表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の弟子となりて  作者: 新沼
5/27

5

 そうしてエアの練習を始めてからどれくらい経ったのでしょう。辺りはもう暗くなり始めていました。森はまたしても気味悪さを増していきます。

「くぅ……もう一度……」

 当の私はというと、かなり苦戦をしていました。ああでもない、こうでもないと、試行錯誤を繰り返しましたが、未だに枯葉を揺らすことすらできません。私はこのままエアを使えないのかもしれない、ひょっとしたら先生に見限られてしまうかもしれない、そう悲観するほどに進歩がありませんでした。

「どうだい?ちょっとはマシになったかい?」

 不意に声が聞こえたかと思うと、先生が近くに立っていました。

「……いえ、まだ全然」

「そうかい。今日は野宿で決定かね。ほれ」

 先生はそう言って唐突に毛布を投げ渡してきました。私はそれを落ちないように抱き止めます。……きっとこれを使って夜を越せということなのでしょう。

「あとこれ、腹が減ったら食べな」

 先生はそう言って私が抱えてる毛布の上に布の包みを乗せました。

 そういえば練習に集中していてご飯を食べるのを忘れていました。そう意識した途端、急にお腹が減ってきました。

「暗くなってきたら裏手に集めた葉を使って焚き火でもしな。家に火をうつしたり山火事起こしたりしするんじゃないよ。それじゃあ、引き続き頑張りな」

 そこまで言うと、先生はすぐに家の中に戻ってしまい、こちらが声を発する隙はまったくありませんでした。一人で残された私は、ひとまず毛布を汚れないような場所に置いてその上に座り、貰った包みを開けました。中には数切れのパンと、木の実と思しき物がいくつか入っていました。

 元の世界を食事を考えると非常に慎ましいものでしたが、もらえるだけ感謝しなくてはと、それらを大事にいただきました。

「……それにしても疲れました……何だか体がだるいです……」

 そう独り言を出してしまうくらい、体が疲弊していました。私は魔法を使っていただけで体を動かすようなことはしていないのですが、妙に倦怠感が蓄積しているように感じます。魔法を使いすぎるとこのような症状が出るのでしょうか。今度先生に聞いてみましょう。

「と言っても、今度がいつになるのかはわかりませんが……」

 何とか現状を打破しなくては、元の世界に帰るどころか安定した生活を営むことすらできません。何かヒントになるようなものはないのでしょうか。

「……そういえば、エアのような魔法……というよりも道具、でしたかを使うのを前に本で読んだことがあるような……」

 先生は想像しろと仰ってました。先生の魔法は一度しか見れなかったので、それほど覚えていませんが、あの時に読んだものは今でもしっかり覚えています。これを手本にして再現するようにすればいけるかもしれません。

「……まずはやってみましょう」

 私は杖を手に立ち上がり、再び練習を始めました。

 考えるてるだけではダメです。出来る限りいろんな方法を試しましょう。もしこれで上手くいかなかったら……その時はまた別の方法考えればいいのです。

 私は杖を構えると、昔読んだものを必死に思い出し、その場面を頭の中で何度も繰り返しました。すると、

「……あっ!」

 気のせいかもしれませんが、枯葉が少し揺れたような気がしました。私はこの感覚を

逃す前に、もう一度魔法を使いました。

「……揺れました!」

 吹いた風で揺れているわけではありません。あの枯葉は間違いなく私の魔法で揺れています!

 私は喜びのあまり、一人小躍りしてしまいました。

 しかし、先生がこれを完成と認めてくれるとは限りません……むしろ認めてくれない可能性の方が高いです。だったら、少しでも完成に近づけなければいけません。本当に喜ぶの先生が認めるくらいの魔法が使えるようになった時です。

 私は枯葉に狙いを定めると、疲れも忘れて練習に没頭しました。

 そうして一晩が経ち、夜が明けた頃、襲い来る強烈な眠気に負けた私は毛布で身を包み、家の壁にもたれ掛かって泥のように寝ていました。

「ツキミ、エアは使えるように……って、寝てるのか。ツキミ、起きろ」

「……え……あ、先生。おはようございます」

 家から出てきた先生に寝ぼけ眼で挨拶をすると、先生は「おはよう」とそっけなく返してくれました。

「魔法の法はどうなった?」

「えっと、できるようになったと思います……一応……多分……」

「歯切れが悪い返事だね。とりあえず実際にやってみな。見ててやるよ」

「わかりました」

 私は毛布を取り払って立ち上がると、枯葉に向かって杖を構えました。私は大きく息をすい、時間をかけてゆっくりと吐き出しました。

「それでは、いきます」

 私は、魔法を自分ができる限りの力を振る絞り、魔法を放ちました。

「…………ふむ」

 私の魔法は、枯葉を木から落とすことはできました。

 しかしそれは、先生のように飛び散らせたわけでもなく、しかも一枚の枯葉だけでなく周りの葉っぱも数枚巻き込んでしまいました。要するに未完成の状態なのです。

「………どうですか?」

 一晩か掛かって私に出来たのは、これが限界でした。これ以上のものを望まれると、更に時間が必要になるでしょう。私は先生の言葉を息を呑んで待ちました。するとしばらくして、先生は口を開きました。

