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第81話 FF作戦

2023年11月17日am9:30  ”いずも” CIC (古賀海将視点)


天狗部隊によってFOBの動きが察知された時点で統合任務部隊は第一種警戒態勢を発令し、敵主力が転移した直後にFF作戦を開始できる態勢を構築していた。


「海将、前進観測地点へ進出していた特戦群より緊急連絡です。ビーコンと思われる機材が稼働を開始し、FOB付近の警戒態勢が上昇したとの事です」


警戒態勢を発令しはじめてから2日。ついに敵は動き始めたようだ


「いよいよか。空自の状況は?」


「既に三直制を採用し24時間のアラート待機に入っています。敵主力の出現から5分以内に爆装した戦闘機の緊急発進(スクランブル)が可能な状況だそうです」


「よし、関係各部に対し警報を発令。原刻を持ってFF作戦を第一段階に移す」


「了解しました。警報発令します」


「全艦、対空・対水上見張りを厳となせ!」


号令が発せられると艦内は瞬く間に緊張感に包まれた。これも普段の訓練の賜物であろう


「E-2C早期警戒機が緊急発進。15分後に離陸します」


作戦準備があらかた整ったところで俺はマイクをとった


「全部隊に繋いでくれ」


「了解しました。少々お待ちを…繋がりました」


通信士が頷くを見てから俺はマイクの送話スイッチを押し込んだ


「達する、統合任務部隊指揮官の古賀である。作戦前の忙しい時間にすまないと思うが皆にFF作戦の目的を伝えておきたかった。FF作戦とは即ち先制攻撃(ファーストファイア)による敵司令部機能の喪失を狙った作戦である。戦争初期の段階で敵の指揮通信網に深刻な打撃を与えることで敵軍に対し大きな心理的打撃を与える。それこそがこの不毛な戦争の早期終結につながることだろう。我々自衛隊の任務は平和を守ること、そして万が一の有事の際には速やかに事態収拾にあたり平和を回復させることである。各員、自らの仕事に責任を持って取り組んで欲しい。以上」


自衛隊が他国の正規軍、それも寡兵の状態で2個師団近い敵の主力と戦わなくてはいけなくなったのだ。幹部の俺達でもそうなのだから隊員達の肩にかかるプレッシャーは相当なものだろう。

敵味方共に少ない犠牲で戦争を終わらせる。これこそが私に与えられた使命なのだ





















2023年11月17日am9:40  敵FOB周辺 隠密陣地 (射命丸文視点)


敵の前線拠点で動きが見られたその日のうちに、大天狗様をはじめとする参謀たちは事前に潜伏展開していた斥侯の拠点に陣を構えていた。

作戦は自衛隊との協議の結果、多少の変更が加えられたが大筋では以前計画されたものとほとんど変わらず、転移直後で混乱していると思われる敵主力に対する奇襲攻撃である。

協議にあたり、双方の橋渡し役として大天狗様に便利に使われたこともあって少々疲れてはいるが敵が目前に迫っているのだから贅沢は言えない


「報告致します。敵の転移装置らしきものが稼働を始め敵陣が蒼く発光しております」


同僚の鴉天狗と共に陣の幕をくぐると円卓の中心で煙草を蒸す大天狗様の姿があった。周囲の参謀達も彼には一目置いているようでそれを咎めるものはいない


「左様か。火力部隊に攻撃術式の詠唱命令を下す。抜刀隊にも即応態勢をとらせろ」


「承知しました」


一礼して同僚に目配せすると意図を察した彼は先に幕をくぐり退室した。こちらの動きを見ていた大天狗様も私が別の用事を持っていたことに気づいたようで煙草の火を消し視線で先を促してきた


「大天狗様。自衛隊の近藤三佐が面会を希望しております」


「成る程。お主の口振りだと既に外で待機してるのであろう?入れ」


実際、その通りで近藤三佐は呼ばれてから間もなくして天幕をくぐってきた


「陸上自衛隊の近藤三佐です。本作戦では私がLOを務めさせていただきます」


「ほぉ、そなたは他の自衛官とは違うな。武士(もののふ)の目をしておる。そういえば木島とかいう奴も同じ目をしていたな」


私は思わず大天狗様を凝視してしまった。確かに彼は普通の自衛官ではないのだ

事前に聞かされた説明では、彼は特殊作戦群と呼ばれる精鋭部隊の指揮官だという。それを初見で看破するとは…改めて大天狗様の凄さを思い知らされた感じだ。他の天狗たちに一目置かれるのもよくわかる

