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第60話 尋問2

2023年10月16日am10:45 幻想駐屯地 桟橋 内火艇  (木島三尉視点)


「木島三尉ですね。お待ちしていました」


以前、俺達が必死になって作った桟橋に海自の内火艇が横付けされていた。蒼い作業服を着た海自の隊員が敬礼で迎えてくれた


「ありがとう。これに乗ればいいんだな」


「はい、そうです。”いずも”まで我々が送ります」


「頼むぞ」


「はっ」


「紫さんどうぞこちらへ。一分隊は俺と来い。他は次のボートで向かえ」


「了解」


八雲紫とは最初に挨拶をしたきり話していない

何を意図してここに来たのかは知らないが面倒が起こらないことを祈るばかりだ

捕虜の所属はいまだにわかっていないらしい

彼女は何か知っているのだろうか?


無言で内火艇に乗っているとすぐに”いずも”に接舷した

湖はもともとそこまで広いわけではない

内火艇で少し進めば”いずも”まで行くのは容易だった


海自の作業員が引き揚げ作業を行っているが、手伝えることもないので彼らに任せ黙って座っていることにする


「よし、降りていただいて結構です」


「ありがとう。紫さんこちらに」


内火艇から降りると紺の作業着に身を包んだ幹部自衛官が挙手の敬礼で迎えてくれた


「艦長の秋津です。八雲紫さんですね」


「そうよ」


「お待ちしていました。こちらに」


外から見る”いずも”は馬鹿でかく見えるが隔壁だらけで通路は狭い

まぁダメコンを考えれば仕方ないのだろうが正直、息が詰まる

それでもエアコンを完備した最新の護衛艦なだけあって艦内は駐屯地に比べてかなり快適なのだが


「ここで捕虜への尋問が行われています」


通されたのは士官用の一室と思われる部屋だった。

扉の前には小銃を携帯して武装した立ち入り検査隊の隊員が立哨しており警備の厳重さが伺える


「入っても?」


「構いません。ですが我々も立ち会わせていただきます」


紫は何も答えず扉を開け中に入った

慌てて扉を開けると、室内に捕虜にした例の女性士官がいた


「何の用?」


「この方が君に聞きたいことがあるそうだ」


彼女は秋津艦長の説明を不審に思ったのか怪訝な表情を見せる


「誰?」


「こんにちは。八雲紫という名前をご存じかしら?」


瞬間、捕虜が椅子を蹴り飛ばし壁際まで後退した


「動くな!」


慌てた立ち入り検査隊員が拳銃を抜き警告した


「大妖怪が直々に何の用?」


「貴方の所属と目的が知りたいの。幻想郷を攻撃したんだもの。覚悟はできてるでしょ」


「答える義務は無いわ」


「いいえ、あるわ。答えてもらわなければ困るもの」


言い終わると同時に紫が消えた

いや、女性士官の前に一瞬で移動したのだ


紫はそのまま士官の首を絞めている

首を掴んで持ち上げられているようで、つま先が地面についていない。

立ち会っていた海自の幹部が、立ち入り検査隊員を押しのけ捕虜を救うために紫を羽交い絞めにしようとするもすぐに振り払われる


俺は彼女の使った技に見覚えがあった

以前、紅魔館で咲夜さんと模擬戦をした際も同じように姿を消した

彼女の能力は時間操作だったが紫も類似した能力を持っていると見て間違いないだろう


「答えなさい!貴方の所属と作戦の目的は?」


「うぐっ」


「おい!死ぬぞ!放してやれ」


「死んだら何も聞き出せない。わかるでしょう?」


尋問を担当していた警官と立ち会っていた幹部自衛官が必死の説得を試みる

苦しむ捕虜の姿に耐え切れなくなったのか一人の女性立ち入り検査隊員が拳銃の撃鉄を起こしたのが見えた


室内はもう何が起こってもおかしくない程に空気が張り詰めている

それからまもなく女性士官が床に転がった

紫が手を離したのだとわかると立ち入り検査隊員達が紫と捕虜に駆け寄っていく


俺は荒い息のまま呼吸する女性士官にゆっくりと近づいた


「三尉、下がってください」


「どけ!」


捕虜は今極限状態から解放されたばかりで極度の緊張状態にある

特戦群にいた時に情報本部の人間から聞いたことを試すことのできる良い機会だ

それに今を逃せば彼女が話す可能性は限りなく低くなってしまうだろう


俺は処分を覚悟で立ち入り検査隊員の制止を振り切り女性士官の肩に手を置いて語りかける


「悪かったな。だが重要なんだ、人の命がかかってる。約束する、俺だけはあんたの味方だ。だから俺だけに教えてくれないか?」


数秒の沈黙のあと女性士官は意を決したように顔をあげ答えた


「…わかった。貴方にだけに教える」


これで名前や所属、それにうまくいけば作戦目的も聞き出せるかもしれない

あまりにも流暢な日本語を使う点など不可解な点は多いが、押収した武器や装備から上層部はロシア軍の可能性が極めて高いと結論付けていた。

ロシア軍がどうやってこの世界に現れ何を目的に活動していたのかを知ることで、もしかしたら日本に帰れるかもしれない


紫や周りの隊員が見守るなか士官は語り出した


「私は月面陸軍所属ニーナ・コトフ少尉。作戦目的は幻想郷の先遣偵察」


…今何といった?

