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"超越"のチートで異世界を征く  作者: ネツアッハ=ソフ
2/11

チート

 それは、俺がまだ十歳になったばかりの頃だ。


 「此処は何処だ?」


 暖かい光の射す白い空間、其処に俺は立っていた。何故こんな場所に居るのか、全く覚えが無い。


 そんな時、背後から何者かの気配を感じる。


 「誰!?」


 「きゃっ!?」


 勢い良く振り返ると、純白の衣を着た、俺とほぼ同じ背丈の少女が居た。


 年齢は大体俺と同じくらいか?瑞々(みずみず)しい透ける様な白い肌に(みどり)の瞳、流れる様な金髪を肩まで伸ばした美少女だ。正直、かわいいと思う。


 「・・・・・・・・・大丈夫か?」


 「・・・大丈夫」


 俺の差し出した手に(つか)まり、少女は立ち上がる。そして、俺の顔を見てきょとんっとした顔をした。


 「貴方、どうして此処に居るの?」


 「それは俺が聞きたい。此処は何処だ?そして、お前は誰だ?」


 肩を(すく)めて溜息を吐く。我ながら子供らしくないと思う。


 そんな俺を見てどう思ったのか、少女は呆れた顔をした。


 「此処は神界(しんかい)。時間と空間を超えた神々の世界だよ」


 そう言って、少女は胸を張る。神界―――


 少なくとも、俺はそれを聞いて多少驚いていた。


 「神界、という事はお前は女神様なのか?」


 「うん!けど、まだ名前も無い下級の女神だけど・・・」


 少女はしゅんっと項垂(うなだ)れる。そんな姿もかわいいな。


 けど、名前が無いのは不便だな。よしっ!!


 「良ければ俺が名前を付けてやろうか?」


 「本当!?」


 ずいっと、少女は身を乗り出す様に一気に近寄る。って、近い近い!


 「本当本当、だからもうちょっと落ち着け!!」


 「あっ・・・」


 少女は顔を赤くして、そそくさと俺から離れた。うん、やっぱりかわいいな。


 にやにやと少女の顔を見ると、更に赤くなった。


 「かわいい・・・」


 「っ!?」


 「おっと、すまんすまん」


 俺は手をひらひらとさせながら謝る。うん、我ながら誠意(せいい)が籠ってないな。


 少女はそんな俺を、真っ赤な顔で睨み付けてくる。


 「そんなに睨むなよ。では、アイってのはどうだ?」


 「・・・?アイ?」


 少女は言葉の意味が解らず、首を傾げる。


 「そう、親愛とか友愛とか、愛情のアイ。お前の名前はこれからはアイだ」


 そう言った瞬間、俺は何かに引き寄せられる感覚と共に、夢から覚めた。


 それが、女神アイと俺との初めての出会いだった。・・・だが、話はまだ終わらない。


 それから毎日、夢を通じて彼女と出合った。アイという名前を彼女は気に入っていた様で、嬉しそうにその名を名乗っていた。


 とても楽しい日々、何時までも続くと思っていた。


 しかし―――


 「もう、龍とは会えない・・・」


 「いきなり何だ?」


 恐らく、この時の俺は間抜けな顔をしていた事だろう。対するアイの表情は暗い。


 ・・・どうしたのだろう?


 「本来、神界は人間が入ってはいけないし、入れる様な所じゃないの。だから、龍が此処に居るのはいろいろとマズイの」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 つまり、俺は神界にとってイレギュラーらしい。此処に俺が居たら、神々にとって都合が悪いと。


 ふーん。


 「大丈夫だ」


 「え?」


 俺は精一杯(せいいっぱい)の笑顔をアイに向ける。アイは訳が解らずに、呆けた顔になる。


 「人間が入ってはいけないなら、人間を超えれば良い。人間が入れる場所じゃないなら、それを覆せる存在になれば良い」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「いつか、いつかきっと人間の限界を超え、神様の限界すら超えてお前に会いに行く。必ずだ」


