シャンバラ
拝啓、皆様お元気でしょうか?
元気な人も、そうでない人も居る事でしょう。・・・え?俺?
俺は今―――
絶賛落下中です。
「いや、何でだよっっ!!?」
アイの創り出した穴(アイは門と呼んでいる)を潜ったら、其処は大空だった。訳が解らない。
現在、上空4000メートルといった所か。高い高い高い!!いやマジで高いっ!!!
こんな所から落ちたら確実に挽き肉になるだろうっ!!
異世界に来て、すぐに身元不明遺体になるってどんな嫌がらせだ!!
くそっ!どうするっ、どうするよ俺っ!?
「龍!こっち!!」
アイの声が聞こえた。其方を見ると、アイが俺の方に手を伸ばしている。俺も、アイの方へと必死に手を伸ばす。
あと少し・・・。あと少しで手が届・・・く・・・。・・・届いた!!
瞬間、落下速度が急激に減速し、やがて俺達は空中で停止した。
「し、死ぬかと思った・・・」
「あははっ、・・・ごめんなさい」
アイは乾いた笑いを漏らす。流石に、パラシュート無しのスカイダイビングはごめんこうむる。
転生してすぐに死の恐怖を味わうなんて、実に笑えない。・・・流石の俺でも焦るぞこの野郎!!
「本当にごめんなさい・・・。それよりも龍。ようこそ、シャンバラへ―――」
言われて周囲を見渡す。・・・俺は言葉を失った。
眼下には広大な森が広がり、その向こうには田園風景。遥か彼方には雄大な海が見渡せる。とても美しい世界が広がっていた。
・・・・・・・・・
「ところでアイ、シャンバラってあれか?伝説の仏教王国の・・・」
俺達はゆっくりと地上に降りながら、この世界について話をしていた。俺はこの世界について、何も知らない。だからこそ、アイにそれを聞いているのだ。
・・・それにしても、シャンバラって確かチベットの理想郷だった筈だ。
「違います。この世界は神々が造った神造世界で、シャンバラというのは、この世界を管理する主神が考えた名前なんです」
神造世界―――
つまり、この世界は正真正銘神々の創造した世界という事か・・・。なるほど。
俺が一人納得していると、アイは手元に光り輝く地図を出した。
地図には中央に大きく大陸が描かれており、そのすぐ東の隣に勾玉の様な形をした島国がある。
その大陸と島国を、大海が囲んでいた。
・・・大陸には中央にクラウディウス、南にロード、北に未開と書かれ、東の島国はクロードと書かれている様だ。と、言うか地球の言葉では無いな、これ・・・。
「何故、俺はこの文字が読めるんだ?」
「それは神代の言語だからですよ。嘗て、世界が一つだった時に使われていた言語なんです」
「・・・・・・・・・聖書みたいな話だな」
聖書によると、嘗て世界は一つに統一されており、言語も一つだったという。ある日、人間が天上にも届く塔を建てようとした結果、神の怒りに触れたらしい。
塔は落雷により崩壊、言語を乱された人間はバラバラに散り、世界は別れたという。
これが旧約聖書、『創世記』のバベルの塔の神話である。
・・・次に俺は地図に書かれた未開の文字に目を向けた。
「この未開というのは?」
「未開の地ですね。この世界は三つの国と未開の地に別れていて、大陸に王国クラウディウス、帝国ロード、未開の地があり、東に魔王国クロードがあります」
この世界はそれぞれ、国王クラウディウス、皇帝ロード、魔王クロードが国を治めているという。
人間の住む王国、亜人の住む帝国、魔族の住む魔王国に別れるらしい。なるほどなるほど。
そうこうしている内に、地上に着いた。現在、俺達は森の中だ。
「そして、この世界は龍の元居た世界で言う天動説がモデルの世界なんです。世界は平面で、星々はシャンバラの大地を中心に廻っています」
「・・・ほぉ」
それは中々面白い。ファンタジーな世界だな。・・・まてよ?
