マヤの想い
目を覚ますと、既に夜になっていた。部屋の窓からは夜空に星が輝いている。どうやら、俺はずっと眠り込んでいたらしい。
「ん、目を覚ましました?」
傍で本を読んでいたらしく、アイが本をぱたんっと閉じる。薄っすらと微笑みながら寝ている俺の額を優しく撫でる。心地良い温もりがじんわりと伝わってくる。
「アイ、今は何時だ」
「今の時間は丁度、20:00を過ぎた所ですね」
「・・・・・・そうか」
どうやら、随分と眠っていたらしい。まあ、最近は本気を出すのも久し振りだったからな。
恐らく、体力に限界が来たんだろう。まだまだ俺も未熟だな。
もっと鍛えなければ。俺はこんな限界など認めない。
「それは違うよ」
「ん?」
突然のアイの言葉に、俺は首を傾げる。見ると、アイは真剣な瞳で俺を見ていた。
「今、自分の事を未熟だと思っていたでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「アレは貴方の限界では無いよ。むしろ、限界を超えて動き続けた反動の様な物だね」
「・・・・・・そうか」
限界を超えて動き続けた反動、ね。けど。しかし・・・。
あの程度で反動が来るようでは駄目だ。やはり、それは俺にとって限界と同じなんだよ。
もっと、強くなりたい。こんな限界など、俺は認めたくない。もっともっと遥か高みへ。
そんな俺の想いを察したらしく、アイは寂しげに笑った。そっと、俺を抱き締める。
「大丈夫。貴方はこれからもっともっと、無限に成長していく」
そう言い、俺を抱き締める手で優しく頭を撫でた。大丈夫だと。子供をあやす様に。優しげに。
「ああ、そうだな・・・」
俺はこんな所では止まれない。止まらない。止まる訳にはいかない。
だから、俺は決して諦めない―――
・・・・・・・・・
20:59―――
アイが部屋を出てしばらく。現在、部屋には俺一人だけだ。
先程まで寝ていた為、いまいち眠くない。さて、どうした物か・・・。
と、考え事をしていたらドアをノックする音が部屋に響いた。・・・誰だ?
「ドラクル、私です。マヤです」
ドアの向こうからマヤの声が響いた。ふむ?声が若干、緊張している?
怪訝に思いながら、俺はドアを開ける。んんっ?俺は硬直した。
其処には薄いネグリジェにカーディガンを羽織ったマヤが居た。またこのパターンか。俺は痛む額を押さえて左右に振った。嗚呼、頭が痛い。
「マヤ、君もうら若い女の子なんだから、もっと自分を大切にしろよ」
「理解しています。けど、それでも私は―――」
「・・・・・・・・・・・・とりあえず、中に入れ」
俺はマヤを部屋の中に入れた。別にやましい気持ちは無い。こんな所、誰かに見られたら何を言われるか解らないからだ。だからな、マヤも頬を赤らめるのを止めろ。
と、言う訳で俺の部屋の中。俺とマヤはベッドに並んで座っている。マヤは頬を赤く染め、しきりに俺をちらちらと目の端で見ている。
はぁっ、と俺は溜息を一つ吐いた。
「そんなに俺の事が諦められないか?そんなに俺を想ってくれていると?」
「・・・・・・はい」
「そうか―――」
瞬間、俺の中で何か暗い感情が湧き出し、溢れた。
「―――んっ、んむっ!!?」
マヤの唇を奪った。荒っぽく、貪る様なキスにマヤは目を大きく見開く。
そのまま、マヤをベッドに押し倒す。ベッドにマヤを押さえ付け、執拗に唇を貪る。
胸に手を這わせ、乱暴に揉みしだく。
・・・しばらくすると、抵抗が薄くなってくる。唇を離すと、目の前にはぐったりとベッドに身を預けたマヤの姿が。とろんっとした瞳で俺を見詰める。
「解るか?誰かを愛するという事は、愛し合うという事は、つまりこういう事もあるという事だ」
お前に、マヤにその覚悟があるか?そう、俺は問う。
俺は、俺達は何時かこの村を出ていく。マヤを連れて行く事は出来ない。出来れば、マヤには俺の事を諦めて欲しいと思っている。俺の事は諦めて、マヤには幸せになって欲しいと。
だから―――
「私は・・・」
マヤはそれでも、何かを覚悟した様な瞳で俺を見る。そっと、俺の頬にその手で触れる。
「私はそれでも、ドラクルの事を愛しています」
「・・・・・・・・・っ」
マヤのその顔は優しげに微笑んでいた。たとえ何があろうと、たとえ何れ別れる事になろうと、それでも俺の事を愛しているとマヤは言った。
その言葉に、覚悟の程に俺は目を見開いた。どうやら、俺は読み違えていたらしい。
マヤは本当に俺を愛していたのだ。心の底から慕っていたのだ。悲しいまでに純粋に。
「私の事を愛してとは言いません。只、私に貴方の居た証を下さい」
そう言って、マヤは花の咲く様な笑顔を見せた。
愛して欲しいとは言わない。愛されたいとは言わない。只、証が欲しい。そうマヤは言った。
それを聞いて、俺はふっと笑みを浮かべる。
「ごめん、ありがとう。マヤ」
俺の言葉に、マヤは小首を傾げる。そんなマヤを、俺は真っ直ぐ見据えて言った。
「お前の事を愛している」
「―――っ!?」
マヤは目を見開いて驚愕した。けど、俺は本気だ。本気でマヤを愛している。
これほど誰かを好きになったのは、アイを除いてマヤしか居ないだろう。
「この村に居る間だけで良い。俺の傍に居て欲しい」
「・・・・・・・・・・・・はいっ」
マヤは瞳を涙で潤ませ、それでも弾ける様な笑顔で頷いた。




