神田美也と、その父娘
夕飯の支度は娘と二人で分担して行っている。
小さい頃からなんでも真似をしようとする好奇心旺盛な性格。
それが高じてか今では真似事のおままごとから、料理を分担して行うという習慣へと変わって行っていた。
最初は娘が俺の手伝いだったが、娘はみちるさんから料理を教わっているらしく、今では俺が娘の手伝いだ。
今夜のメニューは白米に味噌汁、焼き魚にぬか漬け(自分で漬けてるんだぞ)野菜炒めである。
「美也、きゅうり切っておいたぞ」
「うっわ、形バラバラじゃん。ちゃんとそろえてよお父さん」
「細かいなぁ・・・」
「どこが!?全っ然太いじゃん!!特にこのきゅうりなんて」
「きゅうりじゃなくて美也の性格の話だよ・・・」
神田美也。
高校1年生になったばかりの俺の娘だ。
どこにでもいるようなちょっと生意気な女子高生。
隣町の高校に通っているのだが、驚くことなかれ。
娘の代で高校側が迎える生徒は最後になる。
つまり娘の代の卒業と同時に廃校が決定しているという事なのである。
過疎過ぎて生徒がいないのだ。
ちなみに娘のクラスは男女合わせて6人しかいない。
むしろよく今まで廃校せず残っていたなと感心するくらいである。
「はい、出来たよお父さん」
「早くない!?お父さんまだきゅうり切っただけなんだけど・・・」
「お父さんが遅すぎるの!」
「そうかな・・・」
15年も経てば少しは包丁さばきもうまくなるかと思ったが全然そんなことは無かった。
俺って凄い不器用なのだなぁと今更ながらに思う。
美也と一緒にテーブルに夕飯を並べ席に着いた。
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
美也はいつでも元気いっぱいである。
それがこの娘の数少ない長所だ。
見た目も可愛いと思うのだがそれは親馬鹿が過ぎるか。
「何よ~人の顔じろじろ見て~」
「いや、何でもない。あ、お父さん就職決まったぞ」
「えー!うっそー!!良かったじゃーん!!あたしこれでもすっごい悩んでたんだからね~!」
「そうなの?」
ずぞぞと味噌汁を口に運ぶ。
わかめと豆腐のシンプルな味噌汁。
う~む、ちょっと味が濃かったかな・・・(味噌を入れたのも私ですごめんなさい)
「このままお父さんの就職が決まらなかったら学校やめて仕事探さなくちゃーって真剣に考えてたんだからね~?」
「ははは、お父さんの甲斐性がないのがいけないんだけど、それでも蓄え位あるから心配するな美也」
実は結構厳しかったりなんかして・・・
高校だって何かとお金がかかるし、食費はまあ近所の人が結構食材をおすそ分けしてくれたりするから結構浮いてるけど美也のお小遣いだってあるし(美也はバイトをしていない)。
「まー何はともあれ良かった~。ね、おとう~さん!」
「ああ、心配かけてすまなかったな。」
「で、何の仕事?また遠くまで通勤するの?」
「いや、喫茶店ガイアでウェイターを」
「ぶっは!!似合わね~~~!!」
吹き出された。
失礼な奴だ。
「学校帰りに寄ったげるよ~ん」
「いいよ恥ずかしい」
「え~!照れるなよ~~!」
「美也を見せるのが恥ずかしいって意味だよ」
「出来が悪い娘ってこと!?」
「冗談だ冗談」
「んもう!」
我が家庭には笑いが絶えない。
絶やさぬように努力をしている。
いや、努力はしていないかな。
勝手に笑いが溢れてきやがる。
二人でだって十分幸せだ。
幸福な家族になれて本当に良かったと思う。
今日も笑い声に包まれながら夜は更けていく。