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第39話 氷の妖精

2023年9月14日pm3:00   ”いずも”艦橋  (高橋三佐視点)


「航海長、霧が出てきました。ウイングの見張り員を退避させてもよろしいでしょうか?」


この世界では多くの対空目標が混在するが、IFFなどの判別装置は機能しない。そのため各艦の見張り員の価値は急速に上昇しているのだが…この辺りはよく霧が出る

そのため今回のように役に立たなくなった見張り員を退避させることも多い


「あぁ良いよ。ほとんど視界が聞かない状態で見張りを立たせても意味がないからな」


「それにしても、この地域は霧が出る回数がやけに多いと思いませんか?」


「確かに…この湖の周りはかなりの頻度で霧が出るよなぁ」


「航海長、ヘリの発艦作業が中止されたみたいです。甲板作業員が退避してます」


「まぁ安全を第一に考えればそういう判断になるよな」


「しかし、良いんですか?あれって警視庁の連中を救助するための機体だったと思うんですが…」


「う~ん、それは飛行隊の方に聞かないとわからんな。当直士官、ちょっとウイングに出て様子を見てくる」


「了解です。お待ちしています」


甲板の様子が気になったので当直士官に艦橋の指揮を押し付け・・・もとい、指揮を引き継ぎ俺は左舷側のウイングに顔を出した


ウイングから飛行甲板を見てみると、先程までヘリの離陸作業をしていた航空機整備員の姿はすでになく付近は霧のせいでほとんど見通しが気かなくなっていた


「信号長、双眼鏡メガネを貸してくれないかな?」


「良いですけど…この霧じゃあ何も見えませんよ」


「なぁに陸さんの様子も見てみたくなっただけだし、ダメもとでやる分には損はないよ」


実際、飛行甲板が一時的にとはいえ使用不能になったのだ

駐屯地飛行場に何らかの動きがあってもおかしくはないはずだ


「そういうもんなんですかねぇ。自分には時間の無駄にしか思えませんよ」


「それを言ったら動く予定のない船の航海科員の俺たちが一番時間を無駄にしてるだろ」


俺がそう呟いた瞬間、艦橋内の空気が凍り付いた


「航海長…それは思っても言っちゃいけませんよ…」


「…悪い」


周りから冷たい視線を浴びせられ流石の俺もいたたまれなくなったので、無言で左舷のウイングに退避した。

よし、ほとぼりが冷めるまでこっちにいよう!

そう固く誓い信号長から借りた双眼鏡メガネを覗き陸自の駐屯地の様子を見た…否、見るはずだった。

もっとも濃い霧のせいで双眼鏡を覗いても何も見えない可能性はあった。だが、双眼鏡のレンズに映ったのは駐屯地でも霧でも無かった。

では一体何だったのか?答えは『目』である

自分で言っていても理解しがたいのだが…要するに双眼鏡を覗いたらレンズの先には水色の瞳があった。つまりは双眼鏡の反対側から誰かがレンズを覗いたということだ。

そう、これは誰かが俺をからかってやったいたずらだったのだ。

安堵した俺は双眼鏡を下ろし悪戯をしてきた相手に抗議しようと思って…ある重大なことに気付き動きを止めた。

そう、自分がどこで双眼鏡を覗いていたのかを思い出したのである。ここは左舷のウイングで、俺は手すりに寄り掛かるような体制をして双眼鏡を覗いたので自分より前に足場はないのだ。

それはつまり…俺は幽霊と見つめあっている?


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


全てを理解した次の瞬間、俺は考えるより先に悲鳴を上げていた


その悲鳴は尋常ではなかったらしく結果として


「航海長、無事ですか!?」


…当直士官が非常事態以外では抜くことを禁止されている拳銃を構えウイングに突入してきたのだ。見れば慌てた当直士官の後ろに隠れるようにして信号長もこちらの様子をうかがっていた


「あぁ…すまん。今そこに幽r「動くな!!誰だ貴様ぁ!!!」


…あれ?まさか当直士官にも見えてる??


