マッド樋口と、そのヒーロー装備
ガコン!と大きな音を立てて地下室への入り口が開く。
まるでいつか見た映画の宇宙船の入り口のようだ、などと思っていた。
開閉ハッチを開けるとプシューと謎の蒸気の様な物が噴き出す。
うっ!と咄嗟に息を止める。
アルコール臭、除菌用のアルコールスプレーかくっそ、思いっきり吸い込んじまった。
ごほごほと咳き込みながら梯子を下る。
大して段数は無いのですぐに地下室に到着した。
地下室はそれなりに広く、マッド樋口に出会ったらどうやってこんな空間を作ったんだと是非ツッコミを入れてやりたい。
『神田君か、よく来たね』
背後から急に声を掛けられた。
ビクッてなってしまった自分が恥ずかしい。
グルグルの瓶底メガネに白髪に白衣を着た謎の男性が立っていた。
チリチリの白髪はどう見てもカツラだ。
こいつがマッド樋口?なんて怪しい男なんだ。
怪しいという言葉はこの男の為に使うために生まれたのではないか?と言うくらい怪しいのである。
見た目、雰囲気、全てが怪しいのだ。
「初めまして、神田小介です。町長から言われてきました。」
「うん、聞いてる。早速だがヒーローの仕事について説明しよう。」
ヒーロー?なんだそりゃ。
そう、この時の俺は自警の仕事という認識しかなかったからヒーローという単語に非常に違和感を覚えたのを覚えている。
交番のパトロールなどの手伝いとか、頻繁に起きているという窃盗犯が出た時に応援に駆け付けるとかそういう仕事だと思っていたから。
「あの~・・・ヒーローってどういう意味なのか自分にはさっぱりなんですけど・・・」
「近頃起きてる窃盗や強盗は知っているな?」
「ええ、回覧板のプリントで読んでいる程度の認識しかないですが」
「犯人、実は組織的犯行でね、バイオ生物や、」
「バイオ生物・・・」
「アンドロイドの兵を使ってこの町を乗っ取ろうとしているらしいんじゃ」
「アンドロイドの兵・・・」
う~ん話がうさん臭くなってきたぞ・・・
しかもいきなりじいさんみたいな喋り方になってるし。
「その敵組織、名は知らんので勝手にワシが『シャドウ』と名付けた」
「うわぁ、ありきたりですね」
「君はそのシャドウから町の平和を守るのが役目なのじゃー!!!」
「はぁ・・・でも自分は一般人ですよ?体鍛えているわけじゃないし」
「その為にワシがいるんじゃろうが」
マッド樋口はおもむろにロッカーをいくつか広げて中身を出して手に取っていく。
服のようだがこれってもしかしてヒーロースーツってやつ・・・?
「君はこの中から好きなスーツを選んでくれ。正体を隠すという目的もあるが、とりあえずこれらを着れば超人になってシャドウのアンドロイドやバイオ生物なぞいちころにできるぞい」
「そんなバカな」
「さては信じていないな?では実践して見せよう。」
パンパンとマッド樋口が手を叩くと天井からウィーンと何かがゆっくり降りてくる。
マネキンに何かを着せている物のようだ。
良くは知らないがTVとかで見る特殊部隊の装備見たいだ。
ヘルメットに防弾チョッキ(?)、透明な盾を持たせている。
暴徒鎮圧とかで警察が着ている様な、と言えば想像しやすいだろうか。
「では実際にスーツの機能の一部を実践する。」
マッド樋口は何着かあるスーツの中から一つ、なにやらメタルなガントレットの様な装備を腕に装着する。
「危険だから少し下がっていたまえ。これを腕に付けてマネキンを軽く殴ると・・・」
マッド樋口がゆっくりとマネキンへと拳を伸ばす、すると・・・
ドッグォォォォン!!!!と轟音を立ててマネキンが消し飛んだ。
正確にはマネキンの上半身のみがはるか後方へ吹き飛んだ。
「言った通りじゃろ?」
俺はとんでもない仕事に就職してしまったのかもしれないとこの時初めて思ったのだった。