第40話 回収ヘリ到着
2023年9月14日pm3:45 アリスの家 (松村巡査視点)
ヘリでの救出を海自に要請していたが霧の影響の為ヘリの離陸のめどが立たないという
仕方がないので親交を深めることを目的とした簡単な自己紹介を行っていたのだがこれが案外受けがいいときた
SITで鍛えた話術の賜物かアリスさんは俺の話しに耳を傾け時折、笑顔を浮かべてくれる
「…まぁそう言った訳で幻想郷に来てしまったのですが正直、ここでの活動は日本とあまり変わりませんね。今している仕事なんてコソ泥の検挙ですからね。勿論、危険度は段違いですが…失礼」
談笑の途中であったが自衛隊との通信を担当していた隊員がメモを渡してきたので会話を打ち切って内容を確認する
メモには天候が回復した為ヘリが離陸するという連絡と共に回収ポイントの簡易座標が示されていた
ヘリが来るからには急いでここを出なくてはいけない
彼女との会話が終わるのは惜しいがそろそろお暇しなくては
「回収ヘリが来るらしいので、そろそろ失礼します」
「あら残念ね。貴方達との話は結構面白かったのに」
「確か近いうちに自衛隊が主催する基地祭があったと思うので招待状を送らせていただきますよ。話の続きはその時にでもどうですか」
「それもいいわね。じゃあその時にまた会いましょう…と言いたいところだけど、この辺りは危険だし送っていくわ」
「良いんですか?正直助かります」
「大丈夫よ。で、どこに向かうの?」
「我々がここに来る途中で通った道の近くに、ヘリが下りれそうな広さの空き地があったのでそこに向かおうかと」
「わかったわ。少し待ってね」
そう声をかけてから3分もかけずに準備ができたらしいアリスさんは人形を連れて俺の横に立って先を急いでいる
出会ってから数時間しか経っていないにもかかわらずこの女性とは以外にも気が合った
また会えると分かっていても何だか寂しく思うのだ
向こう側には妻子はおろか恋人すらいないのだ。
きっとそのせいだろう。自分も女に飢えているのだろうか?
…あまり深く考えないようにしよう。流石に悲しくなる
目的の空き地には、何のトラブルもなく10分ほどで到着した。
それでも気を抜かずに周囲の警戒を怠らないのは、この場所が妖怪の活動地域だからである。
実をいうとアリスさんにもこの場所を指定した時に警告を受けていたのだが、他にヘリが下りれそうな場所を見つけることができなかったのだ。
それに、ヘリの音はもう聞こえており今更どうこう言えることではないのだ。
着陸態勢に入ったのかゆっくりとこちらに向け降下してくるヘリを見上げていると、不意に後ろから声をかけられた
「村松さん!!ここからすぐに離れないとすぐに奴らが来るわ!」
この状況で『奴ら』と言えばそれを示すのは一つしかない。あの妖怪たちだ
「なっ__どうしてです?」
「音よ!この音を聞きつけて自我を持たない妖怪たちが集まってくるわ!!」
ヘリのロータリー音に負けじと大声で答えたアリスさんを見てようやく俺は失態に気付いた
姿は化け物でも自我がないならば野生動物と大して変わらない。それはつまり大きな音が鳴れば獲物の位置を簡単に予測できるということで…この危険区域に爆音を鳴らすヘリを着陸させることは自殺行為も同然なのだ。
「SITより海上自衛隊シーホークへ。現在こちらには大量の妖怪が接近中であり、非常に危険なため部隊の収容を一時中断し地上攻撃の支援に当たっていただきたい。どうぞ」
それから間もなく上空を旋回しつつ降下してくるヘリから返答があった
「…こちら海上自衛隊、救出部隊指揮官の木原です。我が編隊に与えられた任務はあなたたちの救出です。よって先ほどの要請は拒否します。警視庁各部隊は速やかにヘリに搭乗してください」
「いえ、このまま降りるのは危険です。一度敵を掃討して…」
「このような事態も想定されていましたが作戦に変更はありません。敵が来る前に離脱しますから大丈夫です。1番機が着陸しますのでSATから先に乗せてください」
「…了解」
海自は全くリスクを考えていないのか?