次は大天狗様をネタに記事を書くのもいいかもしれない


「…わかりますか?」


「儂を誰だと思っておる?これでも数百年は生きてきた身故、何者かは目を見ただけで大体わかるというもの」


「それは恐れ入りました」


「フッ、まぁよい。外の状況がこれほど変化している中、よもや自己紹介をしに来たわけではないのだろう?」


「まぁそうですね。火力支援のタイミングについて最終確認を行いたく…」


だが、その言葉が最後まで紡がれることは無かった。敵の前線拠点が眩い閃光に包まれ周囲を光で塗りつぶしたかと思うと次の瞬間には私を含めた人々が地に伏していた


何が起きたのか…答えはすぐに分かった


「これほどの衝撃波が発生するとは…転移装置とやらは不完全な代物らしいのぉ」


混乱する陣地でただ一人、大天狗様だけが衝撃波を受け流し直立していた。


「伝令!敵の主力が出現しました。数万人規模です!」


白狼天狗が倒れた天幕をどかしながら飛び込んできた。この様子だと待ち伏せのために準備した各拠点も同じようなありさまだろう


「来たか…近藤三佐。自衛隊はいつでも動かせる状態にあるのか?」


「ええ、自衛隊各部隊は既に臨戦態勢にあります。支援要請がありしだい火力支援を行いことが可能な状況です」


「そうか…では決まったな。敵主力に対し奇襲を仕掛ける。火力部隊、攻撃開始!」


大天狗様の命令は直ちに各陣地に伝達され、天狗たちが詠唱した大規模攻撃術式が一斉に発射された。幻想郷においても最高レベルの戦力を保有する我々の力は遺憾なく敵主力に降り注ぎ、拠点に大きな爆発を引き起こした


「おぉ、凄いな」


近藤三佐が思わずと言った感じでつぶやく


「あと2・3発お見舞いしてから抜刀隊を突入させる。自衛隊は彼らが混乱させているうちに敵の指揮通信網を叩いてほしい。どうかの?」


「ええ、こちらもそのつもりですよ。貴軍からの支援要請がありしだい攻撃可能です」


「そうか…よろしく頼むぞ。近藤三佐殿」


「お任せください。貴軍が我々と友好関係を望む限り相互に利益があるはずですから」




















2023年11月17日am9:53  F-35jスカーレット01  (加藤一尉視点)


『ホークアイよりスカーレット01。陸自部隊より爆撃要請を受領した。そちらに繋ぐ』


「ラジャー。誘導に感謝する」


『作戦の成功と無事を祈る。GOODLUCK』


E-2C早期警戒機に搭乗している管制官からの激励を受け、スカーレット編隊は敵に向け進んでいく。間もなくして無線にノイズが走り管制官とは別の声を受信した


『こちらは陸上自衛隊前進観測隊(シエラ)01。スカーレット編隊応答願います』


「スカーレット編隊よりシエラ01。感度良好」


『シエラ01了解。これより火力誘導を行う。FF作戦だからといってフレンドリーファイア(FF)はよしてくれよ』


敵を目前にして軽口を叩けるほど肝が座っている人間が火力誘導を行うのならばむしろ安心して指示に従うことができるというものだ。戦闘に限らず空の上で冷静さを失うことがあればそれは即刻死につながるものとなる。そのせいもあって冷静な人間に誘導されるとこちらも落ち着くのだ


「コピー。くれぐれもレーザーを足元に照射しないようにしてくれ」


『了解。さて、戯言はおしまいみたいだ。天狗抜刀隊の爆撃範囲からの離脱を確認した。JDAMによる近接航空支援を要請する』


「ラジャー。GBU-31の投弾アプローチに入る」


F-35には2000ポンドの誘導爆弾であるGBU-31をウエポンベイの中に2発搭載することができる。密集した敵を叩くには最適な装備だろう


「ボムズアウェイ、レーザーオン」


近接航空支援と言うとナチス・ドイツのJU-87スツーカに代表される急降下爆撃や米空軍のA-10サンダーボルトのように低空からの機関砲による射撃などを思い浮かべる人も多いようだが、F-35を始めとする現代機は高高度から精密誘導爆弾を投下するだけで終わってしまう。

絵的には地味だがパイロットの安全性を考えるとこちらの方が断然効率的なのだ。


『レージング。3…2…1…インパクト!』


誘導が正確であったならば今頃地上は地獄と化しているだろう。


『ターゲットデストロイ。ミッションコンプリート』


「ラジャー。スカーレットRTB」


編隊を維持して離脱しようと操縦桿を倒した直後、コックピットにロックオン警報が鳴り響いた


「01ロックされた。ブレイク!ブレイク!」


チャフ・フレアを散布しながら回避機動をとる。左急旋回を行いながらエンジン出力を絞って赤外線センサーを誤魔化すように飛行していると機体の後方で爆発が起こった。どうやら無事に回避できたようだ

見ればアクティブホーミング式のミサイルは途中で俺達を見失ったらしく次々と自爆している。F-35のステルス性のおかげなんだろうが肝が冷える思いだ


「対空砲火が激しい。退避する」


高高度で離脱しながらも俺はこの作戦が一筋縄ではいかないであろうことを感じ始めていた














2023年11月17日am10:02  隠密陣地 (近藤三佐視点)


