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第75話 緊急輸送

2023年11月1日pm12:35  紅魔館周辺 森林 (木島三尉視点)


攻撃ヘリの制圧下、小隊には警戒態勢敷くように命令し島田三曹のもとに駆け寄る。


「松本二曹、島田はどうだ!?」


島田三曹の元には既に救命講習を受けた経験のある松本二曹が駆け付け、応急手当てに奔走していた。決して充実しているとは言えないファーストエイドキットで必死に処置を行っている。

しかし、少し見ただけでも失血量は相当多い。助かるかどうかは分からなかった


「意識はしっかりしていますが失血が想定より多いです。患部を見るに内臓を損傷している可能性があります」


「なんてこった…」


松本が処置のために外したであろう島田三曹の装備は大量の血で赤黒く染まっており弾丸が人体に与えた影響の大きさを物語っていた


「島田三曹、俺だ。わかるか?」


ヘリの音は近づいてきてはいるが着陸地点を探しているようですぐに降りてくる様子はない。島田三曹の意識を救助まで保たせるため島田の手を握り声をかける


「木島…三尉…」


「もう少しでヘリが来る。痛むだろうが少しの間、我慢してくれ」


「いえ、身体は痛くないんです…こんなに血が出てるのに熱いだけなんです…これってまずいですよね?」


島田は目に涙を浮かべて無理やり作った笑顔を俺に向けてくる。その顔を見た時、松本は小さく嗚咽し俺は次に言うべき言葉を失った


「三尉、ヘリが着陸しました。ただちに後送しましょう」


本部との連絡を任せていた山本一曹が駆け寄ってきた。彼の言う通り上空を旋回していたヘリは100mほど先の斜面に着陸を果たしていた


「わかった。山本一曹、松本二曹、手伝ってくれ」


「了解しました」


ワルキューレ17の搭乗員が抱えてきた担架に島田三曹を乗せ搭乗員を含めた4人でヘリに担ぎ込む

救助のために派遣されたワルキューレ17のパイロットは木原一尉だった。


ヘリのローターに接触しないように屈みながらキャビンに担架を担ぎ込む


「島田三曹は重症だ、急いでくれ!」


エンジンの爆音に負けないように大きな声でコックピットに叫ぶ。その甲斐あってか、木原一尉に声が届いたようだった


「確認しています。当機はこれより重傷者を収容し輸送艦”おおすみ”へ向かう」


一尉はヘルメットのバイザーを上げてチラリと担架に乗った島田三曹を確認し、すぐに正面を見据えてエンジンの出力を上げた。木原一尉は冷静を保っているように見えたが、隣に座っているコパイは血だらけで運び込まれた島田三曹を見て明らかに動揺していた


「松本二曹、失血を抑えろ!何としても”おおすみ”まで持たせるんだ!」


「わかっています!」


キャビンのドアが閉まり機体が浮き上がる。ドアが閉まり換気ができなくなると機内にはたちまち、むせ返すような血の匂いが広がった

救援機と言ってもこの機体は本来、対潜哨戒機であって空自のUH-60jのような要救助者の救難を前提にした機体ではない。必然的に輸血などの処置が取れるはずもなく只々、医療設備の整った艦艇に着くのを待つことしかできないのだ


「三尉…俺…死ぬんでしょうか?」


「馬鹿野郎!縁起でもないこと言うんじゃねぇ!皆お前を助けるために全力を挙げてる。だから簡単にあきらめるな」


ヘリが離陸してから1分も経っていない。だが、ここは紅魔館からそう離れていない場所だ

この機が全力飛行を行えば後数分もせずに”おおすみ”に到着するはずだ


「自分の事は…自分が一番わかります…」


「何、弱気になってるんだ。自分をしっかり持て!」


「だって…もう目が見えないんです」


山本一曹が息を吞むのがわかった。銃弾が人体に及ぼした影響の大きさが想定以上に深刻だったのだ


「三尉、俺は…お役に立てましたか?」


島田三曹はこの傷だ。本来ならもう喋るのも苦しいはずだ。

それでも話すのを止めないのは自分の死期を悟ったからか…


「あぁ、だから死ぬな!お前は自衛隊に…いや、俺達にとってなくてはならない人間なんだ」


「ありがとう…ございます…それを聞けただけで…ケホッ」


「クソッ!木原一尉急いでください!」


島田に残された時間は刻一刻と減っていた



















2023年11月1日am12:42  ワルキューレ17 (木原一尉視点)


