第42話 対空戦闘
2023年9月14日pm4:15 護衛艦”みょうこう” CIC(菊池三佐視点)
空自の戦闘機が緊急発進したのと同時に全艦艇に対空戦闘用意が発令された。
そして今、レーダーに多くの機影がこちらに向かってくるのがはっきりと映っている
この大集団の内、敵味方識別装置(IFF)に反応しているのは先頭の1機のみである。
この1機は既に旗艦の”いずも”に低空からアプローチし着艦態勢に入ってる。
問題はこの後方から接近するIFFに反応がない大集団のほうだ
数はおよそ20。
待機していた空自の戦闘機が発艦を申請していたようだがいまだに上がっていないことから申請は却下されたとみていいだろう。
つまり、艦隊防衛の要は本艦をはじめとする護衛艦になるわけだ
「砲雷長、既に敵集団はスタンダード及び主砲の射程圏内に入っています。まだ攻撃しないのですか」
若手のミサイル士がレーダーに映る大編隊に気おされたのか若干引き攣った顔で聞いてくる
「おそらく上は同士討ちの危険を下げたいんだろうよ」
「成る程…ですがアウトレンジで攻撃した方が敵の数を減らせますし、安全性は向上します」
「確かにその通りだがこちらには戦闘艦、それも防空戦闘に特化したイージス艦があるんだぞ。機銃弾1発で落ちるような対空目標が何機いようがどうにでもなるだろう。だが、油断は禁物だからな。ミッドウェー海戦の二の舞はごめんだぞ」
「しかし、近づかれれば取れる手段は格段に減ります」
「そのために艦載してるM2重機関銃を各所に取り付けてるんだろう?おそらく今回の戦闘の主役はミサイルではなくCIWSやM2だろうな。さぁ敵は近いぞ持ち場に戻れ」
まだ若いミサイル士は納得したようにうなずき持ち場に戻っていった
チラリと隣でレーダーディスプレイを見つめる艦長を見る
いったい、いつになったら攻撃命令が出るのか?
実をいうと俺にもわからなった
だが、この瞬間に状況は動いた。
レーダーからタクシー1が消えたのだ
まあ十中八九着艦したのだから心配する必要はないのだが…
「対空戦闘、CIC指示の目標。主砲、CIWS攻撃はじめ」
この命令が出されたことによって本艦はついに戦闘状態に突入したのだった
「左対空戦闘、敵大集団。主砲、CIWS攻撃始め!」
一瞬、呆気に取られてしまったがすぐに持ち直し命令を復唱し各部に攻撃命令を下す
今頃、前甲板では127mm単装速射砲が左の空に砲身を向けているところだろう
「撃ちぃ方始め!」
旧海軍から続く伝統的な掛け声から数秒後ドウン、ドウンと腹に響く砲声がここCICにも届いた
今、艦橋からは数秒間隔で対空弾を撃ち出しているのが見えるはずだ
射撃中の主砲を眺めたいという思いを必死にこらえ、対空レーダーのディスプレイに集中する
効果は非常に大きいものだった。
敵集団は初弾ですでに5機が撃墜されレーダーのから消滅
第2射、第3射ですでに敵は半数以下に数を減らしていた
そしてついに敵の先頭がCIWSの射程圏内に入った
「敵機近体制、CIWSコントロールオープン。攻撃始め」
電源が入ったと同時に火器管制装置が目標を捕捉し、CIWSは必殺の20mm弾を分間3600発という超高速で敵に向けばら撒いた
CIWSは数秒間、弾幕を張り続け、銃声がやんだ時には空に浮かぶものは何もなかった
「主砲、CIWS攻撃やめ」
「敵集団壊滅。近づく目標なし」
「対空戦闘用具収め」
艦長の号令で対空戦闘が解除され、ようやくCICの中の張りつめた空気が和らぐ
「レーダー士、味方機はどうなっている?」
「タクシー2は空自機に護衛されつつ帰投中」
「よし、引き続き対空見張りを厳にせよ」
2023年9月14日pm4:15 ”いずも” 艦橋(高橋三佐視点)
万が一の可能性に備えて空自の戦闘機が発艦した後すぐに、古賀司令が全艦艇に対空戦闘を下令した
