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第67話 相談

2023年10月26日pm1:40  ”いずも”科員食堂 (山田士長視点)


午前中に行われた今後の部隊運用に関する会議にニーナ少尉が有識者として招かれた

捕虜を会議に招くことに一部の幹部は難色を示したが、最終的には司令の鶴の一声で参加が決まったらしい


そのせいで彼女の監視兼護衛を任されている私は会議中、幹部達ひしめく部屋の中でずっと彼女の傍らで待機することになってしまった。

正直、非常に疲れた

勿論、私よりも疲れているであろう彼女への配慮は忘れない

彼女と共に科員食堂に向かい少し遅い昼食を受け取る


今日の昼食は人里から調達した食料で作った豚の生姜焼きである

たいして珍しくもないが腹が減っていると何でもおいしくなるものだ

空腹は最高のスパイスになるとはよく言ったものだ


捕虜とはいえ、いつまでも狭い個室に閉じ込めておくことはできない

こんな声が立ち入り検査隊員や幹部から挙がり始めたこともあり、監視をつけることを条件に科員食堂での食事や艦内の見学が可能になったのだ

もっとも、この変化は彼女の献身的な協力の賜物なのだが


「どう?そろそろこの艦での生活に慣れてきたかしら?」


「まぁ最近は…相変わらずあなたの上官には迷惑しているけど」


適当な席を見つけて食事を摂りながら雑談を振ると何とも困った顔で愚痴をこぼしてきた

連日に及ぶ会議への出席で疲れているのだろう

その点では彼女の愚痴はもっともだ


「月の都って所を詳しく知っているのは貴方達だけだから負担がかかりすぎてるんだと思うわ。今度、上に現状を報告する機会があるからその時に上申しておくわね」


「そんなに気を使ってくれなくても良いのよ。私だってここの待遇がどれだけ破格なのか分かってるもの」


捕虜に接する者としては失格かもしれないが私は彼女のことを敵の捕虜として見ることができずにいた

恐らく彼女が私の妹と同い年だというのが関係しているかもしれない


それに最近の彼女は、初めて会った私に向けたような眼を私達クルーに向けなくなった

彼女の心境にも何らかの変化があったのだろう

そのことも彼女を敵として見ることを難しくしている一因だと思う


「そう思ってくれるとありがたいわ。上司の弁護をするわけじゃ無いけど、貴方達は自衛隊がこれまで想定してきた敵とは全く違うから余計に忙しいんだって班長が言ってたわ」


「それは私達も同じよ。幻想郷の妖怪連中と戦争をするつもりだったのに祖国の隣国とドンパチすることになるなんて作戦の破綻もいいところよ」


そんな調子で談笑を続けていると普段、科員食堂では見かけない幹部の制服が目に入った

驚いて立ち上がると向こうも気づいたようでこちらに向ってきた


海自の制服を着ているが見覚えがない

恐らく別の艦から来た幹部だろう

階級章を見れば細い線が四つ確認できた

一等海佐だ


私は起立し挙手の敬礼を送る

相手もまた答礼で返してくれたが目は私を見ていない

それだけでニーナ少尉に用事があることを悟った


「何の御用でしょう?」


「ニーナ少尉にお伝えせねばいけないことがあったのでね」


食堂にいたクルーも何事かとこちらに注目しているのがわかる


「ご用件を伺ってもよろしいですか?」


「あぁ構わない。どうせ全部隊に通達される予定だからな」


「それで何の用ですか?」


ニーナ少尉も席を立ち一佐に向き合う


「申し遅れました。”おおすみ”艦長の小林です。本日、陸自連隊本部から全ての残骸の収容を完了したとの報告がありました」


それだけでニーナ少尉は何の話か理解したようだ

表情が先程とは打って変わって暗くなる


「…生存者はありましたか?」


「残念ながら…しかし、報告のあった全ての遺体を収容することができたそうです。陸自では明日にでも葬儀を開くそうです」


「葬儀ですか?私達は敵なのに…」


「死者に敵も味方もないでしょう?簡易なものではありますがご出席されますか?」


彼女はゆっくりと頭を下げ45度の敬礼をとった

帽子を被っていない彼女が行える事実上の最敬礼である


「よろしくお願いします」


小林一佐はそれに答礼で答えた


「自分は司令に用事があるのでこれで」


それだけ言うと一佐は踵を返して食堂を後にした

食堂の扉の前に待機していたらしい先任伍長が一佐を先導していくの視界の隅で見届けた後、すっかり冷めてしまった昼食に目を落とす


「…取り敢えず食べようか」


「そうね…」


そう答えた彼女の返事には先程までの元気は無かった










2023年10月26日pm1:45 ”いずも” 司令室 (小林一佐視点)


