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第73話 震撼

2023年11月1日am11:48 幻想駐屯地 作戦指揮所 (伊藤一佐視点)


「連隊長、第2小隊が民間人を保護したようです。後送手段としてヘリの派遣を要求していますが許可してよろしいでしょうか?」


「許可する。海自に航空による回収支援を要請しろ。それと第1・第3小隊には支援体制の解除を通達せよ」


「了解しました」


第3中隊を預かる長沢三佐は自ら通信士のもとに向かっていった

状況に対応している間は冷静を保っていたが、やはり大きな負担になっていたのだろう。

彼の顔には隠し切れない安堵の表情が溢れていた


ともかくこれで少しは落ち着くだろう。

いずれ接敵するにせよそのタイミングはこちらが有利な状態の方が好ましいものだ

しかし、事態は時として運に左右される場合もある。


周囲の地形図と部隊の配置状況を再確認していると先程、退室したばかりの長沢三佐が血相を変えて指揮所に飛び込んできた


「緊急です!第2小隊が所属不明部隊より攻撃を受けました!」


「寝ぼけたこと言うな。接触したのは民間人だったはずだろ!」


大谷二佐が思わずといった感じで反論する


「寝ぼけてなんかいない!500m先から隊員が狙撃されたらしい。連隊長、直ちに救難ヘリを向かわせてください!」


「わかった。第1・第3小隊を呼び戻し応援に向かわせろ。海自の支援機に注意を促せ」


「連隊長、付近の安全確保のために攻撃ヘリを派遣させてください」


長沢三佐の意見はもっともだった。救助の隙をついてヘリが狙われるようなことがあってはならない


「わかった。攻撃ヘリを向かわせろ。現場の安全確保を第一に考え行動せよ」


「了解しました」


指揮官の動揺が部隊を敗北に導いた例は多い。そのため努めて冷静にふるまっているが情報が足りない現状では作戦指揮も覚束ない

俺は事態の長期化を覚悟した


















2023年11月1日am11:53   紅魔館近辺 森林 (木島三尉視点)


島田三曹が倒れてから小隊は速やかに反撃の準備に入った


「松本!敵は見えるか!?」


『確認しました。500m先に照準眼鏡の反射光。敵狙撃手のものと思われます。発砲許可を』


「やれ」


数秒後、松本の狙撃銃から7.62mm弾が撃ち出され銃声が辺りに響き渡った


『命中。目標の無力化に成功しました』


「そいつだけか?周囲の確認を行え」


脅威だった敵狙撃手は松本が排除したようなので、他に敵がいなければ即座に島田三曹の救助に向かうことができる

ここからでは少し離れている為、どこを撃たれたのか確認できない。事態は急を要する。


「柳田、今から島田をこっちまで移動させる。お前はここから援護しろ」


俺のすぐ傍で伏せ撃ちの姿勢をとっていた柳田士長がしっかりと頷く


「カウント3、2、1…GO!」


カウントダウンの終了後、柳田士長の牽制射撃を頼りに島田の救出の為に遮蔽物にしていた立木から飛び出す

島田三曹との距離は直線にして15メートル程度。しかし、その間に射線を遮りそうな遮蔽物は一切ない

敵がさっきの狙撃手の他にもいれば救出に向かった途端にハチの巣にされる

だが、助けないわけにはいかない。


15メートルなんて平時であれば大した距離ではないが、歩兵は3秒以上射線に身を晒すべきではないとされる現代戦においては致命的な隙だ


だが、牽制射撃のおかげか弾が飛んでくることもなく島田のもとにたどり着けた


「島田!無事か!?」


島田三曹の側面にかがんでうつ伏せだった体を仰向けに直して患部を確認する。

側面を狙撃されたのだろう。脇腹から出血しているようだった

陸自の防弾チョッキにはわき腹用耐小銃弾板が装備されていない。そのため側面から放たれたライフル弾を止めることは叶わなかったのだろう


「島田!しっかりしろ!」


まだ息がある。だが、この様子だと弾丸は体内にとどまっている可能性が高い。それに着弾位置からみて内臓も損傷していると見るべきだろう。すぐにでも医者に見せなければ危険な状態だった


『小隊長!下がってください』


直後、俺の周辺に複数の銃弾が着弾した。発射位置を特定した松本二曹がお返しとばかりに射手に向け撃ち返す

しかし、着弾が減ることはない。敵の数が多すぎるのだ

それが意味することは先ほどの狙撃手が敵の単独斥侯などではなく敵の本隊だったということだ


「クソったれ」


その場合は救出より小隊の指揮を優先しなければいけない。一瞬の葛藤の末、泣く泣く掴み掛けていた島田三曹の襟首を放し柳田士長の待つ立木まで後退する


「小隊長、敵は1個小隊規模で小銃並びに機関銃を装備している模様です」


「敵は小規模な偵察部隊のはずだろ。どうして俺達が待ち伏せされているんだ!」


『小隊長、敵は防御陣地を構築していた模様です。確認できるだけでも3丁の重機関銃を固定しています』


松本の報告は衝撃的だった。これが事実なら俺達は嵌められたことになる

作戦指揮所に緊急で報告する必要があった























2023年11月1日pm12:07   幻想駐屯地 官舎(ニーナ少尉視点)


