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第68話 追悼式典

2023年10月27日am10:00  幻想駐屯地 航空機格納庫前  (伊藤一佐視点)


臨時の遺体安置所となった空自の格納庫には多くの自衛官が集まっていた

急な召集にもかかわらず周辺警戒や人里の復旧作業を行っている隊員を除いた基地要員の殆どが集まった形だ


敵といえど死んでしまえば皆同じだ

敵の遺体だからといって弔うことに何ら躊躇いは無い


墜落機やその周辺に散らばっていた遺体の中には欠損が激しいものあるため、遺体を見せることはしないが捕虜達も遺体がどんな状態かを察しているようだった


追悼式にあたっては幕僚たちが話し合いロシアの主な宗教であるキリスト教式で行うべきとの結論が出たが、俺が却下した

理由は簡単である

キリスト教式の葬儀の作法を知る者は居ても肝心の神父はいないし、読んで聞かせるための聖書もないからだ


こういった事情が重なり、葬儀は海自の横須賀音楽隊と即席の儀仗隊が主導して行うこととなった

国歌の演奏の後に司会に任命された中隊の幕僚が戦死者の名前を読み上げる


名前が読み上げられるごとに捕虜となった異界の軍人たちが涙を流しているのが見えた

戦闘終了時には多数の敵機を撃墜した空自隊員にもPTSDなどの症状が表れるかと思っていたが、その心配は杞憂に終わっていた

理由は明白である

彼らには自らの手で人を殺めたという感覚が乏しいのだ

今回の攻撃で、は数十km以上も離れた位置から発射した中距離ミサイルでほとんどの敵機が撃墜されている

これでは実感がわかないのも当然であろう


式は順調に進行し全ての名前が読み上げられ、儀仗隊が前に出る


「右向けぇ右!弔銃用意!」


9人の自衛官が小銃を構える


「撃てぇ!」


乾いた音が会場全体に響き渡った










2023年10月27日am10:30  幻想駐屯地 射撃場 (ニーナ少尉視点)


追悼式の終了後、自衛隊の士官にここへ連れてこられた

そう、私を捕えたあの士官だ


ほんの数分前に彼は私を見つけて声をかけてきた


『以前、申請していらした小銃を用いた射撃訓練に関して連隊長から許可をいただきましたので、今からでよろしければ射撃場にご案内いたします』


確かに、士官学校で培ってきた射撃の腕が鈍るのが嫌だと言うことを、昼食の席で私の監視係である山田士長に話したのは覚えている

普通の軍隊では反乱を起こしかねない捕虜に武器を持たせるなんてことは許可しない

だから私もほとんどダメもとで申請を出したのだ


まさかそんな申請が通るとは…


「お待たせしました。武器係からあなたの銃をもらってきました。どうぞ」


士官は私の士官学校からの愛銃であるモシンナガンを手渡してきた

見たところ変にいじられた形跡もない


「ありがとう。貴方は尋問室で私を庇ってくれたでしょ?まだ名前を聞いてなかったわ。教えてくれるかしら?」


「自分は木島正義三等陸尉です。外国軍でいうところの少尉にあたります」


士官…いえ、木島三尉はどこかぎこちない笑顔で応答してくれた

そんな彼を見てなんとなく違和感を感じた

何か隠している?

それとも普段からこんな感じなのだろうか?


