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第84話 博麗神社

2023年11月25日am10:28  博麗神社 (博麗霊夢視点)


数日前からただでさえ面倒な巫女の仕事が一つ増えた。と言うのも巫女固有の業務と言う訳ではなくこの時期には分け隔てなく増える類の面倒である。

そう、11月下旬の今頃になって雪が降り始めたのだ。つい2日程前までチラつくだけだった雪は昨晩から今朝に掛けて降り積もり、幻想郷は15㎝程の積雪を記録していた。


当然、雪が降れば除雪を行わなければならない。面倒くさがって放置すれば積もる一方だし最悪の場合、重さに耐え切れず神社が潰れる可能性もある。博麗神社とてそこまで新しい神社ではない。丁寧に扱うに越したことは無いだろう。


そんな訳で朝から雪かきに追われていたのだ。博麗神社はそこまで広くないが、それでも私のようなか弱い少女にとって重労働なことに違いない。以前、このことを遊びに来た伊吹萃香(いぶきすいか)に話したときは「私ら鬼や吸血鬼と対等に渡り合う博麗の巫女がか弱い少女だとは思えない」と笑われたが霊力やアイテムの補助なしでも充分に強い鬼には言われたくない。

こちとらどんなに修行しても霊力や道具なしで鬼に勝つのは至難の業なのだ。今の幻想郷で異変解決が可能なのは偏にスペルカードルールがあってこそなのだ


「おーい霊夢。居るんだろー」


ようやく休めると思った矢先に来客だ。除雪中に来れば手伝わせることができたが生憎と積もった雪は神社の一角にまとめてしまった後だ。

炬燵(こたつ)からでて客を迎えることも億劫でミカンの皮を剥くことに集中することした。


「何だよ。居るなら返事くらいしろよな」


程なくして騒がしい来訪者が障子を開けて居間に入ってきた


「…何の用事よ。見ての通り私疲れてるんだけど」


「博麗の巫女が雪かきくらいでへこたれてたら妖怪退治なんてできないだろ。そんなんだから神社の賽銭箱の中身がすっからかんなんだよ」


騒がしい来客…もとい霧雨魔理沙は全くの正論をかざして反論してくる。痛い所を突かれた私としても反論したいところだが、当の魔理沙はこの話を続けるつもりは無いらしい。私と対面する位置の炬燵に入りながらこちらの目を見据えている。


「はぁ、それで?何の用事」


「天狗と自衛隊の奴ら、月の軍隊を倒しきれなかったらしいな」


「そうみたいね」


「何だよ、知ってたのか。それなら話が早いな」


「当たり前でしょ。これでも異変解決は私の本業よ」


まぁ、この時期は雪かきのほうが本業になることもあるけど


「じゃあ、大丈夫そうだな。入っていいぞ」


魔理沙が声をかけてから間もなくしてよく知った少女が障子を開けて入室してきた


「なっ!?何であんたが」


驚いたのも無理は無いと思う。そこに立っていたのは稗田阿求その人だったのだから


「お久しぶりです。霊夢さん」


「どうやってここまで?」


阿求は特殊な人間だ。歴史を記録するために何代にも渡って転生を繰り返す彼女は、その副作用でか病弱で寿命も短い。そんな彼女にとってこの神社までくるのは重労働だったろう


「魔理沙さんに拾ってもらいました」


「目的地は一緒だったんだしお互い様だぜ」


魔理沙は誇らしそうにしているが雪かきで体力を使ったあとに来客への対応をしなければいけない私の気持ちも考えてほしい


「それで、あんたまで何の用事よ」


「どうやらお疲れの様ですから単刀直入に伺います。博麗の巫女は本件をどのように認識していますか」


「回りくどいのは嫌いよ」


「貴女はそういうかたでしたね。月の侵攻を貴女は異変として認識しているのかと聞いているのです」


成る程。彼女がわざわざここまで来たのはそれが理由か


「まぁ、異変に違いないと思うわ」


「それを聞けて安心しました。この件に関して博麗の巫女がほとんど動いていなかったので真意を測りかねまして」


阿求が笑みを深めながら語り続けるが彼女の言いたいことは分かっている


「一応言っておくけど彼らと対峙して異変を解決しろなんて無茶な要求は断るからね」


「おい霊夢!それは…」


魔理沙が思わずと言った感じで身を乗り出すが、この主張を変えるわけにはいかない


「山の妖怪達が本気を出しても苦戦するような連中相手に単騎で挑んだところで結果は見えてるでしょ。それに私が解決できるような異変なら、紫が冬眠の準備をほっぽり出してまであちこちに協力依頼を出すなんてことは無いわ」


