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第70話 攻撃目標

2023年10月27日am1:00 幻想駐屯地 第一会議室 (伊藤一佐視点)


テレビ会議の開催を見こして設置されたテレビモニターには古賀司令を始めとした海自の幹部達が映し出されていた。

しかし、モニターに映し出された幹部達の顔色は一様に晴れない

それは急遽、呼び出された…いや、呼び出した霊夢さん、文さん、咲夜さんも変わりはしない


まぁ無理もない

急遽、陸自主導の緊急会議が開かれた理由は敵の攻撃目標が判明したというものだったのだから…


偵察隊を派遣したわけではないというのにここまで事態が動くとは正直思ってもみなかった。これには例の作戦が絡んでいるらしいのだがあれは元々捕虜の武装解除が目的だったはずだ

そんな中、一体どんな口説き方をしたのか知らないが小林一佐は捕虜の少尉から情報を聞き出してきたらしい

情報筋が少尉本人であるためと、より詳細な情報を共有するためこの会議には少尉も参加し自ら軍の今後の作戦について説明してくれることになっている


「時間となりましたので始めさせていただきます。初めに第38普通科連隊より連隊長の伊藤一佐からご挨拶を頂き____」


進行を任されていた本部管理中隊所属の幕僚の発言を遮る


「いや、その必要はない。今回は社交辞令の挨拶は省き直ちに状況の共有を行いたい」


「わかりました。では状況を説明いたします。本日、かねてより捕虜となっていた月面陸軍所属のニーナ・コトフ少尉より当該軍の作戦行動についてのリークを受けました。その内容から即座に共有が必要かつ、問題に対して共同での対処が望まれることが想定されたのでここに緊急の会議を召集いたしました」


ここまでは既に会議参加者には通達してある。問題はその内容だ


「その情報についてはニーナ少尉ご本人より報告させていただきます。よろしくお願いします」


幕僚に代わってニーナ少尉が席を立ちモニターに向け…いや、正確にはその少し上に設置されたカメラに向け一礼する


「ご紹介頂きました、ニーナ・コトフ陸軍少尉です。一佐より細かい挨拶は抜きにして可及的速やかに情報を伝えるよう言われていますので、早速ですが私の知りえる陸軍の作戦行動に関する情報を開示いたします」


幹部達の視線が一瞬、俺に集まる。だが、俺はそんな指示を出した覚えはない

静かに首を横に振ると室内にいたこの場で唯一海自の作業着に一佐の階級章を縫い付けている人物である小林一佐に視線が集まった

彼は周囲からの視線を特段気にすることはなかったが面倒になったのか、ゆっくりと首を縦に振った


「これから話す情報は紅魔方面偵察隊から得たものと陸軍第2師団から個人的に提供を受けたものがあります。情報の信頼度は極めて高いと考えていただいて構いません」


「なるほど。では、早速ですがどのような情報をお持ちなのかお聞きしたい」


「その前に一つ。これまでの扱いから特に懸念しているわけではありませんが、情報を話した後の身の安全の保障を改めて要求します」


「その件に関してはご心配なく。情報の提供を申し出ていただいた時点で我々は貴方達を捕虜でなく客員士官として認識しています」


彼女は一瞬、キョトンとした表情を浮かべたがそこは軍人らしくすぐに平静に戻った


「わかりました。ではあなた方を信じて話します。我が陸軍の攻撃目標は大きく分けて2つです。まず、紅魔館。次いで妖怪の山です」


「何故その2つの目標になったのか知っていますか?」


彼女は幕僚の質問にも慌てることなく、すぐに答えを切り返してきた


「ええ、侵攻作戦を行うにあたって最も脅威となりえるのが集団戦を行うことのでき、なおかつ武闘派の天狗たちが集う妖怪の山。次いで数々の異変を解決し幻想郷の秩序を維持してきた博麗の巫女。妖怪の山の攻略にあたっては現在構築中のFOBから部隊を送れますが博麗神社は遠く砲兵の支援を受けることができない。そういった理由で砲兵隊の展開に適しており作戦の障害になりえる紅魔館の撃破が目標に加えられたと聞いています」


「なるほど。では私達は完全にとばっちりを受けたという訳ですか…」


咲夜さんがあからさまに不機嫌な声で答えて霊夢さんを睨むが当の本人はどこ吹く風といった具合に受け流している


「敵は今後どのように動くと予想されますか?」


「…状況にもよりますが紅魔方面偵察隊並びに山林警戒隊も撃破されたとなれば新たな斥侯を送り込んでくることが予想されます。基本的に彼らの任務はFOBの構築ですからあまり人数は割けないと思いますが一個分隊程度の偵察隊が送られてくる可能性は十分にあるかと」