 そう言って、俺はアイを抱き締めた。優しく、包み込む様に抱擁(ほうよう)する。


 自然と、アイの腕が俺の背に回される。


 「うん、私待ってる。何時までも貴方の事を待ってるから・・・」


 俺とアイは約束を交わし、静かに(くちびる)を重ね合わせた。


 ・・・・・・・・・


 回想終了(かいそうおわり)―――


 「落ち着いたか?」


 「・・・・・・・・・はい」


 ようやく泣き止んだアイ。だが、落ち着いた物の、今度は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。


 今更になって、泣きじゃくったのがかなり恥ずかしいのだろう。その姿がとても可愛くて、同時に愛おしくて、俺はアイを再び抱き締めた。


 「あっ・・・」


 アイの口から声が()れる。そして、俺の背に腕を回してくる。


 久し振りの再開。かれこれ十年ぶりになるだろうか・・・。いやはや、懐かしい。


 「久し振りだ、アイ」


 「はい、久し振りです、龍」


 アイの声は少し上擦(うわず)っている。涙を(こら)えているのだろう。


 俺は、アイに再会した事で安堵(あんど)しているのだろう。自分でもそれがはっきりと理解出来る。


 ・・・どれ程の時間が過ぎただろう?体感時間的には、一時間以上は過ぎている気がするが。


 「で、何で俺は此処に居るんだ?」


 確か、俺の記憶が正しければ神界に人間は原則来れない筈だったのでは?そう思い、アイの方を見ると言いたい事を既に理解しているのか、こくりと頷いた。


 「龍、貴方は既に人間の限界を超越(ちょうえつ)し、神域(しんいき)に限りなく近付いていたのです。ですので、特例として貴方を神界へ招きました」


 「そうか。・・・ん?でも神域に近付いていたのなら、何故闇討ちを仕掛けて来た奴等を倒し切れなかったんだ?」


 いくら相手が群れていたとはいえ、神域に近付いた者を容易に倒せるとは思えないんだが?


 そう思っていると、途端にアイが悲しげな顔をした。


 「それは・・・、龍の(からだ)が限界に達していたからです・・・」


 ・・・何だって?


 思わず怪訝な顔をする俺に、アイは泣きそうな顔をする。どういう事だ?


 「龍が限界を超えようと努力を続ければ続ける程、貴方の身体はその苛酷(かこく)さに耐え切れず、悲鳴を上げていたのです・・・」


 ・・・俺は黙り込む。身に覚えは、ある。


 最近、かなりの頻度(ひんど)で血を吐く様になった。身体が重く、思い通りに動かない事など何時もの事だ。


 そうか、身体の方が限界だったか・・・。認めたくないなぁ。


 きっと、今の俺は遠い目をしているのだろう。


 何度も絶望した。何度も心が折れ掛けた。それでも諦め切れない。


 まだだ。もっと、もっとと―――


 怪物と呼ばれ、周りから怖がられても、それでも諦める事だけは出来ない。


 そんな俺の顔を見て、アイは何かを決意した様な顔をする。


 「龍、もし貴方が良ければ、生まれ変わって異世界(いせかい)に行きませんか?」


 「何?」


 思わず、俺はアイの顔を見る。アイは力強い瞳で俺を見詰め返す。


 「龍、貴方を別の世界へ転生させましょう。貴方の手助けとなる様に力を与えましょう。ですのでどうか諦めないで下さい!!」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 俺とアイはじっと見詰め合う。時と空間を超越した神界に時間の概念は無い。しかし、体感時間的には俺が目を覚ましてから、だいぶ時が過ぎた様に感じる。


 俺はまず、ふうっと息を吐き、心を落ち着ける。


 「まず、一つだけ聞いておきたい。・・・俺が死んだ後、事件の結末はどうなった?」


 研究のレポートはどうなったのか?友人は上手くやったのだろうか?それが頭に浮かぶ。


 アイはふっと笑みを浮かべ、大丈夫と言った。


 「龍を殺した人達と、その黒幕の教授は貴方の友人が証拠を付き付けて、警察に捕まりました。特に教授の方は過去の不正を全て暴かれて、二度と(ろう)から出られないそうです」