「はっはっは!!人間風情がこの最強のアタイに命令するなんて、身の程知らずにもほどがあるわね!」


「やっぱりやめようよ、チルノちゃん」


混乱した俺の目の前には青い髪と緑の髪の二人の少女…いや、二人の幼女と言うべきか?…まぁいいか。とにかく二人の幼女がこちらの警告をものともせず、ウイングから約3メートル地点でホバリングしていた


あれ?こいつら誰?もしかして…俺はこんなガキのいたずらに踊らされて幹部自衛官としての威厳とかその他もろもろの大事なモノをあの情けない悲鳴で落っことしたのか?

放心状態から回復し冷静に現在の状況を分析した結果…


「身の程知らずはお前だぁぁぁ!!!」


俺を脅かしたと思われる空飛ぶ少女たちを年甲斐もなく怒鳴りつけていた

それはもう訓練中に人命にかかわるようなミスをした部下に対しての説教と同レベルで…


「ごっごめんなさい!」


緑の髪の幼女は首をすくめ怯えたように青い髪の幼女の陰に隠れた

一方、青い髪の幼女といえば逃げ隠れはしないものの、緊張か恐怖の為か額からはダラダラと大粒の汗を流していた


「航海長、何もそこまで怒らなくても良いのでは……」


信号長以下、艦橋に駆け付けた曹士クルーからの視線が痛い

…確かにやり過ぎてしまった感はあるのだ。だが俺が悪いのか?………やっぱり俺が悪いのか?


「あ~すまなかった。君たちは何者なんだ?」


まぁいいか、この際どうでもいいだろう

今は相手の警戒を解くことが重要なはずだ。侵入者とはいえ相手は子供なのだ。あまり高圧的に当たるのは宜しくないだろう


「えっと私達は…」


緑色の髪をした幼女が恐る恐るといった感じでこちらの質問に答えようとした時、立ち入り検査隊の隊員達が艦橋に突入してきた

恐らく侵入者を確認した時点で艦橋にいた隊員の誰かがCICあたりに通報したのだろう


「航海長、ご無事ですか?」


「あぁ、大丈夫だ」


「侵入者とは彼女たちですか?」


立ち入り検査隊の先任海曹が俺に確認をとっている間も検査隊の隊員は銃を向けながらゆっくりと少女たちに近づいていく


「そうだ。ただ敵意は無いみたいだから手荒な真似はしないように」


「了解しました」


先任海曹自身、子供に銃を向けるのは気が引けるようで、すぐに小銃を下げて敵意がないことを相手に示した


立ち入り検査隊の介入でどうにか丸く収まり、やっと一息つけると思い安堵していると


「航海長、古賀司令以下各幕僚が説明を求めていますので至急CICへお願いします」


などと一息つく時間すらないことを当直士官に明かされ一気に脱力感に襲われた


「あ~もう少し休ませろぉ!」


「ご苦労様です。あっ霧が晴れましたね」


当直士官も苦笑いを浮かべながら話題を変えてきた

まぁ俺が彼の立場だったらば同じことをしただろう。こういう状態の人間は面倒なものだと相場は決まっているし


「うん?あー本当だな。ヘリの発艦作業も再開されたみたいだし警察の奴らが戻ってくるのも時間の問題だろ」


「全員無事だといいんですが」


「まぁ大丈夫だろ。前回の報告では負傷者もいないとの事だったし、何より協力者を得ることに成功したみたいだからな」


「そうですよね。あと航海長、早くいかないと艦長の機嫌が悪くなりますよ」


「あぁ、めんどくせぇ。当直士官、俺は急に腹が痛くなってきたから代わりに報告n「嫌です」


「そんなに旨くはいかないかぁ」



我ながら本当に前途多難な人生だと思う



用例解説


立ち入り検査隊…正式名称『護衛艦付き立ち入り検査隊』は各護衛艦ごとに編成されている海上阻止行動(MIO)を想定した部隊である。米沿岸警備隊からノウハウを学んでいる

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