それとも本気で離脱できると踏んでいるのか…
どちらにせよ無茶苦茶だ
まぁいいか、ここで賭けに乗るのも悪くはないだろう。
そう考えすぐに部下に指示を与え周囲への警戒を厳にしつつ一斉にヘリに搭乗できるようにまとまらせる
無線からほとんど間をあけず自衛隊機が着陸しSATを収容していく。
作業は順調に進んでいくかに見えた。
しかし、突如森の中から現れた妖怪たちによって現場は混乱状態に陥った
敵は捜索中に撃退した狼のような化け物のほか猿のような化け物など得体のしれない怪物である
そしてなりより素早い。これで混乱しないわけがなかった
「左から来るぞ!」
「撃てぇ!!」
「ダメだ!9ミリ弾じゃ倒しきれない!!」
「それ以上前に出るな!ヘリの機関銃を喰らいたいのか!」
部下たちはSATや負傷者の援護をしているが押され気味である
これは非常にまずい。そう思った瞬間、アリスさんの操る人形が部隊の応援に入った
「私たちが援護するから今のうちに!」
その言葉に応えるかのようにSATと負傷者を収容した1番機は上昇を開始し、空いた位置に割り込むように2番機が着陸し我々の収容を開始した
SATの収容を完了させた1番機がM2重機関銃を使って援護しているほかアリスさんの奮闘もあり我々の収容はかなり早く終わった
「よし、収容完了!そこの彼女は乗らないんですか?」
「アリスさんも早く!」
「えっ!?ええ…でも私は自分で飛べるから大丈夫よ」
「そうなんですか!?まぁ了解です。彼女は乗らないのでd「いやダメだ、戦闘機動になると敵味方の識別も困難になる。ついてくるなら乗ってください!」
最後まで言わせてくれても良いじゃないか…
いつになく真剣なパイロットに文句を言いつつも大人しく指示に従うことにした
だが事態が順調に進んだのはここまでだった
「何だこれ?1番機、直ちに艦隊上空に退避せよ。こちらに多数の小型目標が接近中、至急退避されたし。我々が殿を務める」
「1番機、確認した。直ちに退避する、幸運を!」
パイロットの無線を聞いた俺はコックピットに身を乗り出して「どういう事だ」と聞いていた
「あ~すんません。多数の不明目標がこちらに向かってきているので迎撃しようと思いまして」
「はぁ!?そんなの無視して早く逃げればいいじゃないですか」
「残念ながら敵さんはかなり速く動くようでしてね。無視して逃げると追いつかれちゃうんですよ」
「じゃあ…この機体だけで敵を撃退することは可能なんですか?」
「正直、難しいと思います」
「じゃあどうする気なんです!」
さらに畳みかけようとした俺を手で制し機長の木原は無線の周波数を”いずも”に合わせた
「こちら警察救出部隊、2番機コールサイン『タクシー2』。現在こちらに多数の妖怪とみられる目標が接近中。単機での対処は不可能なため至急応援を求む」
ややあって無線から落ち着いた声が流れた
「こちら”いずも”。1番機から既に報告は受けている。5分で空自の要撃機が上がりますからそれまで耐えてください」
「ふぅー簡単に言いますね。まぁそれくらいの速さが限界なのは知ってますから文句は言いませんよ。但し急いでください」
機長は通信を終え、顔だけこちらに向け口を開いた
「そう言う訳なのでご協力宜しくお願いします」
「はぁ…」
こうして我々の生き残りをかけた戦いが今まさに始まろうとしていた
用例解説
M2重機関銃…開発から80年以上も愛用されている名銃。強力な12.7mm弾を用いており最大射程は6000mを超える。愛称はキャリバー