一体何の冗談だというのか

我々を欺くために偽情報を言ったのか首を絞められたせいで酸欠を起こし頭がイカレたのか?

だが自分でも信じられないことに俺の感は彼女が嘘をついていないと告げていた


「ロシア軍じゃないのか?」


「違う。月の都出身よ」


聞いたことのない名前だったが少なくとも八雲紫は知っているようだ

表面上は上手く隠し通している気なのかもしれないが目を見れば彼女の動揺を読み取ることが出来る


「なんてこった」


「月で政変が起こったの。軍は幻想郷を攻撃して滅ぼすつもりでいるわ」


「どうして?」


「月の都に何度も攻撃があったからよ」


紫に注目が集まった


「それはいったいどう言うことですか?」


「月と私達、地上の妖怪は過去に何度か戦争をしているわ。いずれも妖怪が大敗したのだけど」


「幻想郷への攻撃はその報復なのか?」


「ええ、少なくとも上層部はそう言ってる」


「古賀司令呼んでくれ」


「わかりました」


海自の幹部が慌てて部屋から出ていく

恐らくCICに向かったんだろう


「ちょっと待って。月に軍なんてものは存在しなかったはずよ!月の使者の間違いじゃなくて」


紫も混乱しているようで動揺が隠しきれていない

こんな彼女を見るのは初めてだった


「いいえ、あるわ。月の使者の任務は地上の監視と月の都の防衛だけど私達、陸軍は違う。軍の任務は地上と全面戦争になった際、地上に強襲をかけて制圧するのが任務なのよ」


「そんなものいつの間に...」


「軍の歴史は私達と一緒でまだ浅いわ」


「君達と同じ?」


「そうよ。軍は私達が月の都に移り住んだ時に設置された機関だもの」


「どういうことかしら?」


「私達は元々月の都で暮らしていたわけではないわ。最近になってソ連と言う国から移り住んだのが私達よ」


衝撃的な事実だったが納得できないわけではなかった

ソ連軍がルーツなら使用していた装備がロシア製なのも頷ける

だが不可解な点もある


「ソ連だと?そんな馬鹿な!アメリカならいざ知らずソ連は月面着陸すら成功してないんだぞ」


そう、この幹部の言う通りソ連は月に到達していないのだ

到達していないのだから月の都とやらを発見することは不可能なはずなのだ


「いいえ、成功したわ。それも私達の祖先は月の裏側に着陸させたの」


「詳しく聞かせてくれるか?」


周囲が荒唐無稽の与太話だと考え始めた時、秋津一佐が興味を示した


「ええ、これは私が父や祖父に聞いた話よ。ソ連はボストーク1号にユーリー・ガガーリン少佐を乗せ人類史上初めて宇宙に出た。あの時はアメリカという国と激しい宇宙開発競争を行ったと聞いているわ」


「あぁそうだ。そしてアポロ計画でアメリカは月に着陸し競争に勝利した。これが史実だ」


制服を着た幹部が自分の知っている情報と照らし合わせて批判する


「いいえ、その話には続きがあるの。メンツを潰されたソ連上層部も黙っているわけにはいかず翌年にソ連は月の裏側に人類を到達させることに成功したの」


「じゃあ何故大々的に発表しなかったんだ?アメリカに対抗するんだったら広報するはずだろ」


「メンツなんかどうでも良くなるような成果を残したからよ。ソ連は月の裏側で生活する文明を発見し独自の外交ルートを確立したの」


「仮にソ連が月の都と接触したとしてそんなに簡単に外交ルートを作れるものなんですかね?」


月の都と交流が合ったことをほのめかした紫に質問の矛先が向く


「いいえ、月の都は地上の穢れを避けるために作られた場所よ。いかに相手が平等社会の樹立を目指すソビエト連邦とは言え地上と外交ルートを持つことはあり得ないはずよ」


「だそうですが貴方の言っていることは本当に正しいのですか?」


必死に話したことを疑われた女性士官は信じられないと言うように目を見開き呆然としている


確かに彼女の弁論は俺達から見たら荒唐無稽で嘘八百に見えるがこのタイミングで彼女が嘘をつくメリットが低いというのもまた事実だ


伝統墨守唯我独尊の海自らしく幹部にも頭の固い連中が多いと聞く

ここは俺がフォローしてやるべきだろう


「話自体はにわかに信じがたいですがこのタイミングで嘘をつくメリットは無いと思われます」


「しかしだな三尉、現段階では何の裏付けもなく、はいそうですかと受け入れるわけにもいかないんだ」


「それは分かってます。しかし、この事件は全てが終わったわけではありません。敵の主力と思われる部隊は依然健在です。そんな中、捕虜の情報を理解できないからと否定していては事態の収束は不可能です」


これには幹部も反論することはできなかったようで押し黙ってしまう

誰も意見を述べることが出来ないまま室内に重い沈黙がのしかかる



用例解説


ダメコン…ダメージコントロール。物理的な攻撃・衝撃を受けた際に、そのダメージや被害を必要最小限に留める事後処置を指す。


いかがでしたか?

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