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私はソフェルさんとユリィさんと一緒に、近く人村へ向かいました。その道中、私は先生に聞き損ねたことがあるのを思い出しました。もしかしたらソフェルさんなら知っていることかもしれません。
「そういえば、魔法を使っていたら疲労感がすごかったんですけど、魔法は使ったらそういった症状が出てくるものなんですか?」
「あれ?その辺はまだアルから聞いてないの?」
ソフェルさんが意外そうに言いました。
「はい。とりあえず修行といった感じだったので」
「適当だなぁアルったら。そうだね、魔法は使ったらその分だけ体に疲労が溜まるんだ。だから魔法を使い過ぎると倒れちゃうこともあるんだよ」
なるほど、あの時感じていた倦怠感や疲労感はそういうことだったのですね。これからはその辺りも考慮して魔法を使わないといけません。
「ユリィも無理しすぎて何回か倒れたことがあるんだよ。ねぇ?」
「自己管理ができていないみたいで恥ずかしい話ですけどね……」
ユリィさんは気まずそうに顔を伏せました。
「いいのいいの。実際に倒れるまでやらないわからないこともあるから。例えば自分の限界とかね」
「限界ですか?」
「そうだよ。自分の力量を理解しておくは大事だよ。危険な状況に陥ったとして、自分の限界に気付かずに魔法を使い過ぎて倒れちゃいましたじゃ大変だからね。ツキミちゃんもその辺りは気をつけたほうがいいよ。まあ流石にアルもその辺りは気に掛けてくれてはいるだろうけどね」
昨晩、食べ物と毛布を持ってきてくれましたが、あれは私が倒れていないかの確認も含めてのことだったのでしょうか。もしあの時私が倒れていたら、先生は介抱してくれたのでしょうか……いえ、介抱とまではいかないでしょうが、もしかしたら起こすくらいはしてくれたかもしれません。
「ところで、村に行って食べ物をいただけるということでしたけど、先生の家には碌なものがないっていうのは、どういうことなんですか?」
昨日はパンと木の実のようなものをいだきましたが、家にあるのがそれだけだったということは流石にないはずです。
「いやね、アルってすっごい偏食なの。食べたくないって物が多いから家にある食べ物も限定されててね、毎度同じようなものばっかり食べてるの」
「そんなに酷いんですか?」
「酷いね。一人で暮らしてて誰も咎める人がいないもんだから好き勝手にやってるんだよ。一応、体壊すぞって警告はしてるんだけど、あの性格でしょ?聞く耳持たずなのよ」
やはりどの世界においても栄養バランスというのは大事なのでしょう。でも、先生にそんなこと説いても、素直に聞き入れてくれるとは思えませんね……。
「じゃあ、そこはツキミが何とかしないとね」
ユリィさんが唐突にそんなことを言いました。
「私が?どうしてですか?」
「だって、アルさんってその内きっとツキミにご飯を作らせるわよ。というか一回作り始めたらその後はずっとツキミの仕事になるだろうし」
言われてみればそうかもしれません。日常生活におけるそういった役割は、恐らく私の仕事となるでしょう。料理を作るよう言い渡される日も、きっとに来るはずです。
私としては、先生の家に身を置かせてもらっている立場なので、そういった役割を与えられるのは吝かではありません。しかし偏食家となると、作る料理にかなり難儀しています。料理の勉強もそうですが、如何にして健康に良いものを食べて貰うか考えなければいけませんね。
「これは……大変な仕事になりそうです」
「頑張ってね。まあ、弟子暦が長い私は料理もできるし、もしわからないことがあったら聞いてくれていいわよ」
ユリィさんは自慢げに胸を張りました。
「でもこの前は料理失敗してたよね。あんなしょっぱいスープ私初めて飲んだよ」
「師匠!今そんなこと言わないでください!いや、その、その話は違くてね」
ソフェルさんがにやにやと横からちゃかすと、ユリィさんは恥ずかしそうに、慌てた様子で弁解しようとしていました。
「はい、是非お願いしたいです!私はこの世界についてまだ何も知らないので、教えてもらえるならすごく有り難いです!」
失敗くらい誰にでもありますし、そんなことは気にしません。それに、これなら料理を教えてもらうという名目で友達に、ユリィさんに会うことができます。きっと楽しい時間が増えることでしょう!
「そ、そう?それなら教えてあげるわ……っと師匠、そんなわけで今後は料理を教える為に時間を取らせてもらうことがあると思うんですけど、いいですか?」
「うん、いいよ。ユリィがアルの家に行ってもいいし、ツキミちゃんが私達の家に来てもいいから。そのかわり、他の事を疎かにしたらダメだよ」
ソフェルさんは悩む様子もなく、すぐに了承してくれました。私が先生に同じことを言ったら、きっとダメだと言われることでしょう。
「わかりました。ありがとうざいます。よし、許可は出たから、暇があったらそっちに顔を出しに行くわ」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「アルにも事情を話とかないとねー……おっとそろそろ村にだよ」
そうこうしている内に村の近くまで来ていたみたいです。村はどこだろうかと周辺を見ると、少し先に小屋のようなものが見えました。村はもうすぐそこのようです。
「さて、それじゃあフード被らないとね。ツキミちゃんも一応被っといてね」
「え?どうしてですか?」
「うーん……理由は後で説明するよ。本当は先に説明しとくつもりだったけど、話し込んじゃったからね。とりあえす、フードは極力外さないようにしてね」
「わ、わかりました」
私は出掛ける時に先生からもらったフード付きのローブを羽織い、フードを被りました。ソフェルさんは私とユリィさんがフードを被ったことを確認すると、「行きましょうか」と私達の先頭を歩き出しました。ユリィさんがその後に続き、私はユリィさんの後ろに続きました。