「……何かコツでも掴んだのかい?」

「はい。私が元の世界で読んだ本を手本にしました」

「あんたの世界では魔法のことを書いた本があるのかい?いや、ということは魔法も存在するのかい?」

「いえ、魔法はないですし、そういった本があるわけではないんです。私の読んだ本に偶然この魔法と同じようなことをしている場面があって、それを具体的に絵で想像したんです。後はその絵の通りになるように練習を繰り返しました」

「へぇ、そんなのがあるんだね」

 先生はその本に関心を示したようでした。私が今持っていれば見せることができたのですが、残念ながら学校帰りだったもので、そういった物は持ち合わせていません。

「ええ。それで……私の魔法はどうでしょうか……」

「及第点といったところだね。ひとまずは合格にしてやるよ」

「合格……え!?合格ですか!?」

 先生があまりに呆気らかんと言い放ったので私は反応が送れてしまい、聞き間違いなのではと思わず聞き返してしまいました。

「そうだよ。本当はもっと時間が掛かる思ってたんだけどね。よくもまあ一晩でここまでできるようになったもんだ。少し驚いてるよ」

「あ、ありがとうございます!」

 先生から魔法を認められるばかりかお褒めの言葉をいただいた私は、喜びのあまり、その場で飛び跳ねてしまいました。

 あの本を読んでおいて本当によかったです!元の世界に帰ったら私の身を救った家宝として扱うことにしましょう!そう考えるくらいには舞い上がってしまいました。

「あ、ちなみに本来ならもっと時間が掛かるって、どのくらい掛かるものなんですか?」

「人によるが……大体七日ってところだね」

「そんなにですか!いや、ということは……先生は私を七日ほどは私を家に入れるつもりはなかったのですか?」

「家の前だし、食べ物だってちゃんと渡してるんだ。七日くらい野宿したって死にはしないよ。まあ、これくらい追い込こめば必死になるだろうから、三日で形にはなるだろう予想していたんだがね」

 やはりと言いますか、この人は相当にスパルタな方のようです。今後もこのような仕打ちが続いていくのでしょうか……いえ、きっと教育は初めが肝心だと厳しく当たっただけなのでしょう。

「けど結果的には一晩で形にはなっていたし、こっちとしては嬉しい誤算でありがたいことだ」

「それはよかったで――」

「しかしまだ粗い。圧縮も完全にはできてないし、一回を撃つまでの時間が掛かり過ぎてる。狙いも雑だし、技術的な部分がまだまだだね。あれじゃ空気の塊を飛ばしたというより、強風が吹いたのと同じようなものだよ。見てな」

 そう言って先生は杖を構えました。そして、空を切る音が聞こえたかと思うと、決して細くはないであろう太さの木の枝が、パァンと破裂するような音と共にへし折れました。

 私はその光景に目を丸くしてしまいました。

「今回はこれで合格だが、最低限これくらいの威力は出せるようになってもらうつもりだよ。次回からどんどん課題を難しくしてくつもりだから覚悟しときな」

 どうやら今後はこれ以上に厳しい日々になりそうです。私の精神が磨り減るのが先か、元の世界に帰るのが先か……行く先々には苦労の未来しか見えません。

 そんな合格の喜びをも打ち消すようなスパルタ宣言を受け、私が肩を落としていたときでした。

「やっほうアル。元気にしてる?……あれ?その子誰?」

 知らない声がしたので顔を上げてみると、そこには知らない女性の方が立っていました。更にその人の傍には、私と同じくらいの年頃と思われる女の子がいました。

「あら、ソフェルじゃないか。どうしたんだい」

 女性の方の名前なのでしょう。どうやら先生とは見知った顔のようです。

「ちょっと近くまで来たから顔でも出そうと思ってね。で、その子は?」

「私の弟子だよ。つい先日になったばかりだがね」

「へぇ!アルが弟子を取るなんて!」

「何さ?文句でもあるのかい?」

 先生は不満気に眉をしかめました。

「別にないよ。ただ意外だなぁと思ってね。弟子を取るようには見えないし」

「ちょっとばかり訳ありでね。今回は特別さ」

「なるほどなるほど。じゃあそういうことにしておきましょうか」

 先生は「ふん」と言って顔を背けました。

「ねぇあなた、名前はなんて言うの?」

 女性の方……ソフェルさん今度は私に視線を向けてた尋ねてきました。

「わ、私は秋野月深といいます」

「アキノ ツキミちゃんか……珍しい名前だね。私はソフェル。アルと同じ、魔女だよ。こっちは私の弟子のユリィ」

 ソフェルさんがそう言うと、女の子、ユリィさんは一歩前に出て、

「ユリィよ。同じ弟子同士、よろしくね」

 そう名乗ってくれました。

 私はこの世界に来て早々に二人目の魔女に、更にはその弟子にも出会ったのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