村での一夜
コンコンッ―――
「はい」
ドアをノックする音が響き、マヤはドアを開く。すると、其処には微笑みを浮かべたアイが居た。
「少し、良いですか?」
「ええ・・・まあ・・・」
マヤはこてんっと首を傾げ、そのままアイを部屋へと招き入れた。
・・・結論。マヤの部屋は物が少ないが、年頃の女の子らしさが所々見られた。かわいらしい熊のぬいぐるみや少女の人形、綺麗な天使のガラス細工が置かれていた。全体的にかわいらしい部屋だ。
「かわいらしくて、良い部屋ですね」
「そ、そうですか・・・」
「そうです」
マヤは頬を僅かに染め、うっすらと微笑む。自分の趣味を褒められて嬉しいらしい。
アイも口元に手を当て、微笑んだ。良い雰囲気だ。
「ところで、何の用事ですか?」
「そうですね・・・」
アイはすっと笑みを消し、マヤの顔を真っ直ぐ見据えた。その瞳は真剣だ。
マヤはきょとんっと小首を傾げる。そんな彼女に、アイは直球で問う。
「マヤって、ドラクルの事が好きですよね?」
「っ!!?」
一瞬でマヤの顔が真っ赤に染まる。そして、すぐにはっと正気に戻り、あうあうとうわ言の様に呟きながら縮こまった。
その反応に、アイはくすくすと楽しげに笑う。本当に楽しそうに、嬉しそうに・・・。
「好きなんですね?」
「は、はい・・・。好き、です・・・あの人、ドラクルの事が・・・・・・」
か細い声で想いを呟くマヤ。その顔は羞恥で真っ赤だ。その言葉に、やはりアイは微笑んでいる。
アイはそっとマヤに近寄ると、マヤを優しく抱き締める。
「その言葉が聞きたかった」
「・・・・・・え?」
きょとんっと、アイの顔を見詰めるマヤ。不思議そうな顔で見詰める彼女に、アイは優しげな笑顔で自身の想いを語る。
・・・・・・・・・
・・・どうしてこうなった?
俺は今、ドアを開けた状態で固まっている。気分はゴーゴンの石化の瞳で睨まれたみたいだ。
午後20:12―――俺は用意された客室のベッドで横になっていた。そろそろ眠りに入ろうとした頃。
そしたら突然、ドアをノックする音が響いた。
こんな時間に一体誰だ?怪訝に思う俺だったが―――
「ドラクル?私です、マヤです」
マヤの声が聞こえた。何だろう・・・声に緊張が混じっている気がする。それに、マヤがこんな時間に一体何の用事だ?
そう疑問に感じつつ、俺はドアを開けた。瞬間、俺は石化した。
何故かって?ドアの前に、薄いネグリジェ姿のアイとマヤが立っていたからだよ。
う、うわぁっ・・・。何だこの状況は?何故、アイとマヤがそんな姿で此処に居るんだ?
マヤは羞恥に顔を真っ赤に染めている。そりゃそうだ。
「え、えっと・・・?」
「あの・・・とりあえず、中に入れて貰ってもよろしいでしょうか?」
か細い声で、マヤが呟いた。お、おうっ・・・。マヤはもう、羞恥の余り涙目になっている。
俺はそのままアイとマヤを部屋に入れた。のが間違いの始まりだった。
・・・それから数分後―――
「・・・何故だ」
ありのまま言おう。俺は今、アイとマヤの二人と添い寝している。いや、何でだよ。
何故こうなった?流石の俺でも理解出来ない。気付けば二人と一緒に寝ている。
いや、意味が解らねえ・・・・・・。
「ドラクル」
「ドラ、クル・・・」
二人が頬を染めて、俺に抱き付く。柔らかい胸の感触とか、女性特有の匂いとか、甘える様な声とかに俺の脳が警報を鳴らす。ヤバイヤバイ!!
って・・・おい、其処はやめろ!!其処に触れたらマジで取り返しが付かない!!!
「くそっ!一体どうすりゃいいんだ!!」
「ドラクル・・・愛しています・・・」
マヤが俺に抱き付きながら甘い言葉を囁く。俺の頭がクラッとくる。
危うく理性が砕ける所だった。一瞬、悪魔の囁きが聞こえた気がした。
ちくしょうっ!何故、俺はこんなしょうもないピンチに陥っている?
