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第66話 軍議

2023年10月15日pm8:00 統帥部作戦会議室  (セルゲイ・コトフ陸軍大将視点)


幻想郷に先遣偵察隊を送ってから7時間が経過してようやく前方指揮所の開設が完了したらしく、報告書がここ統帥部に提出されたとのことだった


いつもはテレビ会議で済ませてしまうようなものでも創設以来、初の実戦であるという点が考慮されこの会議室に各師団指揮官が一堂に会する形となった


会議室には既に、各師団の師団長並びに参謀が待機しており、後は統帥部作戦参謀長の入室を待つのみとなっていた


「作戦参謀長入られます!」


扉の前で待機していた若い少尉が声を張り上げると私を含めた指揮官たちが起立する

ほどなくして入室してきた作戦参謀長を敬礼で迎え会議は始まった


「諸君らも知っての通り先程、先遣偵察隊の前方指揮所から第一報があった。その内容をまとめた報告書を配布する」


統帥部付きの情報士官達から資料を受け取り詳細を確認する


以下がその内容である




【幻想郷に対する先遣偵察作戦における報告書・第一報】


一、作戦目的

(一)侵攻作戦の橋頭堡とする前線拠点の設立

(二)紅魔方面・妖怪の山方面に対しての威力偵察


二、指揮官

先遣偵察連隊長


三、兵力

第5・6師団の一部

航空宇宙軍(以下空軍)の一部


四、作戦要領

(一)部隊展開後は作戦の経過を上級司令部に報告すること

(二)可能な限り情報を収集すること


五、経過報告

(一)輸送機の強行着陸に成功し橋頭堡の確保に成功

(二)紅魔方面・妖怪の山方面へ派遣した各偵察隊は対抗勢力からの激しい抵抗を受け消息不明

注釈…このうち紅魔方面偵察隊は正体不明の敵から攻撃を受けた可能性が高い

(三)空軍の直掩隊は対抗勢力と交戦し全機喪失





紅魔方面隊


これは娘が配属されていた部隊ではなかったか?

嫌な考えを必死に振り払い会議に集中する



私を含めた指揮官たちは食い入るように文書を見つめていたが、やがて深いため息をつくものが出始めた


「でだしからつまずいた形ですな」


「侵攻作戦の抜本的な見直しが必要ではないか」


「先遣偵察隊の練度不足ではないのかね?第6師団長」


統帥部からの指摘で各指揮官の視線が第6師団長へ集まる

第六師団は先の都包囲戦で師団長以下多くの幹部が戦死したため、無事だった歩兵連隊の連隊長に急遽、師団長の役職が与えられたという経緯がある

元々、陸軍の中でも重要性が薄く旧式の装備を回されていた第六師団はただでさえ疎まれており特例で昇進したこの少将に敗北の責任を押し付けてしまいたい統帥部の思惑が透けて見えた


「無茶言わないでください。第6師団は月の使者との戦闘で多くの戦力を喪失しているんです。練度の低下はやむ負えません。それに月の民は穢れを嫌い殺生を禁じている。よって彼らの指揮下にある月の使者からの反撃は無いといった希望的観測のもと作戦を立案した統帥部にも責任があるのではないですか?」


「そんなことを言っているんじゃない!我々もそちらの人員不足に関しては承知している。だからこそ士官学校の学生を徴用してそちらに回しているし民間人の徴兵も行っている」


