表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/104

第50話 訓練展示

2023年10月15日am10:25 ‘‘みょうこう’’CIC  (菊池三佐視点)


『続いて訓練展示を行います。今回は我々自衛隊が保有する各火器を使用した射撃訓練をご覧いただきたいと思います。準備ができるまで今しばらくお待ちください』


「ようやく訓練展示か」


俺のつぶやきは乗組員全員の気持ちを代弁したものだった


観閲行進の際は陸自の高射部隊や空自の戦闘機などが機能しなくなる。

そのため周辺の防空は全て海自の護衛艦が担当することになったのだが、そうなると対空能力が一番高いイージス艦である‘‘みょうこう’’が要になるのは目に見えていて、実際に‘‘みょうこう’’の乗組員は観閲式の最中ずっと対空部署が発動されたままの状況で待機しなければならなかったのである


しかも指揮を執るはずの艦長は‘‘いずも’’に召集されているときた

そんな中で彼らは神経をすりつぶしながらレーダーディスプレイを食い入るように見つめ続けたのである。そのためかクルー達の疲労は相当なものになっていた


「海自だけでエリア防空を行うなんて土台無理な話だったんですよ。レーダーに目標が映ってもそれが敵意があるのか確かめようがないんですから」


レーダーディスプレイを睨みつつ周辺空域の監視に専念していたレーダー士が控え目な声でぼやく


「それは否定できないな。何せこちらでは無線での誰何ができないから結局は目視確認になってしまう」


だが、それを否定することもできずほとんど同調するようになってしまう

本来ならば叱り飛ばさなければいけないのだろうが生憎と最年少で砲雷長に就任した彼には甘さが残っていた


「そこまで近づかれれば長距離対空ミサイルのSM-2じゃ間に合いませんから実際はCIWSと艦載している12.7mm機関銃で応戦することになりますしね」


直属の部下で自分よりも若い幹部までも懸念事項を伝えてくる

しかし、口ばかり動かしている訳でなくしっかりと仕事をしているから特に注意することはない

それがいかにもうちの艦らしいと思った


「アウトレンジ戦法が使えない状況ではいかにイージス艦といえども普通の護衛艦と大差はないからな。だがここで泣き言を言っていても誰かが助けてくれるわけではない」


若手幹部の懸念に答えたのはこの場にいないはずの人物だった


「艦長!?戻っていらしたんですか」


そこには直属の上司で本艦の指揮官たる田中一佐がいた


「たった今、内火艇でな。それと一つ予定が変更になった」


「今になって予定変更ですか?このタイミングでは現場に余計な混乱を強いることになるのでは?」


CICに詰めていた副長が艦長の言葉に懸念を呈する。心配するのが副長の仕事だから別の間違った行動ではない


「それはこちらも分かっているが古賀司令が下した戦略的な判断だ。それと古賀司令自身が本艦に乗艦なされる」


「艦長、そういった重要な要件は事前にご連絡いただかねば困ります。」


警備責任もあるし司令官が乗艦するとなれば色々な準備が必要だ。だからこそ事前の連絡が必須なのだ

報連相の徹底を指導している艦長ならば絶対にしないようなミスだから少し驚いた。

艦長のことは信頼しているし良い上司であると思っている。こうした苦言を呈することができるのも信頼関係があってこそだ


「砲雷長、あまり艦長を責めないでやってくれ。私が無理を言って決めたことだ」


だからこそ艦長に続いてCICに入室した人物を見て艦長の不可解なミスに納得がいった


「古賀司令!?ご一緒に乗艦なされていたのですか」


この部隊の中でトップに位置する者の唐突な出現にCICの乗組員は椅子から飛び上がるようにして敬礼をすることになった

それに答礼する古賀司令もどことなく苦笑いを浮かべていた







2023年10月15日am10:38  幻想駐屯地 中央グラウンド 10式戦車 車内(日浦二尉視点)


『お待たせしました、これより訓練展示を行います。本訓練は敵制圧下の地域に対する強襲を想定した訓練となっています』


「小隊長、ここは岩手山演習場と違ってちゃんとした設備があるわけじゃありませんし、民間人だっています。本当に実弾で撃つんですか?」


放送が聞こえて不安になったのか砲手が無線を使って問いかけてきた


「事前に連絡した通りだ。上からの命令も変わらないから恐らく撃つだろうな」


『会場右手をご覧ください。96式装輪装甲車が入場して参りました。96式装輪装甲車は高い防弾性を備えており普通科部隊を安全に展開させることが出来ます』


アナウンスと共に入場してきた96式装輪装甲車から隊員が下車し左右に展開を開始する


『降車する隊員を援護するため96式装輪装甲車が射撃を行います。今回は敵装甲車両に見立てた前方の赤い帯のついた丸太を射撃します。大きな音がしますので会場の皆さんはご注意ください』


因みにこの丸太は駐屯地設営のために切り倒した木を使用している


『目標、距離300、発射よーい…発射!」


96式装輪装甲車に備え付けられたM2重機関銃が重い銃声と共に必殺の12.7mm弾を丸太に叩き込む。

発射された12.7mm弾はいとも簡単に丸太を粉砕し木くずに変えていく


『命中。撃ち方やめ』


随分とすり減った丸太を見た観客からは驚嘆の声が上がっている


『続いて装甲車に支援された普通科隊員が敵歩兵に見立てたカカシに対し、89式自動小銃による射撃を行います』


標的にされたカカシは作成経験のない自衛官が作ったものだからかひどく不格好なものも混在している


『目標正面、距離150、単連射、指名、撃てぇ!」


M2の12.7mm弾と比べると89式の5.56mm弾は貧相だがこれも人体に致命的な損傷を引き起こす対人用の弾丸である

様々な射撃姿勢をとった隊員達が放つ弾丸は瞬く間にカカシをハチの巣にしていく


『目標撃破。離脱する』


隊員達が射撃をやめ96式装輪装甲車に戻っていく

実際の戦闘はこんなに簡単に終わることはないのだがこれは公開演習であるからそこのところはご愛嬌である


『96式装輪装甲車の離脱後、損害を受けた敵部隊は当地域に戦車からなる機甲戦力を派遣し我が方の撃滅に乗り出したため我が方の10式戦車小隊が防御戦闘を開始します。会場右手をご覧ください。10式戦車小隊が侵入してまいりました』


アナウンスと同時に待機していた我が小隊は会場に侵入すると同時に目標に見立てた黄色い帯のついた丸太に主砲を向けた


『10式戦車は我が国の最新鋭の戦車で高い攻撃能力と防御力を併せ持った車両です。今回は黄色い帯のついた丸太を敵戦車に見立て射撃を行います。大きな音がしますので会場の皆さんはご注意ください』


『目標、黄の台、敵戦車、弾種対榴、小隊集中行進射、撃て!』


号令と同時に4台の戦車の主砲から120mmの砲弾が飛び出し目標を一撃で粉砕し、跡形もなく消し飛ばした

一つの脆弱な目標に対して主砲弾の集中砲火を加えたのは戦車乗りになって以来初めてだと思う


『命中、目標撃破。後退よーい後へ!』


『敵の撃破に成功したため戦車小隊が離脱します』


この後はアパッチによる30mm機関砲の射撃があるがこれさえ終われば自分の仕事は終わる


駐屯地祭が終わったら部下を連れて人里まで飲みに行ってもいいかもしれない

順番になるかもしれないが連隊長も打ち上げくらいは許してくれるだろう


そんな安堵感に浸りながら小隊に撤収命令を出した



いかがでしたか?

ご意見・ご感想・ポイント評価などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