朝、剣術指南
朝の06:00頃―――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
結局、俺は一睡も出来なかった。何故かって?ははっ、そんなの決まってるじゃないか。
俺の両腕に抱き付いて眠っている、こいつ等が原因だよ!!
「すう・・・すう・・・」
「むにゃ・・・・・・」
二人とも俺の腕に抱き付き、幸せそうな寝顔で眠っている。何故こうなった?思い返してみる。
あの後、俺はマヤをアイと一緒にベッドに寝かせ、自分は椅子に座ってのんびりコフィーでも啜っているつもりだった。其処までは良い。其処までは問題無いんだ。しかし―――
気付けば、俺は二人に抱き付かれてベッドに寝ていた。理解出来ねえ。どんな超常現象だよ!?
二人は相変わらず、幸せそうに眠っている。まったく・・・。
「おい、二人とも・・・・・・そろそろ起きろ」
「んっ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・くー」
安らかな寝息を立てて眠る二人。更に、俺の腕を抱き締めてくる。
瞬間、ぷつんっと俺の中で何かが切れた。
「・・・・・・・・・・・・おいっ」
「「っ!?」」
かなりの殺気を籠め、二人を強制的に叩き起こした。びくっと同時に飛び起きるアイとマヤ。
そんな二人に、俺はとびっきりの笑顔を向ける。中々良い笑顔だと、自分でも思う。
「おはよう、二人とも」
ガクガクと怯える二人。んー?何を怯えているんだ?そんなに、俺がコワイカ?
「ひっ!!」
「っ!!」
更に笑みを深めて笑ってやると、びくっと二人揃って震えた。ふふっ、そんなにオビエルナヨ。
結局、二人は俺の怒りが収まるまで怯え続けていた。やれやれ。
・・・・・・・・・
朝食を食べ終え、庭に出ると其処には木剣を手に素振りをするジャックが居た。
ふむ、木剣の握り方は悪くない。素振りもある程度様になっている。しかし、姿勢が少し悪いな。
あれでは、無駄な体力を消耗するだけだ。現に、ジャックの額には玉の様な汗が浮かんでいる。
・・・・・・少し、指導のまねごとでもするかな。そう思い、イエーガーから木剣を借りてきた。
「よう、少しだけ俺と手合わせしないか?」
「・・・・・・・・・別にいいけどよ。大丈夫か?」
「大丈夫だって。ほれ、さっさとやろうぜ」
そう言って、俺は急かす。一瞬、ジャックは訝しげな顔をするがそのまま木剣を構える。
俺も、木剣を正眼に構える。ジャックはじっと俺を見据えたまま、動かない。ふむ、まずは俺の出方を見極めるという事か。
なら、お言葉に甘えよう。
「ふっ!!!」
俺は一瞬で距離を詰め、ジャックの頭を打ち据えた。恐らく、ジャックには俺の動きがまるで見えていなかったのだろう。目を丸くして、きょとんっとしている。
しかし、やがて気を持ち直したらしく、俺を真っ直ぐ見据えて木剣を構え直す。そして、大上段に木剣を振り上げて切り掛かる。その気迫は見事だ。しかし―――
「せやあっ!!!」
「まだまだ腰が甘い!!」
「ガッ!!?」
すり抜けざまに、胴を打った。ジャックは呻き声を上げ、地に伏せる。腰の入っていない剣など恐れるに値しないんだよ。
さて・・・。
「もう終わりにするか?」
「まだ・・・まだ・・・」
ふむ、どうやら根性はあるらしい。ふらつきながらも、それでもその瞳には闘志が滾っている。
まだまだやれると、その瞳が訴えている。俺は思わず、薄く笑みを浮かべた。
「なら、来い」
「っ、せああっ!!」
裂帛の気合いと共に、ジャックは木剣を振るう。しかし、何度振るおうと木剣は掠りもしない。
時には、視線で俺を誘導する策も使った。動きに虚実を混ぜ、俺を翻弄しようともしてきた。
しかし、俺はそれ等全てを見破り、正面から叩き伏せた。しかし、ジャックも少しずつだが、着実に動きが良くなってきている。
姿勢も整い、剣筋も動きのキレも洗練されてゆく。俺も、ジャックを叩きのめしながら悪い部分を一つずつ指摘して、矯正していく。
感覚的な部分は実際に木剣を打ち合わせる中で、身体に叩き込んでゆく。視線の動きや虚実を混ぜた動作で翻弄しつつ、ジャックの剣の腕を確実に鍛え上げる。
実際に戦いながら、剣閃を加速させる為の肉体の運用法や相手の剣筋を柔らかくいなす技術、呼吸法に至るまでの全てを叩き込んで教え込む。
実際、最初に比べて今のジャックは随分と動きが良くなったと思う。その動きのキレは神域とまではいかないまでも、達人の領域を超えている。
恐らく、剣聖と呼んでも問題無い領域だろう。
俺も、全力の半分以下に抑えて手加減してはいるが、その状態でもう十分以上打ち合っている。
よしよし、良いぞ。もっとだ。もっともっと限界を超えて強くなれ。その程度の限界など認めん。
大丈夫だ。お前はもっと強くなる。もっともっと強くなれる。その程度の壁など越えて見せろ!!