「この世界は大陸と島国を大海が囲んでいるんだよな?じゃあ、世界の果てはどうなってるんだ?」
「大滝になっていますね。ちなみに、流れた海水は大海へと循環する仕組みになっています」
流石の俺も、唖然とした。つまり、大滝から落ちたら大海の何処かに流れ着くらしい。
ファンタジーすぎる。
と、その時・・・俺の背後でガサッと物音が聞こえた。何だ?
訝しげな顔で振り返ると、其処には意外なモノが居た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・豚だ」
そう、豚が居た。ただし只の豚ではない。四メートルくらいの巨体に二足歩行、腰布を巻き、手には巨大な肉切り包丁が握られている。
「オーク、ですね・・・」
そう、ファンタジーではお馴染みのオークが現れた。
オークはブヒブヒと鳴き声を上げながら、肉切り包丁を構える。・・・どうやら、俺達を敵と認識した様だな。俺も拳を構える。
「龍、大丈夫ですか?」
「ああ、まあ問題無いだろう」
この世界に転生して、かなり調子が良い。今なら何処までも行けそうだ。・・・恐らくは、アイからチートを授かった影響だろう。
「おらっ!来いよ、豚野郎!!」
俺は、目の前の豚肉に挑発を仕掛ける。もちろん、俺は不敵な笑みを浮かべている。
その挑発が効いたのか、オークは手に持った肉切り包丁を大きく振り上げた。
その瞬間を待っていた!!
俺はオークの懐に潜り込み、その身体に掌底を捩じ込んだ。その衝撃は身体の内側に浸透し、一気に爆発する。打撃の力を一点に集中させ、内側で爆発させる技だ。
この技能があれば、素手で鎧を着込んだ相手を倒せるだろう。
オークは微かに呻く様な、断末魔を上げて倒れた。・・・ふむ、上出来だな。
「こいつ一匹で、数日分は大丈夫そうだな・・・」
「えっ!?オークを食べるの!?」
俺の言葉に、アイは驚いた顔で見てくる。・・・いや、なあ。
「・・・まあ、意外とイけるんじゃねえか?豚だし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アイが閉口してしまったけど、まあ問題無い。さて、調理を始めるか。
・・・・・・・・・
と、いうわけで食事の時間だ。
「意外と美味しい!?」
「それは良かったな・・・」
俺達はオーク肉と、森の中で採れたキノコや果物を食べている。もちろん、毒キノコか否かは経験上すぐに解る。
森の中で採れた物だけで味を調えるのはかなり骨が折れたけどな・・・。
「それにしても、龍って料理も上手だったんですね」
「俺をあまりなめるなよ。俺は、あらゆる技能を極めている」
「そうでしたね・・・」
アイは薄っすらと微笑む。うん、やっぱり可愛い。つい、その顔をじっと見てしまう。
あ、目が合った。アイの頬が朱に染まる。そういう所も可愛いんだけどな・・・。
その後、黙々と食事をする俺達。・・・気まずいな。何か、話のタネでも―――
「・・・そういえば、此処は地図のどの辺りだ?」
「は、はいっ!えっと・・・此処は、クラウディウス王国の南西部"ハレの大森林"ですね」
アイは光り輝く地図を出して指差す。ふむ、この辺りか。
輝く地図には王国の南西部、帝国と海に面した所にハレの大森林と書かれていた。
それにしても、この規模なら充分樹海と呼んでも良いのではないだろうか。
「かなり広いな・・・」
「そうですね、龍に解り易く説明すると、アマゾンの森林の二倍に近い規模はありますね」
本当に広いな!?流石の俺でもびっくりだ。
「不安ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、むしろわくわくしてきた」
そう、俺は今わくわくしている。とても心躍っているんだ。
自分でも信じられないが、まるで幼い子供に戻った様な気分だ。楽しくて楽しくて仕方がない。
恐らく、俺は今笑っているだろう。
こんなに興奮したのは、何時以来か?流石に解らない。
感謝する。アイ、異世界に連れて来てくれてありがとう・・・。
俺は心の中で、アイに最大の感謝を送った。