「クソッ!木原一尉急いでください!」


三尉の絶叫に近い声がコックピットまで届いた。それほどまでに危険な状況なのだろう


「木原一尉、”おおすみ”と繋がりました」


「よし、ワルキューレ17より”おおすみ”へ。現在、要救助者を搬送中。後数分で到着する。オーバー」


『”おおすみ”よりワルキューレ17へ。現在、艦隊上空は濃霧に覆われている。着陸地点を陸自駐屯地に変更せよ。オーバー』


「医療班はどうなっている。駐屯地の医療設備で対応できる傷じゃない」


『黒田医官以下、本艦所属の医療チームは霧が晴れしだい内火艇にて駐屯地へ向かう。それまでは陸自の医官が対処する』


コイツらふざけているのか!?


「しかし、駐屯地の医療設備では重傷者に対して充分な処置ができないはずだ。陸自の医官を信じないわけではないが現状では設備不足だと思う」


『それはこちらも把握している。しかしながら現在の天候では本艦への着艦は危険すぎる』


「人命がかかっているんだ!着艦許可を要請する」


『万が一にもヘリが墜落するようなことになれば被害は拡大する。理性的な判断を期待する』


この担当官の言うことは間違ってはいない。万が一にも墜落するようなことがあればヘリだけでなく艦の乗組員にも危険が及ぶ。


『いいんじゃないか』


『なっ艦長!?』


『ワルキューレ17聞こえるか?”おおすみ”艦長の小林だ』


艦長?どうして彼が…


「感度良好。小林一佐、改めて貴艦への着艦を要請します」


『通信士が言ったように本艦付近は濃霧に覆われている。それでも降りるか?』


愚問だ


「勿論です」


『わかった。これより着艦誘導電波を送る。艦橋に注意せよ。オーバー』


「了解。アウト」


無線を切り操縦に集中する。普段ならば“いずも”を中心として輪形陣を組んだ護衛艦隊が見える位置についたが濃霧の影響か艦影すら見えない


「一尉、誘導電波を受信しました。ですが、本当に何も見えませんね」


「あぁ、だが人命がかかっている。俺達がやるしかないんだ」


「…ですね。信じてますよ、木原一尉」


「任せとけ」


計器類を確認すると”おおすみ”からの着艦誘導電波の他に戦術データリンクがオンラインになっていた。どうやらあの艦長は本気で着艦させる気らしい。

ここまで支援されといて失敗するわけにはいかんだろう


「一尉、風が出てきました。注意してください」


「わかった」


濃霧に風まで…まさに泣きっ面に蜂と言ったところか。だが、目的地はもうすぐそこだ


「”おおすみ”をレーダーで捉えた。これより着艦態勢に入る。高度に注意しろ」


「了解」


コパイの頼もしい返事を確認し徐々に降下する。レーダーが正しければ機体の真横に”おおすみ”がいるはずだが何も見えない。3m先がギリギリ見えるかどうかの濃霧だ。ここまでくれば頼れるのは自分の目になる


「一尉、前方に光源を確認しました。着艦誘導員です!」


「よし、慎重に降ろすぞ」


着艦誘導員が普段の旗でなく夜間用の誘導灯を使ってくれたおかげで甲板の位置が分かったのはデカい。

機体を徐々に右側にずらしつつ、ゆっくりと高度を落とす。


あと少しで着艦に成功すると思われたとき機体の左側から突風が吹いた。ヘリは風に流され右側にずれていく

このまま行けば艦橋に接触する。俺は判断を迫られた


「多少手荒になるぞ。掴まれ!」


機体にかかったエネルギーをエンジンの出力で抑え込み、そのままの勢いで着艦した。


接地した際にかなり大きな衝撃があったから一度オーバーホールが必要になるだろう。機付長に怒鳴られるだろうが今はそれどころではない


「着きましたよ。さぁ早く医務室へ!」


コックピットからキャビンの様子を見るために振り向き、涙したまま動こうとしない木島三尉を見て俺は全てを悟った




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