第61話 対策会議
2023年10月16日am11:10 ”いずも”CIC(古賀海将視点)
「映像をそっちに送った。率直な感想が知りたいんだ。彼女、嘘をついていると思うか?」
『司令、何故それを私に聞くんです?自分はしがない輸送艦の艦長ですよ?』
「君はこの道のスペシャリストだろ。ならば君に聞かない道理はない」
『おっしゃる意味が分かりませんが』
「君の経歴に関する資料を読ませてもらった。”おおすみ”艦長に配属される前は海幕監部にいたんだってな。資料によると勤務態度は良く仕事に関しても非常に優秀と書いてあった」
『それは光栄ですね』
スピーカーごしに緊張が感じられる
「小林一佐、この資料には君がどのような仕事をしたかは書かれていなかった。興味深いのはその4年後、防衛省情報本部に出向となっている点だ。情報本部は一般の業務だけをしていて行けるところではない。情報保全隊の経験者でもない君が出向するのは不自然だ。そうだろ?」
『本当によく調べていますね。捕虜に対する情報を私に尋ねたのもそういう訳ですか』
言い逃れされることを警戒していた私としては拍子抜けしたが彼は観念したように話始めた
「あぁ統合任務部隊を率いることになった時に幹部の経歴は確かめさせてもらったからね」
『見かけによらず抜け目のない方ですね。正直驚きましたよ。今更、隠す気はありません。何が知りたいんです?』
「では改めて聞こう。彼女の話は本当だと思うか?」
『映像を見る限りですとディスインフォメーション、つまり偽情報による攪乱の可能性ですが現段階では低いと言わざるを得ません』
「根拠はあるか?」
『詳しすぎるんですよ。でっち上げた情報っていうのは細かいところに齟齬が出てくるもんです。しかし、彼女に話にはそれが無いわけです。他にもいくつかありますが一番大きな理由は自分の経験ですね』
「彼女の話しを聞いても大丈夫なんだな?」
『捕虜の話を全面的に信じるのは危険ですが話を聞くのは大切ですよ。内容は後で裏付けを取ればいいんですから』
やはり彼に聞いて正解だったと思う
全く、餅は餅屋とはよく言ったものだ
「参考にさせてもらうよ」
俺は無線を切りCICを後にした
2023年10月16日am11:00 ”いずも”第2士官室 (木島三尉視点)
「一時はどうなるかと思いましたがあの尋問方法は良い判断でした。あのまま何もしないと捕虜の警戒心が高まってしまいそうでしたからね」
あの後、場を仕切り直すために尋問を一時中断することになった
予定外の暴行を受けた捕虜の休憩と言うのは表向きの話しで、実際のところは様々な新情報によって脳内処理がパンクした幹部達の休息が目的だった
「昔取った杵柄ってやつですよ。仕事柄、こういった講習も受けたことがありまして」
「すごいですね。自衛隊さんもそういった講習を受けるんですね」
まぁ自衛隊と言っても一般部隊で受けることはまずないだろう
受けるとしても警務隊や中央即応連隊あたりだろうし
自衛隊は良くも悪くも世論を大事にする組織だ
仮に米軍やCIAのようにあからさまな拷問を行ったりすれば自衛隊が解体されかねない
そんな事情もあって防衛省では拷問に抵触しないようにしつつ捕虜から情報を聞き出す方法を長年研究してきたのだ
「まぁ何はともあれ捕虜が無事でよかったですよ」
もっともその捕虜が話したことは大学出身の幹部連中を悩ませるようなものだったわけだが…
その時、視界の端でゆっくりと扉が開くのが見えた
「司令入られます!」
若手の海曹が声を張り上げると同時に椅子に腰かけていた幹部たちがすっころぶような勢いで立ち上がり直立不動の姿勢をとった
古賀司令が入室するといつもの如く幹部たちが敬礼で迎える
何かとこの司令とかかわることが多かったせいで忘れていたが彼の階級は海将である。本来ならば各基地の司令官や市ヶ谷の統幕監部辺りにいるべき人材で、とてもではないが統合任務部隊とは言えただの演習艦隊の司令官としては破格の階級なのだ
何故、現場にいるのか詳しいことは俺も知らない
後で高橋三佐にでも尋ねてみよう
「各自、事情は聴いたと思うが彼女が軍人ならば今後の方針を変えなければいけない。急ではあるがこれより対策会議を開きたいと思う。紫さんも参加をお願いします」
「わかったわ」
「ご協力ありがとうございます。各艦並びに駐屯地司令部と回線を繋げ」
「了解しました」
何故ここにいるのかは謎だが優秀なのは間違いないだろう
状況が急変した際は方針の再確認、もしくは変更を検討しなければいけないのだから素早い会議は必須なのだ
曹士クルーが急いで会議の準備に取り掛かっている中、紫との話を終えたらしい古賀司令がこちらに近づいてきた
「木島三尉、君が捕虜から重要情報を聞き出してくたそうだな。よくやった、感謝する」
「いえ、結果的に上手くいっただけですから。それよりも自分の行動は越権行為に値しませんでしたか?」
「なぁに、この情報は部隊の安全を確保するうえで非常に重要なものだったんだぞ。多少の越権行為くらいで目くじらを立てるつもりはない」
「そうですか。…彼女が軍人を名乗った以上方針の転換が必要だと思われますが、司令はどのようにするおつもりですか?」
「我々は自衛隊だ。国家国民の主権と生命財産を守るために存在する。そこから外れるような真似はしないよ」
「そうですか…」
この男の言葉からはある種の決意のようなものが感じられた
用例解説
中央即応連隊…陸上自衛隊中央即応集団隷下の連隊。海外派遣や国内の有事における緊急展開部隊であり、編成等も含めアメリカ陸軍の第75レンジャー連隊とよく似ているが、同連隊のような空挺資格とレンジャー資格の保有者のみで構成された部隊ではない。
CIA…日本名、中央情報局。外国での諜報活動を行うアメリカ合衆国の情報機関である。中央情報局長官によって統括され、アメリカ合衆国大統領直属の監督下にある。本部の所在地からラングレーと呼ばれることもある
防衛省情報本部…通称DIH。約2,400名の要員を抱え、海外の軍事情報を始めとする各種情報を扱う日本最大の情報機関である。




