第45話 駐屯地祭準備
2023年9月30日 am8:00 幻想駐屯地 第一滑走路『ランウェイ01』
「施設科が来てから滑走路もあっという間にできたな」
「それを専門とする部隊ですからね。少なくとも俺たちがやるよりは早く終わりますよ」
「それはそうだが彼らがいなけらば条約にあった駐屯地祭の開催が間に合わなくなるところだった」
「あれ?日程が決まったんですか?」
「ああ、ついさっき中隊長から日程が通達された。来月の15日が開催日だそうだ」
「意外とすぐですね」
「時間がないんだよ。あんまり待たせると向こうの代表から条約の見直しを求められる」
「それは困りますね。最近になってようやく自分達、下士官兵にも人里に行く許可が下りたばかりなのに」
「娯楽が少ないのは悪いと思っているよ。だが駐屯地祭に向けて今より忙しくなるからそれまで待ってくれ」
「わかってます。小隊の連中には我慢するよう言っておきますから」
「たのんだ」
「了解です。ところで…」
「木島三尉。木島三尉はいますか?」
彼らの会話は走りこんできた若い陸士長によって中断せざるをえなかった
「どうした」
「連隊長がお呼びです。直ちに司令部へ出頭してください」
「了解した。ご苦労」
陸士長は木島のねぎらいの言葉に答礼で答えた後、駆け足で司令部に戻っって言った
「大変ですね」
「他人事みたいに言うな。連隊長殿のお呼び出しだということは俺達、第2小隊を使う気満々だってことだぞ」
「そうなんですか…」
「あぁ十中八九そうだろうな」
どちらともなくため息が出るのに時間はかからなかった
2023年9月30日am9:15 駐屯地作戦司令部 2階会議室
「駐屯地内の警備は第4中隊から交代で出すこととする。不審な行動をとる者がいれば注意し工作活動があった場合には直ちに身柄を押さえろ。武器使用に関しては正当防衛・緊急避難・武器等防護の原則に沿って行動するように。もし現場で判断がつかないような事態が発生した場合には直ちに作戦司令部に指示を仰ぐように徹底してほしい。坂上三佐よろしく頼む」
「了解しました。各小隊長に徹底させます」
「よし、警備は終わったな。次、広報活動に関してだが___」
「三等陸尉 木島正義入ります」
「ちょうどよかった。君の小隊に広報を任せたい。やってくれるな?」
「ちょっと待ってください!どういうことですか?説明を求めます」
「あーすまん。君の小隊には人里での広報を担当してもらう。勿論、広報は君たちだけがやるわけではない。報道の射命丸文さんも新聞を使って各地に広報しているし、海自も人里の商工会と商品コラボのために何人か隊員を派遣している。ただこの付近で多くの来場者が見込まれる人里には1個小隊規模の広報部隊を送ることとなった。そこで君たちの出番というわけだ」
「そういう事でしたら引き受けます。ですが具体的な指示をいただきませんと」
「わかっている。要人への接触と民間人への説明を主な任務とする。現地での案内は駐在している警察に頼んであるから大丈夫だろう」
「少々不安ですが了解しました。全力でことに当たります」
「よし任せた。次、訓練展示についてだが…」
さらなる説明がないことを悟った木島はそっと会議室を出た
2023年10月2日am9:00 人里 正門前
軽装甲機動車の先導の元、73式トラックに揺られながら第2小隊30名は人里まで移動していた
「小隊長、到着しました」
「周囲に敵影なし」
「よし、運転手以外は降車しろ」
無線で命令が伝わるとすぐに後方の73式トラックから小銃を装備した第2小隊が素早く整列を開始していた
「それにしてもよく小銃の持ち出し許可が下りましたね」
「この付近は何が起こってもおかしくない。近くに魔法の森なんて言う化け物の群生地帯があるんだからな。警察の奴らも前回の事件で懲りたのか森には近づかないようにしてるらしいしな」
「その噂本当だったんですね」
「当たり前だ。危うく死者をだすところだったんだぞ。さぁとっとと並べ、守衛が待っている」
「失礼しました。すぐに並びます」
「里に入るぞ。二列縦隊で車両の左右を囲み護衛しろ。近づくものがいれば制止せよ」
2小隊は速やかに縦隊を組み、万が一の誤射をなくすために小銃から弾倉を外し槓桿を引いて薬室に弾丸が装填されていないことを確認する
いくら日本と違い治安が保障できない地域とはいえ民間人が大勢いる場所で銃を振り回していては信頼など生まれないという連隊長の判断により人里では原則として弾丸を装填したままの銃を持ち歩かないこととされている
「よし、小隊前進せよ」
こちらの姿を認めた守衛は正門付近から人を遠ざけ安全を確保してくれていた
事前に連絡を受けていた警察の現地本部要員も正門前で2小隊を出迎えた
「ご苦労様です。車両はこちらにどうぞ」
本部要員といっても警察の機動隊、それも特殊部隊の隊員なのだが専門外であろう交通整理も見事にこなしていた
彼らの活躍で目立ったトラブルもなく警察の現地本部となっている空き家に到着した
「誘導ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえいえ、そちらにはヘリで救助していただきましたし困った時はお互いさまですよ」
これが警視庁の公安部辺りの連中だったらこうはいかなかっただろう
2・26事件で殉職者を出した警視庁は戦後新設された自衛隊にも懐疑的な視線を送りつ続け、今日では公安部に自衛隊監視班(通称マルジ)を置きクーデターの動きをチェックしているのだ
そのせいか自衛隊と警察は仲が悪いことで有名だ
近年はテロ・ゲリラ攻撃対策のため警察と自衛隊が共同訓練を行うことは多くなっており、現場では連携が取れつつあるが事務レベルではいまだ対立しているらしい
「自衛隊の皆さんにはこちらの部屋を使ってもらいます。我々の駐在所を兼ねているので狭いのは我慢してください」
「もともとテントで寝ることも考えていましたし贅沢は言いませんよ」
「そう言っていただけると助かります。ではごゆっくり」
そういってここまで案内してくれた警察官は持ち場に戻っていった
「よし、4、5分隊を駐在要員とする。2、3分隊は里内を巡回し宣伝しろ。1分隊は俺と一緒に要人への挨拶回りだ。何か質問は?」
反応なし…
「では解散」
用例解説
2.26事件…1936年(昭和11年)2月26日から2月29日にかけて、皇道派の影響を受けた陸軍青年将校らが1,483名の下士官兵を率いて起こした日本のクーデター未遂事件である。
この過程で総理大臣官邸、警視庁、内務大臣官邸、陸軍省、参謀本部、陸軍大臣官邸、東京朝日新聞が占拠された。
この事件の結果、岡田内閣が総辞職し、後継の廣田内閣が思想犯保護観察法を成立させた。
警視庁公安部…公安部は、GHQの人権指令により廃止された警視庁特別高等警察部の後継組織である。警視庁公安部は国内最大規模の公安警察官を抱えているが、これは人口が多いからというだけでなく、東京には日本共産党本部や各国の大使館など、公安警察の対象が拠点を置いているためでもある。




