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第82話 月面陸軍第6師団

2023年11月17日pm1:15 月面軍前線拠点 (アンナ・ルシコフ曹長)


転移直後に受けた奇襲攻撃は私達に大きな損害を与えた。空間転移装置が稼働する前に受けた訓示で奇襲の可能性も指摘されていたが、いくら身構えていても被害を防ぐことはできなかった。


「第44歩兵連隊所属のアンナ・ルシコフ曹長です。第6師団司令部はここでしょうか?」


敵の攻撃による被害は我々の予想を大きく上回り多くの兵士が戦死していった。なかでも私の親部隊である第44歩兵連隊の損害は甚だしく連隊長以下参謀たちも軒並み戦死してしまい戦闘中盤からは士官学校時代の同期だったイーゴル少尉が連隊長代理を務めねばいけないほどであった。

まぁかくいう私自身も中隊長の戦死に伴い、中隊長代理として指揮を下士官達をまとめる立場になってしまったのだが…


これだけの被害を受けた為か通信も混乱しており師団司令部の位置も戦闘の混乱のせいで不明となってしまい、士官学校の同期たちと情報を交換しながらやっとのことで師団司令部にたどり着くことができた。もっとも戦闘終結から4時間が経過した今になって、ようやく指示を求められる状態になっただけという軍隊としてはかなり残念な状態ではあるのだけれど…


「おう、入れ」


指揮所の中は高級将校達が走り回るほどの大混乱に陥っており、とてもではないが対応してもらえそうにないように見えたが、私に気付いた第6師団長ことラシード・ベレズスキー陸軍少将が直接対応してくれた


「失礼します。第44歩兵連隊長代理より師団司令部にて作戦対応の指示を求めるように命ぜられここに参りました」


「ご苦労。代理と言ったが連隊長はどうなった?誰が指揮を執っている?」


「はっ。連隊長殿は開戦直後に敵の砲撃を受けたようで付近に展開していた参謀や通信用員と共に戦死なさいました。現在は私と同期だったイーゴル・デニス少尉が臨時で指揮を執っております」


ベレズスキー師団長の顔が驚愕に染まった


「新任の少尉が連隊の指揮を執っているのか!?全くだから統帥部の見通しは甘すぎるとあれ程…まぁいい。連隊の損害はどの程度把握している?」


「我が隊は師団前方に展開していた為、砲撃の被害が拡大したようで約3割の兵士が死傷しました。ただ、多くの指揮官を失った影響もあり情報が錯綜しているので今後増える可能性もあります」


「そうか…第44歩兵連隊の損耗率は甚大だな。第5師団の残存兵力と統合し再編成を図るべきだろうな」


第5師団の残存兵力?第5師団と言えば私達、地上派兵軍団のうち最大の脅威であるとされる妖怪の山の制圧を担当する部隊だったはずだ。それが残存兵力とはどういう事か


「あの、第5師団も大きな損害を受けたのですか?」


「あぁ、敵の浸透部隊に対して有効な反撃手段を確立しようとしていたところを砲撃されたらしい。第5師団司令部付近で連続的な爆発が確認された直後に通信が途絶した。仕方がないから第5師団司令部は指揮統制能力を喪失したと判断し先の戦闘では我々が第5師団隷下の第67防空連隊と第71工兵大隊の指揮を執り対空戦闘と魔力防護シールドの展開を命じた。本来ならば権限逸脱行為だが何せ緊急事態だったからなぁ」


なるほど。急な敵の撤退の原因が魔力防護シールドにより敵の火力攻撃が無効化され対空砲火の統制がしっかりしてきたことだとすれば腑に落ちる。


巷では軍人として不適格などと言われているらしいが彼もまた、軍人としての資質を持っているようだ


「それで司令部はどうなったんです?」


「戦闘終結後、伝令を向かわせたが第5師団司令部は瓦礫と化していたとの事だった。遺体も見つからないが生存は絶望的だろうな。我が軍はこれで優秀な参謀と強力な通信設備を一度に失ったことになる」


「そんな…」


この混乱は多くの将校を失ったことだけが原因ではなかったのか…この戦争において第5師団長は地上派兵軍団・現地統合司令官を兼任していたのだ。彼が戦死したとなれば今後の作戦行動に大きな支障が出ると見て間違えないだろう


「それにしても通信設備の喪失による被害は予想以上のものだ。よもや自分の師団の損害報告が4時間たっても上がり切らないとは…まぁ工兵隊にはメンテナンス用に確保されていた予備部品から通信設備の再構築を

行うよう命令しているが復旧はいつになるのやら」


「第5師団長が戦死なされたのであれば後任の現地統合司令官は本国から送られてくるのですか?」


部隊にも大きな損害が出た今、幻想郷の2代勢力たる妖怪の山と紅魔館を相手に2正面作戦は不可能だろう。どんなに頑張ったところで各個撃破される未来しか見えない


「いや、我々が使用した空間転移装置は気難しい代物でな。エネルギーの充填に大変な時間を要する上、数が限られている。後任を送る力は本国にはないはずだ」


「では…閣下が後任に?」


「不本意だがな。全く俺は上官に死なれやすいらしい。宮城包囲戦で上官が全員死んじまったがために中佐から少将に昇進して歩兵連隊長がいつのまにか師団長になってる。しかも、派遣先では数時間と立たないうちに現地統合司令官だと?はぁ…つくづく人生ってのは不思議なもんだ」