八雲紫は冬眠を必要とする妖怪だ。本来は雪が積もり始める今の時期まで起きて行動するなんてことはあり得ない。そんな彼女が配下の式である八雲藍に任せることなく直接対処を行っていることからも事態の深刻さが伺える


「でもなぁ霊夢、里の奴らは月の連中を相手に戦う力なんて持ってないんだぜ。だったら多少なりとも戦うことができる私達が協力してやるべきじゃないのか?この神社もいずれ狙われるんだから今のうちに敵の数を減らしておいても罰は当たらないだろ」


魔理沙が不満そうに反論するが私から見れば事態に対する捉えかたが甘すぎるとしか言いようがない。どうしても守ってほしいならば自衛隊にでも頼めばいいじゃない

いや、待った。あれだけ人命を尊重する自衛隊が里の連中を保護しようとしなかったのだろうか?


「阿求、一応聞くけど応援を求めたのは私が最初?自衛隊の連中を頼ることはしなかったの?」


「いえ、自衛隊ではありませんが警察の方が里長や私の家を尋ねて避難することを勧めてきました。どうやら人里の為に守備隊を常駐させることは困難だとのことで」


「へぇ、それで里長はどんな判断をしたの?」


「避難はせず里を守る決断をしました。里の者は皆この決断に賛同しています」


「それで私の所に来たの?随分虫のいい話じゃない」


自衛隊から避難することを勧められておきながらそれを蹴って留まることを選択したにも関わらず私に助けを求めるとはどういう了見か


「避難とは生活の基盤を捨てることです。そう簡単に決断できるものではありません。既に里長指揮の元、自警団に総力戦体制が敷かれています。徹底抗戦の構えです」


「里の連中は本気で戦う気?」


「はい、例え貴女の助力が得られなくともその決断に揺るぎはありません」


阿求はいつになく真剣な眼差しで私を見つめる。ここに来てようやく阿求が人里の代表として私に助力を求めにきたのだと悟った


「…人里が危険に晒されたときは助太刀する。けど、月の連中相手にこっちから吹っ掛けることはしない。あくまで私の判断で動く。それでどう?」


「わかりました。感謝いたします」


全くどいつもこいつも自分勝手だ。ふと視線を感じ顔を向けると魔理沙が笑いをこらえたような表情で私をを見ていた


「何よ」


ぶっきらぼうに返すも彼女が笑うのをやめることはなかった


「いやぁ、霊夢も素直じゃないなと思ってな」


そこまで言うと彼女は笑いをこらえることもやめて普通に笑い始めた。魔理沙に言われるのは不本意だが私も大概お人好しなのかもしれない。


それは自衛隊の連中も同じなんだろうけれど…
















2023年11月27日pm2:00 地上派兵軍団第6師団野戦司令部  (イーゴル・デニス中尉視点)


「軍は直ちに陸軍第5・第6師団並びに航空宇宙軍を中核とする地上派兵軍団を編成。地上展開後、大なる火力をもって敵主力を撃滅せよ」


これが統帥部のお偉いさんが俺達に下した命令だ。敵はまともな火砲を持たない原住民であるから陸軍の2個師団を投入すれば鎧袖一触に出来るだろう…


こんな甘い予測の元に立案された作戦は、転移直後に行われた敵の大規模攻撃で現地統合司令官の役職を帯びていた第5師団長閣下が配下の参謀と共に戦死するなど当初想定された結果とは異なる最悪の事態を招いていた。機転を利かせた第6師団長のラシード少将が越権を承知で指揮を執ったために全滅こそ免れたが予定通りの2正面作戦を行う余裕は最早どこにも残っていない。


シールドのおかげで敵の攻撃はここしばらく止んでいたために復旧作業に全力を注ぐことができたわけだがそれも何時まで持つのか不安になってきた頃、師団長から会議の開催が通知された。恐らく地上派兵軍団の今後の方針を決める重要な会議になると考え気を引き締めてきたのだが…