少なくとも前回あった時はこんな感じではなかったはず…


「こちらへ」


三尉は私を射撃場の一角に案内してくれた

私がここに来ることを事前に知らされていたようで、すれ違う隊員達も特に驚く様子がない

そればかりか、すれ違うたびに敬礼で迎えてくれるほどである

おかげで目的地に着くまでに何度も答礼をする羽目になった


「弾薬は皆さんからの押収品ですから好きに使ってください。私も隣で撃ちますので何かあれば遠慮なく声をかけてください」


「三尉も撃つのですか!?」


てっきり監視役だと思っていたから一緒に射撃を行うとは思ってもいなかった


「もともと、今日は自分の指揮する第2小隊がこの射撃場を使う予定だったので問題は無いかと」


仮にも捕虜に銃を持たせているのに監視をつけないというのはあまりにも無警戒すぎやしないだろうか

当の三尉は私が戸惑っていてもお構いなしで弾倉に弾薬を装填する作業に取り掛かっている

いい加減混乱するのがバカバカしくなってきた

突っ立っていても仕方がないので三尉の隣で装弾クリップに弾を込める


装弾中は比較的暇になる

良い機会だから木島三尉と話してみようか…


「えっと…その銃は当たりますか?」


…うん、私はいったい何を聞いているんだろう


「まぁ日本製ですから精度は悪くないですね。もっとも自動小銃ですから、あなたの銃には及ばないと思いますが」


「はぁ」


何言ってんだこいつ?みたいな目で見られるかと思ったけど、幸い彼はこんな質問にも律儀に答えてくれた


「弾込めは終わりましたか?」


「はい、終わりました」


士官学校で弾込めにもたついていると教官にどやされるから自然と弾込めは早くなっていた


「では行きますか」


私は弾を込めた銃を持って三尉に続く


「ここから300m離れた標的を射撃できます」


「300ですか」


「はい、狙撃銃であれば至近距離かもしれませんが、この地域は我々にとっても借りものですから」


そう言って三尉は伏せ撃ちの姿勢をとった

それと同時に近くにいた隊員が虫取り網のようなものを持ってきた

一体何に使うのかと眺めているとその隊員は排莢口に虫取り網を添えるように構えた


「これは何をしているんですか?」


「あぁ薬莢受けですよ。状態のいいから薬莢を回収して空包にするんです」


「はぁ…何というかケチ臭いですね」


「手厳しいですね。しかし、弾薬も国民の血税で賄われていますから無駄使いはできませんよ」


そう言って三尉は引き金に指をかけた

丁度いい。彼の腕前を拝見することにしよう


これでも私は士官学校での射撃訓練の成績はトップだったのだ

現に600m以内であれば的の中央に命中させることができた

300mであればその半分だが自動小銃で狙うであれば難しいかもしれない


そう思って少し離れた場所で見ていると、三尉が引き金を引いた

銃口からマズルフラッシュと共に弾頭が飛び出し、殻薬莢が小銃から排莢され網の中に納まる

ここからでは正確な着弾位置まではわからなかったが的のどこかには当たっているだろう


これだけで三尉の腕が相当なものであることが理解できた

アイアンサイトの自動小銃で300m離れた標的に初弾で命中弾を当てられる人間は士官学校の教官にも少なかったはずだ

こちらの驚きを嘲笑うかのように三尉は次々と命中弾を出していった


結局、弾倉に込められていた20発の弾丸は1発も外れることなく的に当たっていた

うち18発は的の中央に命中しているという驚異の命中率である

にわかに信じがたいが自分の目でしっかりと確かめたのだから否定のしようがない


「凄いじゃないですか!いったいどういう練習をしたら、こんなに命中させることができるのですか!?」


「18発か…」


これだけの命中弾を叩き出しておきながら三尉の顔色は優れない


「三尉?」


「前回は全弾命中させることができたんだが…練習不足か」


その言葉に私は戦慄すら覚えた

レベルが違い過ぎるのだ。これほどの命中率を誇る人物は士官学校の教官はおろか第2師団のなかにも数えるほどしかいないだろう


「後は好きに射撃していただいて結構ですよ。私はここで見ていますので」


その一言で消えかけていた私の闘志が再燃した

三尉への畏怖の心より軍人としての矜持の方が上回ったのだ。それに、ここで退けば戦死した少佐や戦友達に顔向けできない


「わかりました。お借りします」


私は三尉がさっきまで使っていたレーンで伏せ撃ちの姿勢をとった

旧式のモシンナガンには安全装置なんてものは付いていない。そのため士官学校では銃口管理の大切さと暴発の危険性について耳にタコができるくらい説明を受けた

そのかいあって訓練中に銃を暴発させる同期は居なかった。とはいえもう聞きたくはないが


的との距離は約300m、風は若干右に吹いている。絶好の狙撃日和だ

愛用のモシンナガンを構えしっかりと頬付けし照準眼鏡を覗く。仮にも照準眼鏡を付けた本職の狙撃手がアイアンサイトの突撃銃を使用した三尉に負けるようなことはあってはならない

レティクルの中央に的を入れ引き金に指をかける

途端に周囲の感覚が途切れ、指先に全神経を集中させる。必中を祈ってから引き金を引く。

途端にスローモーションのように時の流れが急激に遅くなるような感覚が私を襲い、気が付けば的の中心に風穴が開いていた

命中を確認した後、素早く槓桿を引き次弾を薬室に送り込む


「見事なものですね」


三尉が純粋に称えてくる

しかし、私は射撃後の一瞬で違和感の正体に気付いてしまった

気付いてしまったからには何もしないわけにはいかない


私はゆっくりと立ち上がり、振り向きざまに銃口を三尉に向けた


「…どういうつもりですか?」


その言葉とは裏腹に三尉は特に驚いた様子もなくこちらを見つめていた


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