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魔女の弟子となりて  作者: 新沼
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 その後、先生はソフェルさんとユリィさんを家に招き入れました。いえ、正確には、

「折角来たんだからお茶くらい出してよー。ツキミちゃんと話したいし」

 ソフェルさんがそう粘り強くせがむものなので、先生が仕方なく折れたという形でした。 私は先生にお茶を出すように言い渡されましたが、昨日今日来たばかりの私ではどこに何があるのかわからないと伝えると「適当に探しな」とだけ言ってソフェルさん達と席に着きました。

 しょうがないと思いつつ、私は家の中を探し回りました。しかし、それらしいものを見つけることができず私がもたもたしていると、その様子を見かねたのか、先生は重い腰を上げ、カップとお茶のある場所、そして淹れ方を教えてくれました。こちらの世界のお茶はどうやら紅茶に近いようです。

 私は用意したカップを机まで運び、ソフェルさんとユリィさんにお出ししました。

「次からは一人でやるんだよ」

「わかりました」

 先生は自分の分のカップを持って席に着きました。私も空いている席に腰を落ち着けます。

「それで、アキノ ツキミちゃんは――」

「あ、ツキミと呼んでもらって結構ですので」

「それじゃあ、ツキミちゃんって呼ぶね、それで、ツキミちゃんはどこから来たの?この辺りに村?それとも街の方?」

 ソフェルさんが尋ねてきた内容は、私の出生という今現在で最も答えづらいところでした。

「えっと、私は……せ、先生、言っちゃってもいいんでしょうか?」

 こういった、異世界から来たなんて不可思議極まりない話は、極力他人に話ず隠しておくのが定石なのではと何となく思います。

「別にいいよ。私の不利益にはならないし。というかその辺を説明しないとお前の目的にいつまで経っても近づけないと思うんだが」

「ああ、確かにそうですよね」

 言われてみればその通りです、経緯を話さないことには協力をお願いすることも難しいでしょうし。

「抜けてるわね、あんた。まあ私から誰かに話すようなことはないから、そこは安心なさい。誰に話すかはあんたが決めればいいわ」

 先生は元の世界に帰る為の手助けをしない、以前決めたその条件を考えると、本当に先生は自分から話す気はないのでしょう。これは私だけの問題だということなのです。

「何々?どうしたの?何か特別な事情でもあるの?」

 私と先生のやり取りを聞いていたソフェルさんは興味津々のようでした。

「はい、特別……というか特殊な事情がありまして……」

「何なの?よかったら話してくれない?」

 ユリィさんもソフェルさんほどは表情に出ていませんが、この話に興味があるようでした。

「えっと、実はですね――」

 自分が別の世界から来たこと、魔法を使えるようになるために先生に弟子入りしたこと、元の世界に帰る方法を探していること。私はこれまでの経緯を二人にお話しました。

「何か別の世界に帰る方法に心当たりはありませんか?」

 そうして手掛かりがないかお聞きしたのですが、

「うーん……残念ながらないなぁ。ごめんね」

「師匠がわからないなら、私もわからないわ。ごめんなさい」

「いえ、大丈夫です。謝らないでください」

 残念ではありますが、そんな簡単に帰る方法が見つかるわけはありませんね。ひょっとしたらと、ちょっとだけ期待はしていましたが。

「ほんとにごめんねー。何か分かったら教えるからさ……ところで、そのツキミちゃんが居た世界ってどんなところなの?そっちのほうが気になるなぁ」

「私も気になるわ。ツキミのいた世界」

「そういえばその辺りの詳しい話は私も聞いたことなかったね。丁度いいから、話しな」

「わかりました。そうですね、まず――」

 三人から説明を求められた私は、自分のいた世界について説明した。国、乗り物、家電、インターネット、学校……全てを詳しく話していたら切りがないので簡潔にではありましたが、私の世界の生活、文化について三人に説明しました。まだこの世界に着たばかりの私はこの世界のことをまだよく知りませんが、恐らくはこの世界のそれとは大きく異なっているのでしょう。

「私もそっちの世界に行ってみたい!」

「うへー……すごいわね」

「どれこもれも便利そうね。あんたそれ全部作れないの?」

 三人の反応がそれを物語っていました。そのうち約お一人は無茶なことを仰っていたので「無理です」とお断りを入れておきました。

「ところで、二人はさっきは外で何してたの?アルが杖を構えてたみたいだけど」

「魔法の修行をやってたんです。まだ習い始めたばっかりで上手くできないんですけれども」

「何の魔法を?」

「えっと、エアあとは杖先に火を点けるくらいですね」

「え!?もうエアを使えるの!?」

 ユリィさんが身を乗り出して驚いていました。

「そんな、使えるなんてものじゃありません!ちょっと強めの風を出せるくらいで、とても胸を張って出来ると言えるようなものじゃないです」

「そ、そっか。私はその魔法使えるんだけど、使えるようになのるのに十日は掛かっちゃったから、すごいなと思ってね」

 十日……個人によって多少の前後はあると考えると、先生が言っていたことは本当のようです。

「ありがとうございます。でも私もまだまだなので……早く進歩しないと先生に怒らてしまいますから。精進あるのみです」

 私がそう言うと、先生は「当たり前だ」とぶっきらぼうに言いました。ちゃんと使えるようにならないと生活が危うくなる可能性が高いので当然です、とは言いませんでしたが、「はい」と返事はしておきました。

「ツキミちゃんはすごいねぇ。アルは教え方が厳しいだろうけど、頑張ってね」

 はい、先ほど身をもって痛感したところです。

「あとさ、うちのユリィと仲良くしてあげて。この子同じ年くらいの子と交流がないから」

 本人の目の前でそういったことを言うのはどうかと思いますが……。

「そんわけだから、改めてよろしくね、ツキミ。魔法では負けないわよ!」

「はい!こちらこそよろしく願いします!」

 どうやらユリィさん本人は気にしていないようでした。

 それにしても、こちらの世界に来てすぐに友達ができるなんて!修行と手伝いばかりの毎日になると思っていましたけど、これで楽しい日々も送れそうです!

 その様子を見ていたソフェルさんは嬉しそうに頷いていました。

「うんうん。仲良くしてくれて私も喜ばしいよ。それじゃあ仲良くなった記念に私が言い物を食べさせてあげよう。てなわけで、ちょっとツキミちゃん連れて行くね」

「は?勝手なこと言ってるんだい」

 ソフェルさんの言葉を聞いて、先生が不機嫌そうな声を出します。

「だってこの家ろくなものないでしょ?」

「食べ物くらいあるわよ」

「その食べ物が問題だって言ってるの。決まったやつしか食べれないなんてツキミちゃんが可愛そうだよ。それに、この世界のことを知ってもらうには丁度いいじゃない。大丈夫、身の安全は私が保証するから」

「……わかったよ。行って来ればいいさ」

 先生は思いのほか簡単に許可を出してくれました。多分、ここ言い争ってもソフェルさんが折れないだろうと踏んで早々に諦めたのでしょう。

「ありがと。それじゃあツキミちゃん、行こうか」

「わかりました。でも、どこに行くんですか?」

 この世界に来たばかりの私では皆目検討もつきません。どこに連れて行かされるのでしょうか。

「そういえば言ってなかったね。行き先はこの近くにある村だよ」


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