会議室として設けられた天幕に置かれた長机の前に腰かけるのは、俺と同じように士官学校を臨時で卒業した未熟な将校と数少ない第5師団の生き残り、そして軍服をだらしなく着崩した佐官達だった。まぁ考えてみれば優秀な参謀たちは第5師団長と共に戦死なされたのだから必然的に残るのは各師団から左遷されてきた無能と、俺達のように戦時任官で配属された未熟者しかいないのだ。そのような中で師団長主催の会議が始まろうとしていた


「各自忙しい所、急に呼び出してすまない。だが重要な事案であるから心して聞いてほしい」


会議の冒頭、第6師団長たるラシード少将が神妙な面持ちで話し出したが例によって佐官連中は俯いているか話を聞くふりをしながらパソコンを立ち上げて内職をしている者がほとんどだ。全く、よくぞこれで士官学校を卒業できたものだ

ラシード少将も気付いているはずだが無視して話を進めている。信じがたいがこの師団では、このようなやる気のない会議が日常と化しているのだろう。


「…上から通達があった。援軍到着までは最低でも3ヶ月は要するとの事だ。そこで我が軍は方針を転換し紅魔方面へ進出。これを撃砕し幻想郷攻略の橋頭堡を確保する」


これには流石の佐官連中も驚いたようで師団長を凝視している


「紅魔方面ですか?しかし、我々を圧迫している最大の脅威は妖怪の山を拠点とする天狗達です。これに背中を向けての攻勢作戦は現実的ではないかと」


彼らの中では比較的まともな戦車大隊長の中佐が一早く立ち直り意見する。彼は普段は優秀な指揮官なのだが酒癖が悪く何度か問題を起こして中央から左遷されてきた人間だった。アルコールさえ入ってなければ優秀だというのは本当そうだ


「確かにそうだが第67防空連隊から提出されたレーダー記録を見た後だと、そうも言っていられなくなったんだ」


「どういう事です?」


「あの日、転移直後から我々は天狗達による大規模攻撃に晒された。結果的には第67防空連隊を始めとする各隊の活躍と対魔力シールドの展開により撃退できたわけだが、この戦闘において我々は正体不明の敵と交戦した可能性がある」


会議室のざわめきが一層大きくなる。


「ここから先は連隊長に直接話してもらう。頼む」


ラシード少将に呼ばれ少佐の階級章を付けた男が前にでた。俺は知らない人物だったが話の流れからして彼が第67防空連隊長なのだろう


「では状況を説明します。転移直後の迎撃戦において我が連隊は9K31ストレラ-1短距離ミサイル・S-75高高度防空ミサイル及びZU-23-2対空機関砲を用いた重層的な防空網を構築し対空戦闘を行いました。その防空レーダーの記録を後日改めて確認したところ我々は高高度から爆撃を受けていたことが判明しました。更に重要なのはこの爆撃がたったの3機によって行われ、第5師団司令部と指揮通信システムを構築するはずだった通信機材が正確に破壊されたことです」


「ちょっと待て。いくら混戦状態であったとは言え高高度から敵の接近を許したのか?それは君達、防空連隊の怠慢ではないのか!」


低空で接近する目標を撃墜するのはレーダー水平線の関係で近距離にならないと探知できないため難易度が高くなると言われているが、高高度を飛ぶ標的に対しては面倒な制約がないので比較的遠方から探知でき対処時間が長くなるので撃墜率が上がると言われている。

多層防空の態勢をとったにも関わらず爆撃を許したとはどういう事なのだろうか?


「通常であればそうでしょう。しかし、コイツはレーダーから消えるのです」


「でたらめを言うな!我が軍のレーダーは物理標的だけでなく魔力・霊力を始めとした不可視のエネルギーも探知できるはずだ。ましてや、高高度を飛行するために膨大なエネルギーを使用した状態でレーダーを掻い潜るなどできるわけがない」


「だから師団長に正体不明の勢力と申し上げたのです。コイツは妖怪でも鬼でもなければ幻想郷の勢力でもない可能性があります」


「じゃあ、何だと言うのだ」


「恐らく我々と同じ科学技術で武装した軍隊かと…」


「馬鹿な…信じられん」


戦車大隊長の中佐が混乱をあらわにするが防空連隊長は意に介さず話を続ける


「戦闘中、偶然捉えたこの標的に対し我が連隊はS-75ミサイルによる迎撃を試みましたが、発射直後に標的をロストしミサイルは命中しませんでした。その後、レーダーは断続的ながらもこの標的を捕え続けましたが紅魔方面への飛行を確認したところで完全にロストしました。私からの報告は以上です」