自衛隊が偵察衛星というもので撮影したとされる前線拠点の画像を再確認していたところ重大な事実が発覚した


「山田士長!緊急で伊藤一佐に取り次いでください。今行われている作戦の成否を分ける重要なものです」


「えっ?いきなりどうしたんですか?」


「時間がありません。貴方の仲間の命にかかわることです」


山田士長は突然のことに逡巡したようだが私の目を見て決断したようだった


「信じていいんですね?」


「はい、後悔はさせません」


「…わかりました。作戦指揮所に案内します。ついてきてください」


敵の捕虜である私の言葉を信じてくれる彼女に感謝の念は堪えない

作戦中に外部と連絡を取れないように軟禁されていた官舎から連れ出される。途中、警備の隊員に止められはしたが士長が上手く誤魔化し作戦指揮所の前に到着することができた


「失礼します。海上自衛隊所属、山田佳子海士長です。緊急の用件で伊藤連隊長に面会を求めている人物がいます」


混乱を避けるため山田士長が先に指揮所に入室する。

しかし、指揮所の中は騒然としており作戦に何らかの進展があったことが伺えた


「今は作戦中だぞ!連隊長への面会を許可することはできん」


士長の入室を不審に思ったのか幕僚たちの中から一人の男が立ち上がり近づいてきた。確か大谷二佐と呼ばれていたはずだ


「山田士長だったな。君はこの時間帯、捕虜の監視任務を行っているはずだ。なぜここにいる」


この時は知らなかったが大谷二佐は基地の警備を担当していたらしい。捕虜に関して細心の注意を払っていたのも頷ける

まぁ中佐レベルの人間が士長などの下っ端に詰め寄っている現状は山田士長の心臓だけでなくキャリアのためにも良くない状況と言えた


「面会希望者は私よ」


そんな考えもあって私は入口で固まっていた士長を押しのけ大谷二佐の前に出た。二佐は一瞬、目を剥いたがすぐに状況を認識したらしく山田士長を睨みつける


「海士長、君は捕虜を監視する立場にありながら捕虜の脱走を手助けしたことになる。事の重大さが分かっているのか!」


「緊急の要件だと言っているでしょう!人命にかかわることよりも規律が大事ですか」


山田士長が何か言う前に私が反論する。ここに連れてくるだけで相当な苦労を掛けている。これ以上彼女に負担をかけるわけにはいかない


「聞こう」


連隊長の一言に指揮所の視線が集まる


「しかしながら連隊長…」


「今はどんな事でも情報が必要だ」


「攪乱情報の可能性もあります。今は状況への対応に全力を注ぐべきときです」


「彼を知り己を知れば百戦殆うからず。この原則に従えば一番敵を知っているのは彼女になる。我々が勝つためにも彼女の情報は無下にすべきではない」


大谷二佐の反論を連隊長は正論を持ってねじ伏せる。沈黙した大谷二佐に変わって伊藤一佐が立ち上がり私に向き直る


「君を保護した木島三尉率いる第2小隊が攻撃を受けた。詳細は不明だが少なくとも隊員1人が負傷している。我々は少しでも多くの情報が欲しい。協力してくれないか?」


木島三尉達が陸軍部隊から攻撃を受けた。一佐の話しは少なからず私に衝撃を与えた

何せ彼は幻想郷に派兵されて初めて信頼できた人間なのだ。そんな彼が率いる部隊が月夜見陛下のご意思を離れた同胞に攻撃されたと聞いて只々悲しかった


「わかりました。この写真を見てください」


私は自衛隊から供与された衛星写真を広げる。


「…この写真が何か?」


一見、陸軍の前線拠点を写した何の変哲もない写真に見える。だが、これには大きな情報が隠されている


「この写真では4基の対空機関砲と3両の汎用車両が確認できます。しかし、後日撮影されたこの写真では対空砲・車両共に1つずつ減っています」


「この写真については我々も把握している。但しこれは整備のために輸送機内部に格納されたためだと結論図けられたはずだ。君も賛同していただろう」


「はい、あの時点では…しかし、状況は変わりました。この写真はその2日後に自衛隊の特殊部隊によって撮影されたそうですが、何か変わっていませんか?」


一佐は何一つ見落とさないとばかりに写真を睨みつけていたがやがて顔を上げた


「物資が移動したのか?」


「はい、正確には対空砲の弾薬です。4基とも稼働状態にあるのであれば問題ないのですが、我々の見解として整備を行っているはずの分まで弾薬庫から消えています。そして、同じ日に撮られた別の写真に偶然写っていたものと思われますが紅魔方面に続く道にタイヤ痕らしきものが見えます」


「つまり、これが意味することは…」


「はい、三尉が交戦している部隊の任務は隠密偵察ではなく紅魔館攻撃を控えた橋頭堡の構築にあると見られます。また、状態からみてこの部隊は対空砲を装備した1個小隊規模の浸透部隊であると推測いたします」



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