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魔女の弟子となりて  作者: 新沼
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 この世界の朝は私の居た世界とは変わらず、ゆっくりと太陽が昇り、真っ暗だった森に燦々とした光を徐々に広げていました。

 私は粗の目立つの造りの箒を手に、その様子を家の前で眺めていました。それはこの世界に来て不安しかなかった私の気持ちを少しだけ軽くしてくれました。自分の知った光景があるというのは、こんなにも心の頼りになるものだと初めて知りました。

「ツキミ!掃除は終わったかい!」

「は、はい!終わらせました!」

 家の中から大声が聞こえたので、こちらも力強く返事を返す。そしてしばらくすると、家のドアが開き、アルネトアさんが顔を出した。

「お、綺麗になってるね」

「はい、頑張りました。集めた葉は裏手の方にまとめておきましたので」

「そうか。それじゃあ次は調合の手伝いだよ。家に入りな」

「わかりました。先生」

 私は小走りで家に入りました。

 昨日、アルネトアさんの弟子となった私は、人に教えを請う立場となりました。なので、それに合った敬称、アルネトアさんのことを先生と呼ぶことにしました。アルネトアさんは自分がどう呼ばれるかについてはさほど気にしていない様子だったので、この提案はあっさりと通りました。

「それじゃあこの赤い草と青い草を混ぜておきな。道具は棚に専用のやつがあるからそれを使えばいい」

 私は「わかりました」と応え、棚にあったそれらしい擂り鉢を取り出しすと、そこに先ほど受け取った草を入れて混ぜ始めました。

 昨晩、先生の弟子となった私でしたが、先生はその時にあることを言いました。それは私が元の世界に帰るための手助け、方法探しは一切しないということでした。先生は私を扱き使うつもりでいるのだから、帰すなんてもったいないことはしないとのことです。

 しかし、魔法に関しては身に付けてもらう必要があるので、そこだけは面倒を見てやる。だからそこから先は自分で何とかすることだ、ということでした。

 帰る手伝いをしてもらえないのは残念ですが、少なくとも魔法も教えてもらえるのです

。何の望みもないよりは全然良いといえるでしょう。何より、先生が拾ってくれなければ今頃どうなっていたことか……その分はしっかりお手伝いしなくてはいけません。

「ツキミ。調合はできたかい?」

「はい。出来上がりました」

「よし。よこしな」

 私は先生に擂り鉢ごと薬草を渡しました。

「これなら使えるね。それじゃあ今度は――」

 そうして先生は次の指示を出すので、私はその指示に従い、あくせくと手伝いをしました。それこそ休む暇もなくと言った感じで、普段の学校生活を考えると、こんな風にせわしなく過ごすのは久しぶりのような気がします。

 そうして手伝いを始めてしばらく経った頃でした。

「よし、とりあえずはこれでいいね。ツキミ、ちょっと外に出るよ」

「わかりました。今度は何をすればいいんですか?」

「作業を一端終わりだ。魔法の練習をするよ」

「本当ですか!?」

 私は心躍りました。昨晩、人生で初めての魔法を使ってからというもの、あの感動が忘れられなかったのです。今日の手伝い中も、いつになったら魔法を教えて貰えるのかと内心そわそわとしていたのですが、まさか昨日の今日でこんな機会が回ってくるとは思いませんでした。望外の喜びというものです。

「当たり前じゃないか。昨日教えると言ったばかりだろう。もう忘れたのかい」

「そんなことはありませ!むしろいつ教えて貰えるかと思っていたほどです!」

「そうかい。それじゃあ早速やるとするかね」

 私達は家の外に出ました。いつの間にか日も完全に登っており、昨晩は気味が悪く見えた森も、幾分か雰囲気が柔らかくなったように見えます。

「それじゃあ早速だが、昨日やったようにもう一度火を点けてみな」

 先生はそう言って私に杖を渡してきました。それは昨晩に使わせてもらったものとは少し作りが違い、どこか使い古されているように見えました。

「それはあんたにあげるよ。私が前に使っていた杖だ。別に壊れたって構わないから好きに使いな」

「いいんですか?ありがとうございます!」

「いいって。それより早く火を起こしてみな」

 先生がそう急したので、私は「はい」と返事をし、すぐに火を点けに掛かりました。すると、少し時間は掛かりましたが、昨日のようにちゃんと火が点きました。昨日も同じことをしましたが、魔法を使うこの瞬間はやはり感動ものです。

