喫茶ガイアと、そのマスター
結局ガイアまで5分で到着するという結果に終わった。
公民館からドク樋口の研究所まで迷ったとはいえ3時間かかった。
ちなみに公民館からガイアはさほど離れていないので・・・
とんでもない性能だこのスーツ。
でも超人的な動きが出来るのはいいのだが、肝心の俺の頭や視界が追い付かないのが困った。
ゲームで自分が操る主人公が能力か何かで急に機敏な動きをして逆に操作がおいつかない、そんな感じだ。
森を抜ける際に結構太い木の枝なんかにぶつかりまくって沢山折ってしまった。
スーツのお陰か痛くなかったが、当たる度に警告音が鳴るのも少しげんなりした。
音がデカいからびっくりする。
35歳の中年がビクッってなる。
とりあえずガイアの店の脇でヒーロースーツを脱ぎ、手提げ鞄とは別に持ってきていたリュックサックの中にしまった。
さて、ガイアに入るか。
正直町唯一の喫茶店というが俺は一度も入ったことなかったのでどんな人が経営しているかもわからないのであった。
押す、のシールが貼ってあったので押してドアを開く。
少し重たいかと思ったが案外すんなり開くタイプのドアだったらしい。
カランコロンと頭上で小気味のいい音のベルが鳴る。
「いらっしゃーい」
「どうもこんにちは」
カウンターの奥、エプロンを着たおじさんが座っていた。
俺より少し年上だろうか、40代くらいのおじさんであった。
この人がマスターだろうか。
「ごめんね、腰をいわしちゃってさ、カウンターの真ん前に座ってもらえると運んでいかなくていいから助かるんだが」
「あー、自分神田小介です。アルバイトの」
「おー!!君が救世主か!!」
救世主?
大げさな。
「ウェイターの予定です。救世主じゃないです。」
「うちの店とこの町を救ってくれるんだ、救世主だよ君は!いや、ヒーローだったかな?」
にやりと笑うマスター。
そうか、この人は知っているんだったか。
「マスターは知っているんですよね?」
「今野雄太41歳、喫茶ガイアのマスターにして君のサポート役だ。ま、サポートと言っても今はむしろ君がうちの店をサポートしてもらうんだけどね」
そういってあっはっはと大声で笑う。
いい人そうだ。
その後簡単な仕事の説明を受けて翌日からこの喫茶店ガイアで働くことになった。
とりあえず少し雑談をしてからその日は帰宅する事になった。
家に到着するころには辺りが薄暗くなってきていた。
『こんばんわ~お疲れ様です』
背後から女の人に声を掛けられる。
ドキン!と胸が高鳴る。
この声はお隣のみちるさんだ。
「こ、こんばんわ!みちるさんも今お帰りですか?」
「いえ、今日はちょうどお休みでしたのでお買い物に行って戻ってきたところです。」
にっこり笑う顔はまさに女神だ。
みちるさんは独身で去年お隣に引っ越してきたばかりである。
物腰が柔らかく、少しおっとりしているがしっかりしている・・・と思う。
お隣だからと何かと世話を焼いてくれる。
おかずを作って持ってきてくれたり、たまに俺と娘と3人で一緒にご飯を食べたりしてくれる。
娘も母親がいない事を気にしてはいないだろうが、みちるさんにはよく懐いているようだ。
実はみちるさんに思いを寄せているのは・・・秘密だ。
今更こんな中年が再婚とかどうなのよ!
娘だっていきなりお母さんになる人だよーなんて言って納得してくれるか!?
・・・まあ相手がみちるさんなら娘も「やったー!」って喜びそうではあるけど。
「あ、そうだ、自分再就職何とか決まりまして」
「おめでとうございます!何のお仕事ですか?」
「公民館の近くの喫茶店で働くことになりました。心配かけてすみませんでした」
「いえいえ、じゃあ今度遊びに行っちゃおうかしら。」
ああもう可愛いなこの人は。
その後みちるさんと別れて玄関のドアを開けた。
「ただいまー!」
『おかえり~』
居間から娘の返事が返ってきた。
さて、夕飯の支度をするとしますか。