打ち、突き、絡めて流し、変幻自在に剣閃を繰り出す中で俺達は笑う。楽しい。ああ、楽しいさ。
俺はジャックを期待し、ジャックは期待に応えて強くなっていく。限界を超えてゆく。これが楽しくない筈など無いだろう。
ああ、これだよ。そうだ、努力はきっと報われる。俺はそう信じて疑わない。だから―――
「お前も、その限界を打ち破れ!!!」
「あああああああああああっっ!!!」
努力はきっと叶う。だから、決して諦めないでくれ。限界だからと膝を折らないでくれ。
俺が前を進むから。道を示すから。だから、お前達は歩み続ける事を諦めないでくれ。
「いや、信じられない事をしているな・・・・・・・・・」
そんな俺達を、イエーガー達は呆然と見ていた。
・・・・・・・・・
正午12:00―――
「いや、すまない。少々熱くなりすぎた」
「・・・・・・・・・少々?」
何だよ、アイ。その疑念の籠った視線は?俺はむすっとした顔で、アイを睨む。
すると、アイは呆れた様に溜息を吐いた。むうっ、何だか非常に納得がいかないんだが?
と、イエーガーがごほんっと咳払いし、注目を促した。
「で、ドラクルよ。お前は一体何をしたんだ?ジャックの剣の腕がこんな短時間で上がるなど、軽く異常を通り越しているんだが?」
「ああ、別に大した事はやっていない。要は教え方の問題だよ。意識を一ヶ所に誘導し、集中力を意図的に高めた上であらゆる技術を叩き込んだ。それだけだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の話を聞いて、イエーガーは口を開いたまま呆然とした。まあ、解らなくもない。
要するに、これは技術を教え込む為に、意識を常に一ヶ所に集中させ続けた事になる。つまり、それは他者の意識を常に誘導し続けられるだけの集中力と器用さ、計算能力があるという事だ。
そして、その上で尚、並行してジャックの剣の相手をしていたのである。もちろん、しっかり手加減をした上で相手をしていた。これはかなりの難易度だろう。人間技を超えている。
しかし、まあそれでも俺にとっては大した事は無い。
「まあ、要は訓練と慣れの問題だよ。慣れれば、難しい計算をしながら身体を動かすくらい、何という事も無いだろう?」
「は、はあ・・・・・・本当に信じられない事をする」
まだ納得出来ていないようだ。まあ、そりゃそうか。俺は軽く溜息を吐いた。
「なあ、ドラクル?」
「うん?」
ジャックがふいに問い掛けてくる。其方を見ると、ジャックは何かを考える仕種をしていた。
何だ?
「お前、全く本気を出してなかっただろう?」
「まあ、そうだな」
「・・・・・・仮に、お前が全力を出したらどれほど強いんだ?」
「ふむ、まあ・・・そうだな。今のお前くらいなら十人居たって軽くあしらえるな」
「・・・・・・・・・そうか」
ふむ、軽く自身を失ったか。まあ、事実だがな。此処は甘やかすべきでは無い。
だが・・・。
「諦めず努力を続ければ、お前ももっともっと強くなれるさ」
「そ、そうか・・・?」
「そうだ」
そう言うと、ジャックは薄く笑った。