「よし、ちょっと時間は掛かってるが点けることはできるね。昨日のがまぐれじゃなくてよかったよ。それじゃあ今度は……」

 先生はそう言いつつ、辺りを見回し始めたかと思うと、ある方向に杖先を向けました。その先には数えるほどの枯葉しかついていない、背の低い木がありました。

「あの木の一番上についてる葉っぱを見てな」

 先生がそう言われ、遠目にそれと思われる枯葉を見ました。すると突然、空を切るような音が聞こえたかと思うと、その枯葉が木から飛び散りました。

「えっ!な、何をしてんですか!?」

「空気の塊を撃ったんだよ。威力は弱めにしたがね」

「魔法でそんなこともできるんですか!?」

「できるさ。まあさっきの火を点けるのよりは難しいけどね。火を点けるのは自然な火を想像するだけでいいが、こっちは空気を塊として圧縮し、それを撃つわけだからね。自然にはそんなことは起きだろう?だからこそ想像しづらいし、その通りに魔法を扱う技術も必要になる。これが出来たらようやく魔法を使えるって名乗れるね。ちなみこういった魔法には名称が付いている。この魔法はエアって言われてるものさ」

「なるほど……」

 やはり何事にもそれ相応の理屈というものが存在しているのでしょう。魔法とは奥が深いものです。

 しかしながら、今回のはこれこそが魔法といった感じがひしひしとします。まさに興奮さめやらずといった心境です。

「あんたもやってみな」

「わかりました」

 私は先ほど先生が撃った木に杖を向け、先ほどの見た魔法を使おうとしました。すると、杖の先に微かですが風が発生しました。後はこれを圧縮し、木に飛ばせばいい……そう思っていたのですが、どれだけ頑張っても風が起こるだけで、飛ばすどころか圧縮することすら満足にできませんでした。

「……やっぱりまだできないか」

 先生はこうなることが分かり切っていたのか、当然のことのように言いました。やはりそれだけ難しい魔法なのでしょう。

「何かコツはないんですか?」

「出来るまでやる、慣れるまでやる。それだけだよ」

「そ、そうですか」

 実際にやって覚えろということなのでしょう。魔法というものを私はよく知らないだけに、これを習得するには時間が掛かってしまいそうです。

「じゃあ、出来るようになるまでそこで練習しな。それまでは家の中に入れないよ」

「へ?」

 思わず間の抜けたことを出してしまいました。

「へ?じゃないよ。これくらいできるようになってもらわないと使い様にならないんだよ。私の弟子になったからにはそれなりの魔法を使えるようになってもらうつもりだからね」

「き、今日一日ではできる気がしないのですが……」

「だったら今夜は外で野宿しないとだね。まあ物騒な獣とかは近寄ってこないと思うから」

「思うってことは近寄ってくるかもしれないってことですか!?危険じゃないですか!」

「そうだね。だから危険な思いをしたくなかったら死ぬ気でエアを使えるようになりな」

「ま、待ってください!」

「出来るようになったら呼びな。じゃあね」

 聞く耳持たずといった様子の先生は、そのまま家の中に入ってしまいました。更に中から閂をかけるような音もしました。

 きっと先生も本気ではない。暗くなる前には家の中に入れてくれるはず。そう願いたいものですが、昨日今日で知った先生の性格を顧みると、あの人は本当にやりかねないという考えの方がどうしても勝ってしまいます。

「しょうがありません。とにかくやってみましょう」

 私は腹を決め、エアの練習を始めました。

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