今まで黙って話を聞いていた司令がここで初めて声をかけた


『なるほど。少尉、今の話を聞いた上で君に聞きたいことがある。いいかね?』


「お構いなく」


彼女の返事を聞いた海将が頷くと会議室の中に情報士官が入室し資料を配り始めた

モニターに映る海自幹部達も同様であったが状況からして司令の指示によるものだろう


「この写真は何ですか?」


資料はニーナ少尉にも配られたようでその中の1つであったこの写真について早速質問が飛んできた

だが、この写真は…


「少尉の仰るところのFOBの衛星写真です。我々はこれを使って敵の陣地が今いかなる状況にあるかを察知しています」


質問に答えるべきか悩んでいた俺をよそに小林一佐はごく普通の事であるかのように少尉に情報を与えた


「そんなことができるのですか…しかし、何故これを?」


その疑問は最もであった

事情を知らない者にとってはこれが何を示す資料なのかわからないだろう


「もう1枚写真があるはずです。それと比べてみてください」


少尉は言われるままに写真を見比べ眉をひそめた


「2枚目の方が人員が減っている?」


『そうです。我が方の斥侯はこの前日に撤退させていた為、詳細は不明ですが1個小隊ほどの部隊が移動したと見ています。この件に関して見解をお聞かせいただきたい』


「…想定より規模が大きいですが斥侯にでたのではないですか?敵戦力を探ることは軍事戦略上でも間違いではないですし」


『そうですか…では少尉にもう一つ伺いたい。我々は現在、敵FOBに対し航空機を主軸とした部隊派遣しこれを攻撃。制圧後普通科部隊を送り込みこれを無力化したいと考えている。これについてはどう考える?』


突然、身内への攻撃計画を打ち明けられた少尉は暫し硬直していたが覚悟は揺るがないようで、その目はしっかりとモニターに映し出されている古賀司令見つめた


「我が軍の今後の作戦においてこのFOBは非常に需要な役割を果たすことになります。このため部隊は陣地防御、とりわけ対空防御に主軸を入れています」


「対空?幻想郷には妖怪などの特殊能力を持つ者は居ても航空兵器は無いはずでは?」


作戦が発動されれば指揮を執ることになっていた第1中隊の中隊長である大谷二佐が思わずと言った感じで発言した


「ええ、ですが幻想郷には飛行能力を持つ者が多数存在します。それも人型であるため航空機に対し非常に小型ですから迎撃は困難です。以上の理由で軍上層部は対空戦に非常に力を入れています」


「厄介な…」


『わかった。これは作戦の根本的な見直しが必要だろうな。どうやら大規模な攻勢にでるのは時期尚早のようだ』


「しかしながらこの機を逃せば敵主力の到着を許すことになります」


『それも含めて再検討せねばなるまい。当分の間は幻想郷各所との打ち明けと敵FOB並びに斥侯部隊の捕捉に努めよ』


「了解しました」


「それともう一つお伝えしなければいけないことがあります」


議論がまとまりかけた時、ニーナ少尉が遠慮がちに声を上げた


「なんです?」


「今後、幻想郷に派遣されるであろう第5・第6師団には士官学校時代の同期たちが多数含まれることが予想されていたので今まで躊躇していましたが…皆さんを信頼してこの情報を伝えようと思います」


「続けていただけますか?」


「えぇ、我々先遣偵察隊の輸送機にはビーコンが積んであるのです」


「ビーコン?」


「はい、このビーコンは第5・第6師団を幻想郷に正確に転移させるのに必要なものでこれが破壊されると増援の派遣が困難になります」


「なっ!?ビーコンが破壊された場合の代替え手段はあるのですか?」


「いえ、私には知らされていません」


唐突に現れた戦闘回避に向けた希望が我々を混乱させる


『決まりですね。古賀海将、直ちにこの目標を叩くべきです。これを叩けば無用な戦闘を回避できます』


モニターの向こうで古賀海将の隣に座っていた海自の幕僚が声を上げた


「待ってください。私がこのことを知っていて皆さんにお知らせしなかったのはこのことが大して戦局に影響しないからです」


「何故です?補給の無い軍隊など敵ではなくなります。ビーコンの破壊が戦局を左右するのは明確です」


「いえ、このビーコンが破壊されたとしても必ず代替え手段は存在します。でなければこの程度の戦力でビーコンを守備させるようなことはありません。第一、ビーコンが破壊されたところで統帥部は幻想郷攻撃の意思を変えることは絶対にないでしょう」


「では、あくまで敵が転移する手段が分かっただけで戦争終結に向けた情報ではないと?」


「そうなります」


室内に落胆が広がる


『…わかりました。確かに我々は短期決戦を求めるがあまり冷静さを失っていたようだ。以上で会議を終わりますが何か意見・質問はありますか?』


ニーナ少尉に無駄なヘイトがたまるのは良くないとの判断だろう。この場は古賀海将の鶴の一声で決した


「では私が」


室内を見渡すまでもなく咲夜さんが声を上げた


「どうしましたか?」


「我が主、レミリア・スカーレットより伝言を預かっております。『紅魔館は現在臨戦態勢をとっているが敵の能力は未知数であり是非とも自衛隊の力を借りたい』と仰っておりました」


「…わかりました。こちらでも検討します」


実際には法的問題が山積みなわけだが協定に基づいた要請であるから無下にできない


「私からもいいですか?」


今度は文さんが立ち上がっった


「私も大天狗様より伝言を預かってます。『我々は現在、敵への大規模攻勢作戦を検討中であり作戦発動時には是非とも協定していただきたい。作戦の詳細については追って連絡する』と」


敵の規模によってはここの防衛も覚束ないというのに支援要請だけはあちこちからやってくる

いったいどうしたらよいのか…

ともかく協定がある以上は拒絶することはできないのだ。不本意だが検討するとだけ伝える


『ともかく我々のやるべきことは決まったな。各部隊は敵主力並びに斥侯の動向に注意しつつ幻想郷各所との連携についての協議を深める態勢を整えよ。戦闘に備え武器・弾薬・糧食を始めとした物資の収集を急がせるように。以上で解散とする』



用例解説


FOB… Forward Operating Baseの略。日本名は前線基地

斥侯…本隊の移動に先駆けてその前衛に配置され進行方面の状況を偵察しつつ敵を警戒する任務、又は部隊



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