第46話 稗田阿求
2023年10月2日pm1:00 人里 里長邸
「お待ちしておりました。さぁさぁこちらへ」
「大人数で押しかけてしまい申し訳ありません。失礼します」
「いえいえ、お構いなく。何といっても皆さんには先日の事件で助けていただいた恩がありますから」
そういって里長はこちらに座るよう促した
「それが我々の仕事ですからあんまり気にしないで下さい。それよりも彼らはどうして暴動を引き起こしたのですか?ここは種族間の対立はあれど人間による犯罪はあまりないとの報告があったのですが…」
「お恥ずかしながらそれには理由があるのです」
「と言いますと?」
「彼らはこの里で農業をして生活していました。しかし魔法の森に近い地域で農業を営んでいた彼らは魔物や妖怪の襲撃で何度か田畑をやられていまして、博麗の巫女も定期的に退治しに来てくれたのですが異変の発生で状況が…」
「つまり食うに食えなくなって暴動を起こしたという訳ですか」
「そういうことです。流石にあれほど大規模なものは今回が初めてでしたがね」
「また何かあった時はご連絡ください。生憎と食料の提供できませんが民間の基地警備要員として雇うくらいはできると思いますから」
「お心遣いありがとうございます。ですが我々もあなた方に頼ってばかりいるわけにはいきませんから」
「困ってる人を助けるのが我々自衛隊の任務ですからお気になさらないでください。それに今回の駐屯地祭でもご協力いただけるとの事ですし、何かあれば遠慮なくおっしゃってください」
「わかりました。しかし、今回の協力に関して我々は感謝されるようなことはしていませんよ。里興しにもなりますし、祭りが嫌いな者は幻想郷にはほとんどいませんから」
「それは良い情報です。他にも何かいい情報はありませんか?」
「皆さんにとって何が良い情報なのかはわかりませんが、ここの歴史でしたら稗田家に赴いてはいかがでしょう。あそこならば幻想郷の歴史を知ることが出来るでしょう」
「ありがとうございます。ぜひ伺いたいのですが案内を頼めるでしょうか?」
「任せてくださいと言いたいところですが、稗田家当主には我々でも事前に連絡しないと合わせてもらえないことが多いのです」
「そうですか。まぁこちらで何とかします」
「お力になれず申し訳ありません」
「いえいえ、貴重な情報をありがとうございました。では我々はこの辺で」
「またいつでもいらしてください」
2023年10月2日 pm1:45 稗田邸前
「ここです」
目の前には和風建築の立派な門や中庭がある大きな屋敷がそびえたっていた
先程の里長の自宅とほとんど変わらない程、立派なつくりである
里長は難しいと言っていたが、我々が今後行動するのに幻想郷の歴史は非常に重要なものになりえる
そんな訳で一度駐在所に戻り、土地勘のある現地捜査本部の警察官に案内を頼んだのだ
「忙しいところをありがとうございます。それにしても随分立派な屋敷ですね」
「そうでしょ?我々も最初はここが里長の家だと思ってました。警備も厳重ですし…ただ我々も会ったことがないのでどのような人物か把握できていませんので注意してください」
「警察でも合わせてもらえなかったんですか?」
「駐在所を開くときに一軒一軒回って挨拶したんですが、ここのご主人には会わせてもらえなくて」
「閉鎖的なんですかね?」
「会ったことがないので何とも言えませんが、そうかもしれません」
「わかりました。取り敢えず挨拶だけでもできるように頼んでみます」
「まぁ頑張ってください。良い結果になる事を祈っています」
「ありがとうございます。案内ありがとうございました」
案内してくれた警官は敬礼をした後、踵を返して駐在所に帰っていった
「さて、行くか」
「さんざん警告されてましたけど大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃなくても行くんだよ。それだけここの歴史を知ることの価値は大きい」
「そういうものですか?」
「そういうものだぞ。ほら行くぞ」
「あっ、はい!」
2023年10月2日pm2:00 稗田邸
「意外と簡単に通されましたね」
「もっと手こずるかと思ったが心配して損したな」
「そうですね。1個分隊もの人数で事前連絡なしに押し掛けたんですから断られるものだと思っていましたが」
しばらく待つと奥の障子から着物姿の少女が現れた
いかにもお嬢様といった綺麗なたたずまいだ
「お待たせしました。私が稗田家当主、稗田阿求です。」
「日本国陸上自衛隊の木島正義三等陸尉です。急な訪問にもかかわらずお時間をいただきありがとうございます」
「いえいえ、ちょうど時間があったのでお気になさらなくて結構です」
「そうですか。しかし、先日我が方の警察官が伺った際は追い帰されたと言っていましたが?」
「それに関しては申し訳ないと思っていますが、記録をとらなけばならなかったものですから客人は全て追い帰していたんです」
「記録?」
「はい、私の仕事は幻想郷で起こった事件を記録することなんです。これほど大規模な幻想入りは当家の書物にも記録されていません。それに、何ら特殊な能力を持たない貴方達が紅魔館の吸血鬼と戦った上に勝ってしまうなんて記録すべき重大事件だと思いませんか?」
「事件を起こした当人としては頭が痛くなる質問ですが、こちら側の常識として今まで無かったイレギュラーな事態なわけですから確かに記録が必要ですよね」
「そうなんです。まさにイレギュラーなんです。貴方たちが起こした事件も貴方たちの存在も」
「どういうことです?」
「ここから先を知りたければ私と取引をしましょう」
「取引ですか…要求と我々への対価は?」
「私は貴方達の情報が欲しいのです。外の世界ではどうしていたのか?そして何より外の世界は今どうなっているのか?対価は幻想郷の歴史です。いかがでしょう」
「いいでしょう。実は我々はそれを聞くためにここ来たのです」
「それは奇遇ですね。ではまずそちらから話していただきたいのですが」
「どうぞ、何が聞きたいのですか?」
俺達は話が長期戦になることを覚悟した
用例解説
稗田阿求…人間の里にある名家「稗田家」の当主であり、九代目「御阿礼の子」。幻想郷の妖怪についてまとめた書物「幻想郷縁起」を編纂するため、千年以上前から転生を繰り返している。