38歳の若さで何を言っているのか…まぁここまで損害を受ければ運命を呪いたくなるのもわかるが


「では現地統合司令官閣下。第44歩兵連隊は閣下の命令を待っております。是非ご命令を」


師団長はニヤリと笑ってから向き直った


「そうかい。だが君の連隊にはまず指揮官にふさわしい階級を与えねばな。只今を持ってイーゴル・デニス少尉を中尉に任命し正式に第44歩兵連隊長に任命する。それとアンナ・ルシコフ曹長」


「はっ!」


「曹長が中隊の指揮を執るわけにはいかんだろう。君も今この瞬間を持って少尉に昇進だ。おめでとう」


「ありがたく拝命します」


「よし、福利厚生隊から階級章をもらっておけ。それと第44歩兵連隊は準備ができしだい第71工兵大隊と協同し破壊された滑走路の修復に努めよ」


「了解しました。第44歩兵連隊は第71工兵大隊と協同し滑走路の修復に努めます」


「期待している。いってよし」


「失礼しました」


私は士官学校でさんざん教わった挙手の敬礼を師団長に送り、駆け足で連隊本部に戻ることにした





















2023年11月17日pm7:33  ”いずも”会議室 (古賀海将視点)


陸海空の迷彩服を着た幕僚たちが集まる”いずも”の会議室はさながらお通夜のような雰囲気となっていた。当初は順調に進行していたFF作戦も奇襲の効果を失うと簡単に瓦解した。


こんな空気の会議の司会を押し付けられたいつもの海尉が気の毒だが致し方ない


「これよりFF作戦に関する報告会を行います。早速ですが作戦の経過を配布資料にまとめましたのでご確認ください。」


海尉の声に促され幹部達が険しい表情のままページをめくっていく。海尉はさぞかし進めずらいことだろう。




【FF作戦における経過報告書】


一、作戦目的

(一)天狗部隊の水際撃滅作戦の支援

(二)敵の指揮通信機能の破壊並びに兵站機能の喪失


二、指揮官

統合任務部隊指揮官


三、兵力

前進観測隊、特殊作戦群、護衛艦隊の一部、スカーレット編隊、特科小隊


四、作戦要領

(一)敵主力の注意が天狗部隊に向いている間に敵の指揮通信施設に対する爆撃を敢行

(二)敵の混乱と天狗部隊の火力攻撃により対空戦闘の統制が取れなくなったところで護衛艦よりトマホーク巡航ミサイル並びにSSMの射撃を加え敵の兵站上必要と思われる目標に対する物資を精密攻撃

(三)前進観測隊の火力誘導のもと特科小隊による効力射を加え敵主力を撃滅する


五、経過報告

(一)爆撃は成功するも敵の指揮統制を完全に崩すことには失敗

(二)敵の優れた統制射撃により天狗部隊に被害が出始める

(三)敵は正体不明の防護手段を用いて天狗火力部隊の魔力攻撃を無力化

(四)これらの事態を受けて天狗部隊指揮官の大天狗は作戦中止と部隊の撤退を決断。これを受けてFF作戦は前提条件の崩壊により中止


六、その他

(一)敵の防護手段に関しては関係各所に問い合わせ解析中

(二)偵察衛星『まつしま』からの画像を解析した結果、敵主力の装備は第二次世界大戦後期~冷戦初期のソ連軍装備に極めて類似していることが判明。尚、航空戦力の存在・性能に関しては一切不明

(三)指揮通信機能喪失後、敵の反撃が強まったことに関しては因果関係不明

(四)天狗部隊は本作戦で2割弱の部隊を喪失




以上がその内容だ。

我の損害は皆無であり敵に一定の出血を強いることができた点に関しては評価できるが、敵の無力化には至らなかった


「やはり作戦目的の統一化ができなかったのは問題でしたな。旧海軍のミッドウェー作戦のように現場が混乱しかねません」


「それもそうだが、最大の問題は敵が使用した正体不明の防御手段だろう。これの原理が分からないことにはおいそれと攻撃できない」


海自の主席幕僚の発言を遮るような勢いで空自の石川三佐が発言すると周囲からも同調するような声が挙がった。特にあと一歩の段階で攻撃タイミングを失った海自の砲雷科の面々がこの防御手段の早期解明と突破策の立案を主張していた

気持ちはわかるが功を急いでは問題の本質が見えずらくなってしまう


「高橋三佐、君でも検討はつかんのか?」


趣味の軍事知識を公務に使ったせいもあり最近では知らない兵器は彼に聞けと言う空気ができ始めている。もっとも本人もまんざらではなさそうなのでいいのだが…


「攻撃を着弾前に無力化する兵器であればいくつかは思いつきますが…」


「例えば?」


「本艦にも搭載されているCIWSのような近接防御兵装や電磁パルスなどを使用したシールドのようなものでしょうか?ただ、天狗部隊が使用した火力は質量弾ではなくエネルギー弾ですから詳細はサッパリですよ」


「君でもダメか…」


高橋三佐ですら知らないとなればここにいる隊員は誰も知らないだろう。議論が暗礁に乗り上げかけたとき宮津一佐が声を上げた


「ここは一つニーナ少尉に協力を要請してはいかがですか?彼女は元々月面軍の士官候補生だったそうですし彼女に聞けばあるいは…」


なるほど。宮津一佐の意見は全くもって正論であり、それ故にすんなりと受け入れられた


「決まったな。伊藤一佐、彼女達をここに呼び出していただくことは可能ですか?」


「ええ、勿論。すぐに連絡をつけましょう」


敵が使用した未知の兵器について原理だけでも情報が得られれば部下達の不安をある程度、抑えることもできるだろう。

ここは一つニーナ少尉に期待するとしよう


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