9 2017/7/12 編集
「さて、ここまで来たらいいかな」
村からある程度離れたところで、ソフェルさんがそう言いました。
私達は村から出た後、しばらく歩いて人気のない場所まで来ていました。それから、ちょっと話が長くなるかもしれないからということで、私達は適当に座れそうな場所を探し、腰を下ろしました。
「さてと……えっとね、まず結論から言うと、あの場所で魔女を名乗ったのがまずかった。正確にはその弟子だけど、どっちにしても結果は同じだね」
私はあの時、確かに自分が魔女の弟子であることを名乗りました。思えば、店主さんの態度が変わったのもその瞬間からだったはずです。
「魔女と名乗ることがどうしていけないんですか?」
「魔女ってのは基本的にどの村や街でも嫌われ者だからだよ。最悪、下手したら処刑されることもあるしね」
「処刑!?」
処刑という言葉はひどく衝撃的で、一連の出来事に放心していた私の脳を一瞬で覚醒させました。
「そうだよ。だから無闇に自分が魔女であることを誰も言わないんだ。ほら、村に入る前にフード被ってって言ったでしょ?あれは自分が魔女であることをばれにくくするためなんだ。魔女って公に顔が割れてるのもいるから、素顔のままじゃ村から石を投げられることもあるんだよ。だから私とユリィも村に入る時はフードを被るようにしてるの。ツキミちゃんはこっちの世界の人間じゃないし、誰も知らないだろうから隠す必要はないかなって思ったんだけど、私達と行動してるんだし、やっぱり一応ね」
「なるほど……すみません、軽率なことをしてしまって」
そういった理由があったとは露知らず、私はフードを取るばかりか、魔女の弟子であることを名乗ってしまって、お二人にも迷惑をかけてしまいました。
「こちらこそごめんね。やっぱりそこは先に説明しとくべきだったよ」
ソフェルさんは申し訳なさそう謝ってくれました。
「ところで、アルさんはこういう話してくれなかったの?魔女が嫌われてるとか、簡単には話してくれてると思ってたけど」
ユリィさんが不思議そうに言いました。
そういえば、私が初めて先生に会ったとき、先生がそんな言っていた気がします。恐怖の対象、嫌われ者……あの時は聞き流してしまいましたが、今になってその言葉の意味を思い知りました。あの時先生が言っていたことは、こういうことだったのですね。
「確かに以前そんなことを言ってました。でも聞いたのは恐怖の対象、嫌われ者だということだけで、詳しいことまで聞いていません」
「そう。じゃあしょうがないわね」
「でも、どうして魔女というだけでこんなに嫌われるんですか?」
私は当然の疑問を投げかけました。魔女というだけであそこまで毛嫌いされるのは少々異常な気がします。多分、何かしら然るべき理由があるのでしょう。
「それはねぇ……理由なんてあってないようなものなの」
ソフェルさんがいった言葉は予想だにしていなかったものでした。
「あってないようなもの……どいうことですか?」
「一応ね、理由はあるの。でももう随分昔から、魔女は悪い奴だっていう認識が根付いちゃってるから、今ではもう反射的に魔女に嫌悪を示す人が多いの。理由がないっていうのはそういうこと」
理不尽どころの話ではありませんでした。魔女という存在はそれほどまでに、この世界では忌み嫌われているものだったのです。
「では、その理由っていうのは何ですか?昔に一体何があったんですか?」
「……その辺りは、私よりもアルの方が詳しいと思うから、アルに聞いたらいいよ。多分、教えてくれるんじゃないかな」
先生の方が詳しいということは、もしかして先生はその理由とやらに関わっていたことがあったということでしょうか。家に帰ったら聞いてみましょう。
「私も……たことか……」
ふと、ソフェルさんか何か言葉を零したような気がしました。
「ソフェルさん?何か言いましたか?」
「ううん、何でもないよ」
どうやらそれは私の気のせいだったみたいです。
「それじゃあそろそろ帰ろうか。あんまり遅くなると、アルにどやされちゃうからね」
ソフェルさんが立ち上がったので、私とユリィさんもそれに続いて立ち上がります。そしてソフェルさんが先を歩き、私が後ろを付いていこうとしたところで、ユリィさん不意に隣に並んできました。
「これからは気をつけなさいよ。魔女だとわかったら容赦しないって奴はたくさんいるんだから。顔が割れちゃった以上、常に警戒はしときなさい」
「はい。ご忠告ありがとうございます」
「別に良いわよ……ねえ、あんたは……」
「え?すみません、良く聞こえなかったのですが」
「……いや、何も言ってないわよ。気のせいでしょ。それよりほら、早く行かないと置いてかれるわよ」
ユリィさんは駆け足でソフェルさんを追いかけました。
「あ、待ってください!」
ユリィさんが何か言いかけたように思ったのですが、私の気のせいだったのでしょうか。
そんな風に思いながら、私は慌てて二人の後を追いかけたのです。