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愛しの彼女を埋めました。  作者: 喜多川 信
第三巻
57/101

第五十七話




     9



 スタント部との特訓は順調であるらしい。放課後の特訓風景を森田君が見るかぎり、スタント部の面々は、すっかりヨロズ先輩に懐柔されているようだった。


 特訓の合間、ヨロズ先輩はスタント部の面々と談笑している。

 水やタオルなど、森田がスタント部の面々に配っていると、人目を気にするように、木陰からヨロズ先輩にちょいちょいと手招きされた。


「先輩、なんでしょう?」

「森田君、今週中に決行しようと思う」


 ずいぶん早いな、と森田君は驚いた。


「今週、ですか?」

「ええ」

「先輩、すこし急ぎすぎじゃないですか?」

「そう?」

「はい」


 ヨロズ先輩が小首をかしげたので、森田君は素直に頷いた。


「風紀委員会の動きが気になります」

「目立った横やりは来ていないわ」

「だから、気になるんです」


 森田君は香苗の実力を知っている。

 保羽リコもアホの子ではあるが、かなり鋭い第六感を持っている。そもそも、風紀委員会を今まで出し抜いてこられたのは、ほぼ生瀬さんのおかげなのだ。


「嵐の前の静けさ、だと森田君は言うのね?」

「おそらく」

「根拠があるの?」

「はい。第二新聞部が動いていました」


 生瀬さんの報告ではそうだ。

 第二新聞部が単独で動いたとは考えにくい。


 パシャ子の背後に香苗が居るのは、ほぼ間違いないだろう。森田君側の動きを正確に掴まれてはいないはずだが、さりとて、用心に越したことはない。


「もう三度目です、先輩。ボクたちは今まで二回とも、風紀委員会の裏をかく形でやってきました。さすがに、風紀も甘くないはずです」

「先手必勝は通じない、と?」

「むしろ、こちらを不用意に動かすための風紀の策かも、って」

「風紀委員会が出遅れている今が好機、とも考えられるわ」

「今までは、もう少し慎重だったとボクは思います」

「だとしても、いいんじゃないかしら……? だって三度目よ、森田君。私たちも慣れてきているのだから、少しくらい大胆になってもいいはずだわ」

「でも、そういう時が一番危ない、って言いますし」

「なら、少し見てて、森田君」


 そう言うなり、ヨロズ先輩はスタント部の面々へと駆け寄った。


 そして準備を整えると、数メートルの高所から、衝撃吸収マットへと向けて飛び降り始める。二度、三度と。素人の森田君が見ても、綺麗な飛び降りだった。


「見事なもんだよ、ほんと」

「すごいよね、銀野会長って」

「入ってくれないかなぁ、スタント部に」


 スタント部の面々がそう囁き合っている。

 スタント部の一員として文句なく活動できるレベルになって居るらしい。


 こんな短期間に習得できるものではないはずなのだが、ヨロズ先輩は完璧にモノにしていた。スタント部の面々が完全に仲間として、ヨロズ先輩を信頼してすらいる。その様子を見せられてしまえば、森田君としてはぐうの音も出ない。


「森田君、どうかしら?」

「そう、ですね……」

「スタント部の協力は取りつけているし、お墨付きも貰ったわ」

「……ええ」


 心に引っかかるモノを感じつつも、反論の根拠が言葉に出来ない。

 根拠のない反論は我がままだ。


「ボクが、すこし慎重すぎたのかもしれませんね……」

「森田君の言う通り、機はうかがうわ。油断はしない」

「はい。では、ボクも少し根回しを」


 ヨロズ先輩と別れ、森田君は向かった。色々と訪ねたい人がいる。教職員や各種委員会の代表者、副会長に話を通しておくのだ。

 もしもの場合の策を、森田君なりに強化しておこうと考えたのだ。


 効果のほどは不確かだが、第二新聞部も訪ねておく。

 森田君は山下にも自ら頭を下げに行った。

 これまでは生瀬さん経由だったが、それではいけないと思ったのだ。


「山下、協力して欲しい事が出来た」

「ああ、任せろ、森田」


 山下は二つ返事だった。

 先日の一件以来、活力がみなぎっているようだった。


「生瀬さんも、いいかな? また、協力してもらう事になると思う」

「……うん。何でも言ってね、森田君」


 生瀬さんの協力も取り付ける事に成功し、森田君は安堵する。

 この二人の助力は百人力である、と。


 もう一押しあれば心強い。スタント部や映研へも、森田君は話をしに行った。当初から温めておいた秘策の詰めに取り掛かったのだ。




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