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そこは村というより大きめの集落といった感じで、私が想像していたものよりも簡素な場所でした。それは恐らくコンクリートや鉄など、私の世界では頻繁に使われているものが見当たらなかったこともあるでしょう。変わりに、建物は木材が主に使われており、それはまるでキャンプ場などにあるコテージのようにも見えます。造りもしっかりしているみたいで、多少の台風ではびくもしないのだろうとに思えます。
行き交う人達は、忙しなく畑仕事をしている人もいれば、動物の世話をしてる人、藁の束の上に寝転がってる人など様々でした。子ども達は村中に走り回っており、どの世界でも子どもは元気なものだと思っていると、私はその中に一人にぶつかっていまいました。
「大丈夫ですか?」
ぶつかりそうになった子、女の子は「うん」と言ってそのまま一緒に遊んでいたと思われる子達とどこかへ走って行ってしました。
「活気のある良い村ですね」
「そうだね。視線がちょっと気にはなるけどね」
ソフェルさんにそう言われ、周りを見回すと、村の方々は物珍しそうに視線を私達に向けていました。こういう風に注目されてしまうと少々緊張してしまいますが、ローブを羽織った上に顔を隠しているのですから、怪しく見られるのはしょうがないとも言えるでしょう。
「さて、この店だよ」
ソフェルさんが案内してくれたのは、村の中でもひときわ大きな平屋の建物でした。
「ここは酒場でね。ここの人は美味しい料理を出してくれるんだよ」
「本当ですか?それは楽しみです!」
この世界の料理がどういうものなのか、とても興味があります。一体どんな物が出てくのか、楽しみにしておきましょう。
私達がお店に入ると、店内はお昼時ということもあってかお客も大勢いました。食事をしてる人、テーブルに突っ伏して寝てる人、中には明るいうちからお酒を飲んでいる人もいました。
ソフェルさんがカウンターで注文をしてくれるようなので、私とユリィさんは空いている席探し、腰を下ろしました。
「人が多いわね」
「そうですね。それだけここが人気なんでしょうか」
「というよりここしかご飯を食べる場所がないってところね。そんな大きな村じゃないし」
やはり、これより大きい規模の村もあるのでしょう。いつかは別の村にも行ってみたいものです。
そんな話をしていると、すぐにソフェルさんが戻ってきました。
「お待たせ、注文してきたよ。ところで、ツキミちゃんってお酒飲める?」
「え?私、お酒は飲んだことないです……」
というより飲んではいけない年齢なんですけども……。
「そうなの?ユリィだって飲んでるのに」
「そうなんですか!?私と年齢はそう変わらないはずですよね!?」
「確かにツキミとは歳は変わらないと思うけど、何でそんなに驚いてるの?」
「いえ、私のいた世界では私やユリィさんの年齢だとお酒は飲めないので」
「そうなの?でもまあ大丈夫なんじゃない?だってここは別の世界なんだし、気にしても無駄でしょ?」
ソフェルさんは事も無げに言いました。確かにここにきて日本の法律が、なんて気にしても仕方がないことですが、どうして罪悪感があります……。
「ま、無理に飲まなくてもいいよ。今日は料理を食べに来たんだしね」
ソフェルさんがそう言うと、ユリィさんも「ですね」と同意していました。そう言ってもらえると、私も気が楽です。
そうしてしばらくすると、料理が運ばれてきました。料理は元の世界で見たことがあるようなものもあれば、初めて見るような、どんな味がするのか予想がつかないようなものもありました。
「それでは、いただきます!」
私は早速運ばれてきた料理に手をつけました。それはどれもこれもが食べたことがない味や触感をしていて、ソフェルさんが言っていたとおり、味も非常に美味しいものでした。
「どう?おいしい?」
夢中になって食べる私を見ていたソフェルさんが嬉しそうに聞いてきました。
「はい、おいしいです!」
「それはよかった。どんどん食べてね」
私はその言葉に甘えて、どんどん料理をいただきました。
それからしばらくは食事を楽しみ、お腹も膨れたところで私達はお店を出ることにしました。そしてソフェルさんとユリィさんが先にお店を出て、私もその後に続こうとした時、
「料理おいしかったかい?」
カウンターからここの店主と思われる男性の方が話しかけてきました。
「はい、おいしかったです。ありがとうございました」
私はお礼を言う際にフードを取りました。被ったままでは失礼に当たると思ったからです。
「それはよかった。お嬢ちゃん良い食べっぷりだったからな。作った甲斐があるってもんだ。ところでこの辺りの子じゃないよな?見たことない顔だ」
「はい、私はアルトネアさんのところでお世話になっている、というより弟子をやっています」
「え?アルネトアって、あの魔女のかい?」
その瞬間、店主さんの目の色が変わりました。先ほどの友好的な態度は消え、明らかに嫌悪の目で私のことを見ています。そして翌々周りを見ると、周りのお客さんも同じような視線を私に向けていました。
「は、はい。そうですが……」
「そうかい、じゃあさっさと帰ってくれ」
店主さんは吐き捨てるようにいいました。
「え?」
「さっさと出てけってんだよ。魔女の関係者に長居されるのは迷惑だ。しかも弟子なんてな」
「ど、どうしですか?」
「どうしてもこうしてもないんだよ!いいから出てけ!」
唐突な店主さんの、男性の怒号に、私は立ち竦んでしまい足が動かなくなりました。そしてそれは、店主さんには意地悪く立ち退かない輩の様に見えたのでしょう。カウンターから出て、苛立ちを露に私へ手を伸ばそうとしてきました。
「こっち来なさい!」
その時、唐突にユリィさんが私の手を引いてくれました。はっとした私は引かれるままに出口の方へ歩きました。店主さんは私が出て行くのを見て、その場で留まってくれたようで、追いかけては来ませんでした。
「大丈夫?」
外で待っていたソフェルさんが心配そうに言いました。
「はい……あの、あれってどういうことなんでしょう?私、何か気に障ることでも」
「説明は後でね。とりえず村の外に出ようか」
「わ、わかりました……」
あの店主さんの態度の急変はどういう事なのでしょうか。それに周りの人達も……あんな視線を浴びたのは生まれて初めてです。虫の居所が悪かったのか、それとも私が何かしてしまったのか、一体どうしたというのでしょうか。
そんな疑問を頭に抱えながら、私達は早足に村を後にしました。