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第41話 発艦

『注意』

微量ですがグロテスクな描写が含まれますので、あらかじめご了承下さい。

2023年9月14日pm4:05   護衛艦”いずも”   (加藤一尉視点)


5分ほど前、イージス艦のレーダーが救出ヘリ部隊の作戦行動地域に接近しつつある多数の小型目標を探知。

想定外の非常事態ということでアラート待機中の我々に出動準備要請がかかった


そして現在、現場で作戦行動中のヘリから正式な応援要請があったため飛行甲板に配置されていた救助ヘリの予備機を整備員たちが必死になってどかしているという段階である。


機体には先程飛び乗ったばかりだが、ヘリをどかしている間に発艦準備を整えたいと思った

それは隣の1番機で整備員にハーネスの装着を手伝ってもらっている島原二尉も同じようで、素早くGスーツのエア・ホースを床の高圧空気系統のアウトレットに接続している。


自分もぼうっとしている暇はなさそうだ

親指を立て整備員に『OK』サインを出すとたちまち搭乗梯子が外される


「アルプス01、エンジンスタート。クロスボディー・バブル、オープン。アイル・ギブ・ユー、スターティング・エア」


エンジン恵右気圧計等の圧力ゲージが跳ね上がるのを見て風防キャノピーの外に右手を出し人差し指を立てる。整備員に『エンジンスタート』を伝えるための合図だ


「キャノピー、下ろせ」


「与圧、ノーマル。油圧、ノーマル。フライトコントロール・チェックどうぞ」


エンジンが始動し、機体の各システムに正常にパワーが供給され始める中、キャノピーを閉じたコックピットの中で、操縦舵面のチェックをする。


操縦桿とラダー・ペダルをフルに動かし、機体の各舵面がスムーズに動くかどうか。主翼と水平尾翼、垂直尾翼のラダーなど、操縦席から見える範囲のスポイラーを自分で確認する


確認が済んだところで、親指を挙げて『OK』サインをだす。

右前方に立った誘導員からも『作動OK』の手信号。


ちょうどその時、整備員たちが予備のヘリをどかし終えたらしく発艦作業はいよいよ本格的なものになってきた。

F-35JはSTOVL機なので発艦するためのカタパルトなどは不要なのだが、その分滑走距離が必要になってくる。

しかし、“いずも”型護衛艦の広大な飛行甲板を前にしてはそんな心配は無用だ


「アルプス01、チェックイン」


「アルプス02、チェックイン」


アルプス編隊は管制塔に『発艦位置についた』の意を伝える


俺の乗った1番機は左に、島原二尉の乗る2番機は右側に停止する。


「レンジャー、発艦前チェックリスト」


「コンプリート」


「こちら”いずも”管制。針路クリア。アルプス・フライト準備よし。編隊の無事と作戦の成功を祈る。Good Luck」


「感謝する。クリアードフォーランチ、テイクオフ」


機体の右横で黄色い作業服を着た発艦信号士官が『行け』と合図する


スロットルを通常最大推力ミリタリー・パワーまで押し込むと数秒と立たずに機体が浮き上がり艦を離れた















2023年9月14日pm4:08     魔法の森上空  (木原一尉視点)


「右から来るぞ!つかまれ」


「うわっ!?」


「クソ、数が多すぎる」


戦闘開始から3分ほどで我々は恐慌状態に陥った

理由は簡単で圧倒的なほどの数の差と、敵が今まで戦っていた異形の化け物だけでなく人型の妖精や妖怪が混じっているからだ


「撃てぇ!撃たんかガンナー!」


「し、しかし…」


「撃たなきゃここにいる全員が死ぬんだぞ」


先程から何度もこんな声が聞こえてくる

ここまでくるとPTSDになる隊員もでてくるのではないかという不安も大きくなってきたが、今は生き延びることに集中することにした。


戦闘開始直後から機体をしきりに旋回させ近づかせないようにしているのだが、あまり芳しくない。

と言うのも、敵がいわゆる『弾幕』をこちらに向けてしきりに放ってくるせいである。

中にはホーミングしてくるものもあるようでピッピッピッというロックオンされたことを示す警告音がしきりに鳴り響いている。


「レフトターン」


「はい!」


打てば響くように副機長コパイの声が返ってくる

操縦桿を左に倒し敵の弾幕を避けるべく回避機動をとった時、不意にコパイが叫んだ


「木原一尉、前方12の目標。弾幕準備中の模様!回避してください」


慌てて前方を見ると確かにいた。見た目は少女のようだがこちらに明確な敵意を向けていた。

しかし、距離的に回避は不可能であると見た俺はある決断をした。


「全員衝撃に備えろ!」


そう叫ぶなり機体を加速させ前方で攻撃準備を整えつつある敵に衝突した


ローターが少女のような見た目を持つ敵を切り刻み、生き物から『モノ』に変えた。

敵の血液や体の一部がコックピットのキャノピーに降りかかりコパイが悲鳴を上げ警告音が一層大きくなった


後方から接近するホーミング式の弾幕を回避するためフレアをばらまきながら右旋回しようした時、機体右側からガンガンガンという音が聞こえ機体から煙が上がりコックピットの殆どの計器類が点滅している


万事休す・・・


そんな時、奴はきた


「アルプス01よりタクシー2へ。これより、そちらの横をフライパスする。衝撃に備えよ」


そう一方的にまくしたてられ、ようやく理解が追いついた時、機体はすさまじい衝撃と共に制御不能に陥っていた


理由は分かっている。

あのバカがアフターバーナーを焚きながらヘリの横を通ったのだ。

その際に発生したソニックブームのおかげでまとわりついていた敵集団の一部を叩き落すことに成功したようだが発生した衝撃はヘリをも巻き込み深刻なダメージを与えていた


けたたましく鳴る警報の中、一瞬軟着陸させるという選択肢が浮かんだが、リスクよりも機体を捨てたくないという気持ちが上回った。


コパイに自分の意思を目で伝え機体の立て直し作業を開始する。

キャビンからも悲鳴が上がっているが銃声がやんでいないことから戦意は挫けていないようだ。

ならば自分だけが諦めるわけにはいかない。


覚悟を決めた時、機体の異常を知らせる警報に混じりあのピッピッピッという目障りな音が聞こえた。

ディスプレイにはロックオンの文字が点滅している。


この状態で被弾すれば間違いなく墜落する。

そう考え戦慄した時、機体の左側からレーザービームのようなものが機体後方の敵集団に命中しロックオン警報は鳴りやんだ。


それが戦闘機のバルカン砲から放たれた曳光弾であるということに気付くのには数秒を要した


とりあえず脅威は去った。あとは機体を立て直すだけだ!


そう考え機体の状態を素早く把握して一つ一つ対処していく

そして、地面との距離が20メートルを切ったところで機体の操作が回復した


機体は傷だらけだがまだ生きている

あとは母艦に帰ることさえできれば…


その時、国際緊急無線にノイズが走り聞き覚えのある声がした


「タクシー1より”いずも”へ。現在敵に追われている。こっちだけじゃ対処できそうにない。援護を頼みたい」


「”いずも”よりタクシー1へ。直ちに本艦に帰還せよ。敵を引き連れたままでいい」


もしかするとまだ戻れないかもしれないな




用例解説

ミリタリーパワー…ジェットエンジンがアフターバーナーを使用しないで発揮できる最大推力のこと。

アフターバーナー…ジェットエンジンの排気に対してもう一度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る装置。通常の数倍以上の速さで燃料を消費するため、実際に使われる時間は精々1分程度である。


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