空爆の成功後、天狗部隊は見るからに苦戦し始めていた。そう、空爆が成功したのにもかかわらずである


「三佐、敵は小隊ごとの統制射撃で対空戦闘を行っているようです。天狗の抜刀隊が苦戦しているのはそのせいでしょう」


「空自のF-35が爆撃後にミサイル攻撃を受けたそうです。ここから見る限りでも対空戦車と思われる車両の弾幕が視認できますし、敵の高射部隊が本格稼働を始めたものと思われます」


敵の司令設備と思われる目標は転移から間もなくして判別できた。連携した特科のFOと共に空自のJDAMのレーザー誘導を行い見事に敵司令部施設の破壊に成功した。当初の予定では指揮通信網が崩壊した敵は更に混乱し反撃は弱まると思われていた。

しかし、実際の敵は空爆後に統制射撃をとるなど空爆前よりも手ごわくなっている。いったい敵に何があったのだろうか?


「海自に巡航ミサイル(CM)による火力支援を要請しますか?」


高射部隊が本格稼働するなど想定外の事態となっている状態で貴重な巡航ミサイルの使用を要請すべきか…

判断に悩んでいると我々に与えられた陣地に射命丸さんがやってきた


「三佐、大天狗様がお呼びです。今からきていただけませんか?」


本作戦での我々自衛隊の役割はあくまで天狗部隊の支援である。支援対象がこの事態をどのように捉えているか知ることはこちらの判断にも重要な要素だろう


「構いません。丁度、私も伺おうと思っていたので」


文さんに連れられ大天狗が待つ陣に向かう


「大天狗様。近藤三佐をお連れしました」


「よし、入れ」


陣の中は作戦開始前とは比べ物にならない程、慌ただしく動き回る参謀や伝令の鴉天狗達でごった返していた


「忙しい所をすまないな、三佐」


「いえ、私も判断に迷っていたところでしたので…単刀直入に伺いますが事態が急変した今も貴軍の作戦に変更はありませんか?」


「…難しいところじゃの。先程、我が火力部隊が待機していた第7・第3隠密陣地で連続した爆発があり連絡が途絶えたそうだ。伝令を送ってはいるが生存は絶望的だろうな」


「今後はどのような行動をとるのです?それによっては我が方も支援を行うこともできますが」


「間もなく火力部隊の効力射が行われる。幸い敵は密集して戦闘中のようだから大きな戦果が期待できるわけじゃが…それが終わってから判断すべきだろうな」


確かに火力攻撃で戦局がどのように動くかによって作戦も変わってくるだろう。古賀海将も攻撃の決断ができていない以上、効力射を待つのも悪くない判断に思える


「わかりました。決心に変更があった場合は連絡をお願いします」


敬礼をして陣地に戻ろうとした時、周囲からカラフルなレーザーが放物線を描きながら空を埋め尽くした。火力部隊の効力射が始まったのだろう。全てはこの攻撃の結果次第で決まるといっても過言ではない

弾幕が敵主力に降り注ぐ様子を注視していると突如として敵主力から半透明の膜のようなものが広がり主力をすっぽりと覆うほどの大きさまで急速に拡大した


呆気にとられていると火力部隊が放った弾幕が正体不明の膜に接触した。凄まじい爆発が起こるが主力に損害を与えているようには見えない

あの膜は何らかのバリアである可能性が高いと見るべきだろう


「あれは一体なんだ!?」


参謀の一人が呆気に取られて様子でつぶやいている。もしあのバリアに制限がないのであればこちらの攻撃が通らない可能性があるのだ。これは非常にマズいことになった


「大天狗閣下。改めて伺います。貴軍は本作戦を続行しますか?」


大天狗自身もこれには驚愕していたようだが俺が問いかけると即座に指揮官の顔に戻った


「敵は正体不明の防御手段を保有しているおりこれ以上の戦闘は我が方の被害を拡大させるだけに見える。よって我が軍は速やかに作戦を中止し遅滞行動をとりつつ妖怪の山へ撤退する」


「わかりました。では我が隊も撤退致します」


「ご苦労だった。貴隊の支援に感謝する」


大天狗はそう言い残して狼狽えている参謀や伝令に次々と指示をだし着々と撤退の準備を進めていった


この作戦の失敗が以降の戦闘にどのように影響するのか…今の俺には想像もつかなかった




用例解説


JDAM…直訳すると統合直接攻撃弾。無誘導爆弾に精密誘導能力を付加する装置のこと。GBU-31もこの一種で2000ポンド爆弾にJDAMキットを取り付けたものである


CM…巡航ミサイルの英語表記はクルーズミサイルであるため空自では短縮してCMと呼ばれることがある



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