対空戦闘の下令によって乗組員は鉄帽や救命胴衣を着用し艦内は物々しい雰囲気に包まれていた。
この世界に来てからというもの艦長はCICへ、副長は航空管制室へというように操舵できない艦橋にはあまり人が配置されなくなっていた
そんな中、今回は何故か古賀海将が艦橋から降りようとしなかった
「あの司令?CICの方が固く作られていますので艦橋よりもCICへ降りられた方が良いのでは」
「実はどうも苦手なんだよCIC]
「は?」
「いや、それもあるが個人的に秋津一佐にはもっとのびのび指揮を執ってほしくてね」
「お気持ちは分かりますが艦隊の最高責任者は司令ですので艦隊の指揮を執ってもらわねば…」
「それもそうだが別にここからでも指揮は執れるだろ」
「そうですが入ってくる情報量が違いますしやはりCICの方が良いのでは」
「まぁどうしてもと言うなら仕方ないな。行ってくるよ航海長」
「はっ、お気を付けて」
「司令、降りられます」
当直海曹の掛け声と共に艦橋にいる乗組員が一斉に挙手の敬礼をして司令を見送る
と、同時に艦内放送で航空機着艦態勢が伝えられ甲板作業員がせわしなく動き始めた
司令の真意を理解することはできなかったが、今は目の前のことに集中することにする。
「各部対空見張りを厳となせ」
「タクシー1艦尾からアプローチ。間もなく着艦します」
ウイングに出て確認すると今まさにヘリが着艦しようとしていた
通常時と比べるとかなり荒っぽい運転であった
長期間の回避機動でパイロットがつかれたのか、まさか危篤状態の者でも…
不吉な予感を押し殺し取り敢えず持ち場に戻ることにした
「タクシー1着艦完了。甲板作業員全員退避」
「”みょうこう”及び‘‘むらさめ’’対空射撃開始」
「作業員退避完了」
艦橋からは砲弾が空中で炸裂していく様子が良く見える
あの付近の敵は近接信管によって至近距離で炸裂した砲弾の破片を受けてひどい損害を受けていることだろう
「‘‘みょうこう’’CIWS発射。本艦RAM及びCIWS発射体制」
何機かは陸自の駐屯地付近を飛行したようで駐屯地から時折上がる曳光弾に叩き落されている
恐らく87AWからの対空射撃だろう
35ミリ機関砲の威力は伊達ではなく、かすっただけで軽くミンチになれる程だ
敵の推定飛行速度から考えて、そろそろCIWSが火を噴くころだろう
見張り員を退避させようとした時、砲声がやんだ
このことが意味するものは少ない
主砲の故障か...まさかとは思うが被弾したのか?
最悪の事態も過るなか答えは艦内放送で伝えられた
「敵集団壊滅。近づく目標なし」
「対空戦闘用具収め。ただし、対空見張りは厳にせよ」
「タクシー2及びアルプス編隊、着艦申請」
「甲板を空けろ。甲板作業員、着艦支援急げ」
この瞬間をもって救出作戦で起きた全戦闘が終結した
去年からもう一年がたつのか~
なんか今年は早く感じました( ̄▽ ̄;)
唐突ですが年末年始は忙しくなるので今年はこれが最終投稿になると思います。
来年も宜しくお願いします。
良いお年を!
用例解説
スタンダード...西側諸国で広く使われている艦対空ミサイル。本作ではSM-2を指す
ミッドウェー海戦...1942年6月5日にミッドウェー島沖で発生した大日本帝国とアメリカの海戦。この海戦で帝国海軍は赤城以下正規空母4隻を失っている。敗因の一つに連合艦隊の慢心や油断があったと言われる。
鉄帽...自衛隊における戦闘ヘルメットの呼び方。『テッパチ』と読む。
近接信管...砲弾が目標に命中しなくても、一定の範囲内に達すれば起爆する信管のこと。主に対空戦闘に使われる。
曳光弾...発光体を内蔵きた特殊な弾丸。射撃後、飛んでいく間に発光するため軌跡がわかる。通常弾4発に対して曳光弾1発の割合で使われている。