 「・・・そうか」


 よかった、あいつはどうやら上手くやった様だ。もう、あの世界に思い残す事など無い。


 「解った、俺を転生させてくれ」


 「はい。では今から龍に力を与えますので、手を出して下さい」


 俺は迷わず手を差し出した。アイはその手を包み込む様に、両手で握る。


 瞬間、俺の手に暖かな光が宿り、身体全体を優しく包み込んだ。同時に、俺の頭の中に"超越"の文字が浮かび上がる。


 「終わりました。龍の異能は"超越"ですね。貴方が諦めない限り、その力は限界を超える助けになるでしょう」


 「今思ったんだが、アイはどうやって俺に力を与えたんだ?」


 それは何気ない疑問だった。別に、深い意味など無い。只、何となく思っただけ。


 それだけの事だ。


 「それは私の神としての権能による物ですね」


 「神の権能?」


 あれだろうか?漫画やアニメとかによくある、神様の人知を超えた力的な物だろうか?


 凄い神通力(じんつうりき)とか、摩訶不思議な奇跡(きせき)とか、そんな感じだろうか?


 「はい、私の権能は"願望に形を与える"能力。簡単に言えば、願いを叶える能力ですね」


 俺は目を見開いて驚いた。それはかなり凄い能力ではなかろうか。


 そう思ってアイの顔を見ると、アイは苦笑して首を横に振った。


 「そんなに万能な力では無いんです。明確な形の無い願いはやっぱり叶えられないですし・・・」


 つまりあれだろうか?明確に何がしたいのか、何になりたいのか、その願望の形が定まっていないと叶えられないという事か?


 全ての願いを叶えられる訳では無いと?いや、しかし―――


 「それでも充分凄いと思うが?」


 「そ、そうですか?」


 アイは頬を淡く染め、そっぽを向いた。自分が()められるのが、恥ずかしいのだろう。


 やっぱりかわいいな。


 思わず俺はアイを衝動的に抱き締めた。腕の中でアイが赤面し、あうあうと言葉にならない声を発しているのが解る。それがまた、かわいい。


 「あっ、あの!そろそろ異世界へ行きませんか!?」


 「ん?あ、ああっ・・・」


 少し残念に思いながら、俺はアイを放す。アイはゆっくりと深呼吸し、心を落ち着ける。


 「落ち着いたか?」


 「・・・はい」


 どうやら本当に落ち着いたらしい。こほんっと軽く咳払いし、アイは口を開く。


 「異世界に転生する前に、龍には新しい名前を与えようと思います」


 「新しい名前?」


 「はい」


 あれだろうか?異世界の世界観的な物だろうか?


 異世界に日本人の名前はかなり目立つとか?


 「貴方にはこれからは竜公(ドラクル)と名乗って貰います」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 あれだな。昔のワラキアの君主みたいな名前だな・・・。


 呆れた視線を向けると、アイは不安そうな目で見詰め返してきた。


 「気に入らなかったですか?」


 「いや、とても気に入ったぞ。うん・・・」


 そう言って、俺はごまかした。ほっと胸を撫で下ろすアイ。


 ・・・うん、まあ良いや。


 「じゃあ、そろそろお別れだね」


 「ん?何を言ってるんだ?」


 「え?」


 少しだけ寂しそうに別れを告げるアイに、俺はにやりと笑って言った。アイはきょとんっとした顔で小首を傾げる。


 ようやく再開出来たんだ。このままお別れなんて、する訳が無いだろう。


 「アイ、お前も一緒に来るんだよ」


 「っ!?し、しかし・・・」


 躊躇(ためら)うアイに、俺は黙って手を差し伸べた。アイはじっと俺の手を見詰め、少しだけ迷った後、確かにその手を握り返してきた。

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