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第63話 対策会議3

2023年10月16日pm1:00   ”いずも” 第二士官室  (古賀海将視点)


昼食休憩により中断されていた対策会議は八雲紫と八意永琳の到着により再開された

基本的には午前中に行われた会議の延長戦だが八意永琳の要請により捕虜としたニーナ少尉も出席している

勿論、彼女が出席することに関しては幹部や幕僚たちがそろって反対したがより正確な情報を得るためだとして何とか押し通した


そんなこんなで多少の変更はあったものの会議は予定通り始まった


「彼女は八意永琳。永遠亭の薬師で月の都の創設者の一人よ」


紫からの紹介は幹部たちを動揺させるのには充分すぎた

その特徴的な見た目もそうだが何より肩書が凄すぎた

詳しい人間とは言っていたが今まさに脅威となっている勢力の創設者を連れてこられるとは思いもしないのだから

しかも、永遠亭と言えば自衛隊が負傷者の治療を委託している場所である


「よろしくお願いします。早速ですが月の都について教えていただきたい」


「月の都の興りは地上からの移住者たちの建設によるわ。 原始の時代、地上は弱肉強食による生存競争が展開されたことによって【穢れ】が蔓延したの。 数多の死者と絶滅を糧に残った僅かな勝者も【穢れ】によって寿命が生まれ、その寿命も短くなる一方だったわ。そんな中、【穢れ】による生命への悪影響を見出した賢者が夜と月の王である月夜見つくよみよ。彼は自身が信頼のおける者と共に全く穢れて居なかった月へと移住し月の都を興した。そして【穢れ】から逃れた月に移住した生き物は見事寿命を捨てることに成功しました…といったところかしら 」


永琳と呼ばれた女性は挨拶もそこそこに始まった質問にも嫌な顔一つせず答えてくれた

だが疑問はさらに増えた

私の記憶が正しければ月夜見と言うのは日本神話に登場する神様だったはずだ

それが事実なら我々は神々が組織する勢力と対立していることになる


「わかりました。次に月の軍事力について教えていただきたい」


「月の使者と呼ばれる防衛隊が組織されているけど、構成員は素行の悪い玉兎達だったから個々の戦闘力や士気は高くないわ。まぁ武器は私が手掛けたものが使用されていたはずだからそこまで弱くは無いと思うけど」


「そうですか。因みにどのような兵器だったんです?」


「う~ん、例を挙げるならば射撃後に弾丸をコントロールできる銃だとか瞬時に大量の弾幕を放つことのできる銃、片手で使用できる 回転式多砲身機関砲(ガトリング砲)もそうだし、森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子なんかも作ったかしら」


