第二話、田舎への帰省
只今、寒さに震えながら話を書いてます薩摩隼人です。現在2つの話を並行作業で進めているので更新はまちまちになります
「さ、さみぃー!!やっぱこっちの寒さはこたえるなぁ」
東京から飛行機で一時間、さらに電車とバスを乗り継いで、俺――佐倉勇人は二年ぶりに地元に帰ってきた。
バスを降りてしばし、周りの景色を見回してみるものの、何もかもが呆れるほどに変わっていない。
一面に広がる田畑、後ろへと振り返ればそこには雪化粧をした山々。デパートどころかコンビニすら存在しない。ここが本当に現代日本なのかと疑いたくなる。
「ったく、何も変わってないなここは。本当に不便だし、遊ぶ所は何もないし…50年前にタイムスリップさせられた気分だ」
舌打ちしながら、家を目指して歩く。
商店街の通りを歩きながらふと空を見上げると、ちらほらと雪が降り始めていた。
「勘弁してくれ…」
ただでさえここまでの移動で疲れているのに、更に追い打ちかと心底げんなりした気分になる。
やはり、戻ってきたのは間違いだったかもしれない。そのまま東京に残って、適当に遊んでいた方がまだ良かったのではなかろうか。
「こんな町、さっさと変わっていってくれないかなぁ。バスが一時間に二本ってどういうことだよ」
東京とのギャップの大きさにはため息しか出ない。この町の住民も、よくこんな不便な所に住んでるもんだ、と変に感心しながら歩いていた勇人の目に、 いつもいつも、見慣れた一軒の家が見えて思わず足を止め、表札を確認する。
「佐倉勇一…ようやく着いた」
腕時計で時間を確認すると、3時を少し過ぎたところだった。
親父はいないだろうが、お袋はいるかもしれない―――そう思って呼び鈴を鳴らすと「はーい」と聞き慣れた声がして、パタパタと玄関に走ってくる音がした後、玄関の戸が開いた。
「まあ、お帰りゆうちゃん。久しぶりねぇ」
「母さん、俺もう22なんだから、いい加減ちゃんづけはやめてくれよ」
料理を作っていたのか、エプロン姿で出迎えてくれた女性が、俺の生みの親である佐倉早紀だ。いつもいつも、帰省して顔を会わせる度に、俺の事をちゃんづけで呼んでくるのには辟易していたが、満面の笑みで出迎えてくれている母の姿を見ているとどうしても強くは言い出せずにいた。恐らくは一生ちゃんづけで呼ばれ続けるのだろう。
「はぁー…」
「長旅で疲れたやろ?ゆうちゃんの好きなぜんざい出来てるから、早く上がってきなさい。ほらほら」
「本当!?いつもありがとう」
よくよく匂いを嗅いでみると、確かにぜんざいの甘い匂いがする。
ぜんざいの甘い匂いに釣られるようにして、俺は数年振りの我が家へと足を踏み入れた。
「ゆうちゃんは座って待ってて。すぐにぜんざい持ってきてあげるからね」
「分かった」
とりあえずこたつに入ってテレビでも見ようと居間に向かったのだが…
「ああ、未だにこんなごっついテレビが生存していたとは」
居間に置かれていたのは、今や絶滅危惧種になっているだろうブラウン管のテレビだった。
「母さん、まだこんな古いテレビ使ってたの?」
台所に向かって声をかけると、ちょうどお椀いっぱいにぜんざいを注いだ母さんが戻ってきたところだった。
「まだ使えるんやから、捨てるのは勿体ないやろ?」「確かこれ、俺がガキだった頃から見てた気がするんだけど」
「そうねえ…もう18年位は使ってるわねぇ」
「18年…」
予想の更に斜め上の数字に、呆れを通り越して「よく今までもったな」と感心した。
…ん?待て、ということは…
「もしかして、風呂も昔のままだったり?」
「もちろん♪」
笑顔を浮かべながら即答した母さんの言葉に、最早何も考えまいと思いつつぜんざいをすする。
「はぁ〜っ、冬はやっぱりぜんざいだなぁ」
冷えた体にぜんざいの甘味が染み込んでいくような感じがする。
子供の頃から、冬になると母さんの作るぜんざいがとても楽しみだったのを覚えている。この味をまた口に出来たのだから、それだけでも実家に戻ってきて良かったかもしれない。
「まだあるから、おかわりしたいときは言いなさい。その代わり、食べ終わったら裏山の小屋までお風呂を沸かすための薪を取ってきてちょうだいね」
「分かった、とりあえずおかわり!」
薪を取りに行くよう頼まれることは既に予想出来たので、特に反論する気もない。
俺は反論するよりも体を暖めることを優先し、20分の間に3度おかわりした後、薪を集めるべく我が家を後にした。