痛いところを突かれたのだろう。統帥部の連中が鼻息荒く反論する


「起こった事を責めても現実は変わらん。よってこの件に関しては不問にする」


参謀長の鶴の一声でその場は何とか治まった


「まぁ我々が考えねばいけないことは今後の対策ですからね」


「その通りだが、偵察隊が全滅したのでは新しい情報は見込めないな」


議論の方向性がしっかりしてきたところで私は自身が猛烈に喉が渇いていることに気付いた

水の入ったコップに手を伸ばしたとき、異変に気付いた

コップの水が波打っている。いや、私の手が震えているのだ


「大丈夫ですか?」


異変に気付いた副官が声をかけてくるが手の震えは治まる様子がない


「どうされましたかな?」


第1師団長もこちらの様子に気付いたらしく声をかけてきた

その声で指揮官たちの視線が私に集中するのが分かった


「いや、大丈夫だ」


何とか絞り出した声は自分の声だと思えないほどに掠れていた


「確か、娘さんが紅魔方面偵察隊に所属していたのではありませんでしたか?現状では生存の可能性は極めて低いと思われますが…」


「君っ!」


第6師団長の言葉を第3師団長がさいなめる


「いえ、軍に送った時から覚悟はできておりました」


何とか持ち直しコップの水を飲み干す


「少し休まれてはいかがですか?」


「いえ、私情で職務を放棄するわけにはいきません」


ショックだったのは確かだが今ここで職務を放棄するわけにはいかない

これは本心からの言葉だった


「そうですか…では続行します。統帥部が一番問題視しているのは最後の部分だ。この正体不明の勢力の詳細が分からないことにはこちらも対応しきれない」


「それはそうですな。我々が対峙すべき敵が増えた可能性があるのは問題です」


「偵察連隊もかなりの損害を受けたと聞く。師団主力の派遣を急がねばならんだろう」


急がねばというが、招集された新兵と先の包囲戦を何とか生き残った下士官中心の師団にこれ以上どうしろと言うのだろうか


勿論、第6師団長にもプライドがあるから無理だとはいえない

こんな状態で敵地に兵を送ってもまともな戦いはできないだろう


それに統帥部を中心とした上層部は敵をいささか侮り過ぎているように見える

統帥部という組織は軍人のみで構成されている訳ではない

彼らの多くは本国から我々軍人を指導するために派遣された共産党員…つまり政治委員として派遣されてきたという特殊な事情があった


そのため今日の月面軍でも少数の軍人と多数の共産党員達を中心とした統帥部が我々の上部組織として存在するに至ったのである


「わかりました。訓練を短縮し主力の派遣を急がせます。しかしながら部隊を派遣するためには空間転移装置の稼働が必要です。統帥部はそれが可能なのですか?」


第6師団長は苦い顔で参謀長に問いかけた


「あぁその件については安心してくれて構わない。後2か月もあれば冷却が可能だ」


「…わかりました。師団には訓練の短縮化と出撃準備を急がせます」


「よろしく頼むぞ。君達活躍によっては勲章の授与も考えている。だが万が一にも失敗すればどうなるかわかっているな?」


「承知しております」


「ではよい。第5・第6師団長は退室し作戦の準備に移れ」


「了解しました」


澄ました顔で退室した彼らであるがその内心は穏やかではないだろう

だが、立場の低いものはああするしか道がない

逆らえば即刻処刑である


所属は変わったといえソ連の政治委員を相手にするのだ

彼らは自分の意のままに行動しないものを反動主義者や臆病者であるという理由をつけて処刑してきた

ソ連本国は軍を月の都に派遣する際に離反を嫌ってそのような者たちを監督組織としてよこしたのだった


「ところで都の包囲はどうなっているんだ?」


この質問には第1師団長が素早く答えた


「敵の阻止限界線において依然にらみ合いが続いております。砲兵隊による砲撃は継続して行っていますが、敵は結界のようなものを展開し損害を被っているようには見えません」


「なぜ地上兵力を投入しない?第1師団は最新の装備を持ちながら臆病風に吹かれたのではあるまいな?」


「滅相もありません。しかしながら戦争というものは火力戦闘を行ってから近接戦闘に移行するものです。そしてわが軍の戦術ドクトリンは火力戦闘による攻撃に重点を置いております」


「つまりどういうことだ?」


このように彼ら統帥部の連中は皆、戦争のプロというわけではない

軍を【統帥】する身でありながら、政治委員上がりの者はかなりの軍事音痴であったりするのだ


「簡単に申し上げますと火力戦闘とは野砲や航空爆撃を主軸として敵を殲滅する戦闘です。現代戦での損害のほとんどはこの段階で出ると言われています」


「続けてくれ」


「はい、対照的に近接戦闘とは歩兵や戦車を用いて敵陣を蹂躙する戦闘です。効果は高いですが敵が強力な防御陣地を構築している場合、火力戦闘抜き近接戦闘を始めても比較的簡単に迎撃されてしまうものです」


「むぅ…つまり何もできないと言うことか」


「基本的には難しいかと…しかし我々もただ手をこまねいているわけではありません。特殊部隊を用いた浸透作戦を行い後方の補給の破壊やクーデターの正当性を訴えております」


「素晴らしい!そのまま継続したまえ」


明らかなパフォーマンスをそうと理解できず手放しで喜ぶ統帥部の無能さ加減に私は頭を抱えたくなった


用例解説

戦術ドクトリン…作戦・戦闘における軍隊部隊の基本的な運用思想。戦術教義とも


政治委員…主に一党独裁国家において、政府および一体となる党が軍隊を統制する為に各部隊に派遣した将校のことを指す。政府の政治原則を逸脱する命令を発する軍司令官を罷免する権限を有していることもある。軍とはまったく異なる指揮系統に属し、プロパガンダ、防諜、反党思想の取り締まりを担う軍隊内の政治指導を任務とし、広義のシビリアンコントロールである。


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