これには武器に精通した高橋三佐だけではなくその場にいた陸海空の自衛隊幹部全てが凍り付いた

はっきり言おう、レベルが違い過ぎる

そんな兵器を持った相手と戦うなら命がいくらあっても足りない

米海軍第七艦隊と艦隊決戦をやった方がまだ生き残れる確率があるくらいだ


「でも、あの兵器の寿命もそろそろだと思うわよ。あの兵器達は私が調整することを前提に作られている物だから今ではロストテクノロジー化していてもおかしくないわ」


もしそうだとしても脅威であることに変わりはない

船と隊員を預かるものとしては決して楽観できない


「実際どうなんです?ニーナ少尉」


陸自の木島三尉がそうすることが当たり前だというようにニーナ少尉に話題を振ったことに注目が集まった

勿論、これは尋問ではないのだから彼女に答える義務は無い

誰もが返答はないだろうと思った時、彼女は大方の予想を裏切って語り出した


「確かに存在するわ。ただしこの手の武器は練度の低い月の使者たちに優先的に支給されることになっているから私達、陸空軍にはあまり関係ないわね」


「全員にいきわたるレベルの数が無いということですか?」


「それもあるけど一番は稼働率の問題でしょうね。あの手の武器は何千年も前に作られたらしいから今では動かないものが多いの」


「成る程、では陸軍は皆さんが所持していたような武器を装備しているのですね」


「そんなわけないでしょう!あれは元々第6師団司令部に保管してあった骨董品で軍の主力はあんなの使ってないわ」


「では何故そんな武器で幻想郷に?」


「それは先の宮城きゅうじょう包囲戦で第5、第6師団が壊滅し…」


「どうしました?」


「…悪いけど今の忘れて」


成る程、どうやら機密事項だったらしい

だが今まで黙って話を聞いていた八意さんがこれに興味を持ったらしく問いかけ始めた


「詳しく話してくれる?」


「機密事項に抵触するのでお答えするわけにはいきません」


「都の創設者に対しても同じことがいえるかしら?」


「八意永琳さんでしたか?恐れ多くも建国の英雄の名を騙るとは不敬にも程があるのではないですか?」


「本人に対して不敬も何もないでしょう」


「まだ戯言を言いますか…私だって陸軍士官学校をでたんです。八意永琳は月夜見陛下と共に建国に尽力された英雄ですが地上に降りた輝夜姫と共に行方をくらまされたお方です。教官も地上は穢れているからもう生きてはいないだろうと言っていました」


「あらそう。そこまで知っているならば蓬莱の薬についても当然知っているのよね?」


「はい、輝夜姫が地上に追放される原因となった不老不死になる薬ですよね」


「へぇ士官学校は歴史の授業においてはしっかりとしているようね。では問題です。あの薬を地上に着いた私が飲んだとしたら?」


「そんな事があるはず...でも教官も講義の時にあの方は天才でありながら希代の変人だと言ってたし、あながち間違いじゃないかも…」


「都では私についてどんな説明をしているのか非常に気になるところだけど敢えて詮索はしないわ」


八意さんは心底不服そうな顔をしているがニーナ少尉は何か考えているようだった


「…あなたが本物の八意永琳殿下だと証明できるものはありますか?」


「じゃあ量子印(りょうしいん)なんてどうかしら?これは私が発明し、いまだに私しか作れないから証明になると思うわ。量子印については学校で習わなかったかしら」


「聞いたことはあります。量子の特性により中身を読んだ人の数が分かる特別な印鑑だと…」


「よく勉強してるわね。それが出来れば文句はないでしょう」


「はい、完成した物をお見せいただけたなら」


「じゃあ少し待ってね」


そう言って私物の鞄から一つの印鑑を取り出した

俺が見ても普通の印鑑にしか見えないがどうやら凄いものらしい


「ニーナさん、今からあなた宛てに文書を書いてこの印を押すわ。自衛隊の誰かでいいのだけど彼女に手紙が渡る前に盗み見ようとして頂戴」


「わかりました。それは自分が」


こういったものにも興味があるのか高橋三佐が真っ先に名乗りを上げた

永琳さんは頷き隊員から借りたペンでスラスラと文字を書いていく

勿論、最後にはしっかりとあの印鑑も押している


「できたわ。さあどうぞ」


「では、拝見します」


三佐は何事もなく封を切り手紙を読み始めるがすぐに顔を曇らせた


「なんだこれ?文字化けか?」


「なに?見せてみろ」


隣にいた秋津一佐が紙をひったくり覗き込む


「本当だ。文字化けしている」


「ではニーナ少尉に渡してちょうだい」


再度しっかりと封を閉じた文書が手渡される

受け取ったニーナ少尉も恐る恐ると言った感じで封を切り中身を取り出す

折りたたまれた紙を開き目を通して彼女がポツリと言った一言が我々に衝撃を与えた


「…読める」


「何と書いてあるんです?」


高橋三佐が興奮冷めやらぬといった感じで詰め寄っても嫌がることなく馬鹿正直に文書を音読して見せた


「『これでどうかしら?それでもまだ私が八意永琳だと認められない?』とだけ…」


「それでどうするの?」


永琳さんの問いに対するニーナ少尉の反応は決まっていた


「先ほどはご本人とは知らず飛んだご無礼をいたしまして申し訳ありませんでした。相手が建国の英雄であれば黙秘する必要はありませんので、私の知っていることは全てお話しします」


永琳さんの登場によって事態は急速に動き出した



用例解説

穢れ…元は神道の概念で忌まれる物、悪い状態、理想的で無い状態を指す。


第7艦隊…ハワイのホノルルに司令部を置く太平洋艦隊の指揮下にあり、国際日付変更線以西の西太平洋・インド洋を担当海域とする。第7艦隊は、原子力空母「ロナルド・レーガン」と艦載される第5空母航空団を戦闘部隊の主力とし、戦時には50〜60の艦船、350機の航空機を擁する大規模艦隊



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