連隊長の報告が終了すると天幕の中は話の真偽や今後の方針に関して話し合う士官たちの声で一杯になった。見ると不真面目な佐官達ですら何やら近くの者と議論している。それだけこの話は衝撃的だったのだ


「あー諸君。この話は何も推測だけで語っているわけではない。先遣偵察隊も紅魔方面において何者かと交戦し全滅しているのだ。紅魔方面には何かがある。そして我が軍はこれを叩かねば生き残れない」


「しかし、師団長。敵の詳細が不明のまま闇雲に軍を進めれば思わぬ損害を被る可能性があります。ここは増援の第4・第3師団の到着を待ち、主力を持って敵を撃滅すべきです。それまではここを防衛拠点とし防御に徹しましょう」


「私もそうしたいところだが、この積雪でシールドが質量弾を防ぐ能力が無いことが発覚した恐れがある。シールドを貫通し地上に雪が積もっているのを敵が見れば物質を弾く能力が無いと一発でばれるからな」


軍服を着崩した不真面目な佐官達の筆頭格である大佐がもっともらしい理由を述べて消極案を提案するもラシード少将の主張を前にあっけなく沈黙する


「統帥部は我々にこの敵を撃滅することを求めている。だが、現状維持を鑑みるにそれは限りなく不可能だ。徴兵により頭数をそろえたに過ぎない兵は弱体であり士官は左遷された一匹狼たちで構成されている。勝てる訳がない!…だが、現状維持に執心し櫛の歯が欠けたように兵を失うのならば一途の可能性に掛けて打って出たいと思うのだ」


彼の言葉を聞いた俺は純粋に驚いた。ラシード少将の発言は人事決定権を握る統帥部を公然と批判したと捉えかねられない危険なものだからだ。下手を打てば少将はこの場で罷免され抗命罪で軍法会議にかけられかねない


「まぁそうかもしれませんね…よっしゃあ統帥部の馬鹿どもに目にもの見せてやろうじゃないか!」


「そうだ!俺達をコケにしやがった中央の連中を見返してやろうや」


「妖怪だろうが何だろうが敵じゃねぇ!我ら赤軍に栄光を!」


『Союз нерушимый республик свободных(自由な共和国の揺ぎ無い同盟を)』  

 

だがしかし、その言葉で消極的だった士官達のやる気に火がついた。彼らの中に燻っていた統帥部への不満をぶつける機会を作ったことによる結果か…俺には分からないがこの奇妙な一体感は我々に不思議な心地よさを与えてくれた


『Сплотила навеки Великая Русь(偉大なルーシは永遠に結びつけた)』


あれだけ騒然としていた天幕内は、もはや歌われることがなくなって久しい旧祖国の国歌を歌う兵士たちの声で一杯となった


『Да здравствует созданный волей народов(人民の意思によって建設された)』


例えどんな逆境に陥ったとしてもこの歌声が続く限り我らが敗北することは無いだろう。


『Единый, могучий Советский Союз!(団結した強力なソビエト同盟万歳!)』






用例解説


伊吹萃香…幻想郷に帰って来た鬼。 幻想郷に帰って来る前は地底の旧都に住んでいたが、それ以前は妖怪の山に住んでいて、そこでは鬼の中でも『山の四天王』の1人とされ恐れられていた。


9K31ストレラ-1短距離ミサイル…ソビエト連邦が開発した車載式の近距離防空ミサイル・システム。NATOコードネームはSA-9ガスキン。


S-75高高度防空ミサイル…ソ連が開発した高高度防空ミサイル・システム。歴史上最も多く配備され使用された地対空ミサイルでNATOコードネームではSA-2 ガイドライン


ZU-23-2対空機関砲…第二次世界大戦後にソビエト連邦が開発した低空防空用の牽引式対空機関砲。ガス圧作動方式の2門の23mm口径2A14機関砲をZPU-2後期型の二輪と三脚を備えた砲架に搭載している。牽引状態から車輪を折りたたんで接地させて射撃準備を整えるのに30秒かかるが、緊急時には牽引姿勢のままでも射撃は可能である。





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