先任伍長に案内されて司令室に通され、すぐに入室するように促された

出迎えてくれた先任伍長も室内への入室は禁じられているらしく扉の前まで案内した後、踵を返して去っていった


「失礼します」


司令室に入ると秋津一佐と古賀司令、そして陸自の伊藤一佐が出迎えてくれた

しかし、その表情は一様に芳しくない

十中八九これから話されることが関係しているのだろう


「急に呼び出したりして悪かったな。しかし、この件に関しては君の意見を求めたいんだ」


「構いません。それで何の要件ですか?」


「これを見てくれ」


秋津一佐から【極秘】の判が押された資料を手渡される

表紙には【S部隊による事前偵察作戦】という文字が印刷されている


「読んでみろ」


司令に促されて資料の内容を確認する


以下がその内容である




【S部隊による事前偵察作戦】



一、作戦目的

敵部隊の規模、装備などの情報収集

可能であれば補給物資及び指揮通信装置を狙ったゲリラ・コマンド攻撃


二、指揮官

統合任務部隊指揮官


三、兵力

・陸上自衛隊 特殊作戦群、OH-1偵察ヘリ、AH-64D攻撃ヘリ、CV-22j

・海上自衛隊 護衛艦隊の全部、SH-60k対潜哨戒ヘリ

・航空自衛隊 F-35J、E-2C早期警戒機


四、作戦要領

(一)航空優勢下での敵地偵察活動を行う

(二)警備の薄い時間を狙い、無反動砲を使用し補給物資・指揮通信装置を優先して攻撃する

(三)敵に存在が露呈した場合は直ちに作戦を中止し攻撃ヘリの援護下において速やかに撤収する

(四)状況次第では陸海空自衛隊による統合打撃作戦を行う


五、備考

(一)本作戦は敵による急迫不正の侵害から国民の生命財産を守るための必要な措置であり正当な自衛権の行使であると考える

(二)本件は非常に政治的な問題を抱えているため作戦の推移に関しては十分に注意すること

(三)隊員の安全の為、作戦は秘匿する





                                   

以上が資料の内容であった

おかげで何故、自分が呼ばれたのかの見当がついた


「特戦群から情報が届いたんですか?」


「あぁ、敵の装備や補給品の中身が分かったそうだ。何枚か写真も送られてきたから君からの意見を聞かせてほしい」


司令はそう述べて数枚の写真を手渡した

写真の内容は敵警備兵を撮影したと思われるものから補給物資を取り出している兵を撮ったものまで様々なものが含まれていた


「どうだ?何か分かるか?」


「これだけでは何とも言えませんが武器装備は高橋三佐の言っていた通り旧式のようですね。後は部隊規模と補給物資の量から考えて2~3ヶ月の間は戦えそうだということでしょうか?おっと、この写真なんかは良いですね。隅の方ですが防寒着が写っていますから冬を越すことも視野にいれているんでしょう」


「敵の増援はいつ頃に現れると思う?」


伊藤一佐の問いに答えるべくもう一度資料に目を落とす


「この物資を見る限りですと冬の間には本隊がやって来る可能性が極めて高いと言わざるを得ません」


「そうか…」


捕虜の話を信じれば敵の本体は最低でも2個師団規模になる

機甲戦力の少ない陸自の伊藤一佐が戦々恐々とする気持ちもわかる

それに万が一戦闘になれば主力は我々、海自ではなく陸自だ

考えたくはないが殉職率も陸自の方が高くなるだろう


「迎撃態勢は整えられそうですか?」


「弾薬面では河童たちが全力を挙げてくれているから何とかなっているが…いかんせん人員が足りていないから防御陣地の構築に時間がかかっている」


伊藤一佐は悔しそうに拳を握る手に力を込めている

相当、不本意な結果なのだろう


「そうですか…」


「ともかく敵主力が現れる前に敵先遣部隊を叩くべきか判断しなければならない。作戦を第二段階に移行するかどうかは捕虜からもう一度情報を聞き出してから決めようと思う」


「司令、実はそのことについてお耳に入れておきたいことがあります」


俺は先程、会ったばかりの女性捕虜の姿を脳裏に浮かべながら今後の方針について意見を述べた



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