聞かせる気あるの?」
「あります!待って下さい!わんもあちゃんす!」
「次はないぞ。」
「はい。」
しっかりと確認しながらポケットから取り出した一枚の写真には高校生が写っていた。
「間違いじゃないな?」
「うん!今度は間違ってないぞ!」
「ふーん…この子がどうしたんだ?」
「この子、何か不思議な子なんだよね…。」
「何が?」
「…違和感があるっていうか、既視感というか。」
「そう言われると、まぁ、確かに。見た事あるような気がしないでもないな。他人の空似じゃないのか?」
「うん。かもしれないんだけどさ…実際に会ってみるつもりは無いか?」
「は?」
「実はこの子少しこの街で噂になってるんだ。」
「どうしてだよ。」
「みんな口々に『見た事あるような気がする。』って。」
「ほう。」
「でさ、偶然昨日会うことが出来てさ。この辺で待ち合わせして会うことになったんだ。」
「一人で行けよ。なんで呼んだんだ。」
「あの、さ。底の見えない沼というか、下の見えない崖というか。要するに不信感が有るんだよ。少し怖くてさ。」
「で、僕を呼んだ、と。」
「それもあるんだけどさ、その子が『億山さんも一緒に来て頂けるとありがたいです。』って。」
「ふうん…?」
何故僕の名前を知っているのだろう。その言葉に不信感というか危なさを感じた。平の言っていることは理解出来る。
「…もう1人連れて行きたい奴がいるんだけど良いかな?」
「え?まぁ、いいと思う。」
何故か嫌な感じがする。こういう時は劣を連れて行ったほうが良い、気がする。
って言うかあいつ服どうしたんだろう。上がった時見たらあいつの分の着替えなかったから一応僕の置いといたけど。服を着ずに歩かれても困る。
「取り敢えず後で合流するから待ち合わせ場所教えてくれないか?」
「ん?あぁ、場所は──」
「おーい、劣?」
「はいはい?」
「一緒に外行かない?」
「…え?」
「いやだから一緒に外行かない?って──」
「デート!?」
「は?」
「いやー!とうとうデートする日が来たのか!」
「いや、あの」
「いきなり言われても着る服に困るなぁ~。」
「待て、劣、違う。」
「ん?」
「デートじゃないし、平も一緒だ。」
刹那、僕の喉元に冷ややかな感触が来た。さすがに平と一緒は堪えるか。冬休みの事もあるからな。
「平…だっけ」
「なんだよ。」
「あいついつも私の邪魔する。」
「おう、そうか。」
「何でだろ」
「知らん。」
「殺っていい?」
あー。来てますね。若干メンヘラ来てますね。答え間違ったら平と俺が死にますね。うーん。どうしたもんか。
「僕は死にたくない。」
「うん。」
「あいつも死んで欲しくない。」
あー欲張っちゃった。少し力入ったしな。やっぱここで死ぬのかな?ただ僕は最善策じゃなくて結果しか見てないからこんな風に対応してしまっているのだろう。
「そしてお前にも殺して欲しくない。」
「…」
「覚えてないだろ。僕が言ったこと。お前が誰かを殺したらお前を殺して僕も死ぬ。
そういうことは絶対にしない。
お前を殺して僕は平穏に生きる。って。」
「…覚えてるよ。」
この線引きをしなければこいつは絶対に殺しを、僕は他人への必要のない嫌悪感を抱き続けるのだろうな。今の所は何故か言う事は聞いてくれているしどちらも安定している。何故なんだろう。いつの間にこんな関係が出来ていたのだろうか。まぁ、そんなことを考えているうちに劣はナイフを下ろしてくれた。
「覚えてるならいいや。今度からはナイフ危ないからやめろよ。」
「…うん。」
「分かればよろしい。まあ気分を害したようだし。行くのか行かないのかは自由でいいよ。」
「秀の方が覚えてないじゃん。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや。」
さすがにこの流れで無理やり連れていくのは酷だと思い、選択肢を作ったのだが。なんか悪いことをしたかな。とか女々しく考えていると
「…しょに…く」
「ん?」
「一緒に行く!」
そう言ってくれた。平が嫌いなことを知った上で頼んだ事に何かがありそうだということを感じてくれたのだろうか。
「…そうか。じゃあはやく用意しな~」
「うん。んで、服ある?」
…ん?何だろう嫌な感じがするぞ?さっきシリアスシーンだったじゃん。ちょっと昔の伏線作るシーンだったじゃん。おい作者。
「着替えたい。」
そう言うといきなり脱ぎ始めた。嫌な感じは当たるものだ。おかしいなぁ?こいつの服が俺の部屋にあるわけないのに着替える?そして目の前で脱ぐ?しかし僕も対策しないわけがない。風呂の二の舞になってしまわぬよう、一瞬で目を逸らした。マジですぐ見せびらかそうとしてくるな。
「目の前に人がいるのに着替えるのやめてもらえません?」
「…あ」
「え?」
「うあぁぁぁあぁああぁぁあ!忘れてたあぁぁぁあぁああぁぁあ!」
あ、これ純粋に天然でやったな。
「出て!でてって!」
「僕の家なんだが!?」
「いや!今だけ私の家!」
「理不尽!」
っていうか天然は恥ずかしいのか。風呂は裸で来たくせに。
まぁ僕はジェントルマンだから。しっかりと部屋から出た。え?ジェントルマンじゃなくても出るって?いや、ジェントルマン。僕はジェントルマン。まぁ暇潰しに占いでも見とこ。とか、ちょっとお菓子食べよ。とかしてる間に、
「着替えおわたよ~」
という声が聞こえたので
「おーじゃあいくぞ──」
という受け答えをしたつもりだったのだが、多分最後まで言えてなかっただろう。正直見蕩れてしまった。僕の服を完全に着こなしてて普通に驚いたのもあるが。僕の身長が大体185cmで劣が160cm位かな?そのはずなんだけどなぁ。ダボッとした感じのファッションとして滅茶苦茶上手に着こなしてる。びっくり。
「どしたの?」
と、言う声で我に返り、
「…ん?あぁなんでもないよ。じゃあ行くか。」
という少し調子の悪い返事になってしまった。
「おけーい!ってかどこ行くの?」
「あぁ、確か…北極学校って聞いたよ。」
「え?北極行くの?」
「あぁ、名前がそれなだけでここから南に500m位にあるらしいぞ。」
「?、?何で南に北極?」
「さあ?まぁ行こか。」
「…まぁいっか。」
そこで大変なことに気づいた。
「あ。」
「ん?」
「実は5:30には着くって言ってたんだ。」
「ふーん。」
現在時刻5:28。チャリで言ったら遅刻確定である。
「走っていこう。」
「えー。疲れちゃう~」
「流石に平以外を待たせるのは気が引ける。」
「…分かったよ。」
「ごめんな。」
この受け答えの時間で29分になっていた。
ということで僕達は全速力で南の北極学校へ向かった。
ちょっと暗めになった感あるけどゆるちて。
ギャグみたいなタイトルになっちゃったけどそれもゆるちて。
意見お待ちしております。