ちょっ、やめ・・・あっ・・・。
「いい、加減に・・・」
ぷちんっと俺の中で何かが切れた。俺は最終手段に出る。
魔力の波で二人の脳波に干渉し、眠らせる。睡眠魔法"ヒュプノス"とでも名付けるか。
すやすやと寝息を立てて眠るアイとマヤに、俺は苦笑する。危機は脱した。
ふうっ、危なかった・・・。何で、男の俺が貞操の危機に陥っているんだ?
はぁっ・・・疲れた・・・。
・・・・・・・・・
「・・・んっ、此処は?」
「目を覚ましたか?」
あれから一時間と少しくらい過ぎた頃、マヤが目を覚ました。少し眠りが浅かったか・・・。
少しぼうっとしていたマヤだったが、やがて意識がはっきりすると共に顔が赤く染まっていった。
どうやら、寝る前の自分の行動を思い出したらしい。真っ赤な顔で俯いている。
「うぅっ・・・・・・」
「あー・・・まあ、落ち着くまでゆっくりすれば良い。・・・とりあえずこれでも飲むか?」
俺はコーヒーの様な飲み物を出す。台所でイエーガーから貰ってきた。コフィーというらしい。
見た目も味も、間違いなくコーヒーだ。豆もコーヒーそのものだ。けど、コフィーというらしい。
マヤは黙ってコフィーを受け取ると、ゆっくりと飲む。
「おいしい・・・」
「そうか」
どうやら少し落ち着いた様だ。僅かに微笑んだ。ふぅっ、良かった。俺もコフィーを飲む。うん、やっぱりこれはコーヒーだな。異世界のコーヒーだ。
うん、美味い。
「・・・・・・あの、ドラクル?」
「うん?何だ?」
マヤが言い辛そうにもじもじしている。何だ?
「あの、えっと・・・ドラクルは私の事、嫌いですか?」
「・・・えっと?」
意味が解らない。えーっと?とりあえず、どういう事だ?説明を求む。
俺が理解出来ていないのを察したらしい。マヤは困った様に笑って言った。
「えっと・・・ドラクルはああいう事は嫌ですか・・・?さっきの・・・あの・・・」
あー、なるほど。そういう事か・・・。ようやく理解出来た。
つまり、アイとマヤが勇気を振り絞って誘ったのに俺が拒絶したから自信を失ったのか。それで、もしかして嫌われているのではと思ったと。なるほど?
「別に、マヤの事は嫌いじゃないさ。好きか嫌いかで言えば、好きなんだと思う」
「・・・本当、ですか?」
マヤが上目遣いで俺を見詰める。うん、かわいい。
「本当だよ。ただ・・・」
「ただ?」
「まだ、マヤと出会って間もないからな。恋と言えるほど好きにはなっていないな」
「そう、ですか・・・」
マヤは寂しげに俯く。明確に拒絶した訳ではない。けど、マヤにとっては今の気持ちは失恋にも似た気分なんだろうと思う。
一世一代のアプローチだった筈だ。しかし、それが失敗に終わり悲しくもあるのだろう。
俺はマヤをそっと抱き締める。マヤの事を嫌ってなんかいない、愛していると知ってもらう為に。
この愛は恋では無いけど、それでもマヤの事を愛している。嫌いな訳がない。
「一つ、わがままを良いですか?」
「ああ、何だ?」
マヤは俺の瞳を真っ直ぐに見詰め、何かを決意した様に言った。
「私に、私とキスしてくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺はマヤの瞳を真っ直ぐ見る。その瞳は真剣そのものだった。本気、なんだろう。
「お願いします。貴方を諦める為、せめて私とキスして下さい」
「・・・・・・・・・解った」
恐らく、マヤは諦めるきっかけが欲しいのだろう。だから、せめてキスだけでもして欲しいと。
マヤの頬にそっと触れ、俺とマヤは見詰め合う。もう、俺達は互いしか見えていない。
ゆっくりとマヤの顔が近くなっていく。そして―――
「んっ・・・」
俺とマヤはキスをした。軽く触れ合う程度のキス。しかし、俺達は求め合う様に深くキスをする。
実際は数秒程度しか過ぎていないだろう。しかし、俺達にはそれがとても永く感じた。
どちらからともなく、俺達は離れる。なるほど、これは気恥ずかしい。
マヤの顔が赤いが、俺の顔もきっと赤い筈だ。マヤの微笑みが、さっきよりもかわいく思えた。
うん、たぶん気のせいだ。
「ありがとう、ドラクル。大好きです」
そういって、マヤは満面の笑みを浮かべた。・・・うーん、俺ってちょろいのか?




