第37話 七色の人形使い
2023年9月14日pm2:30 魔法の森(SAT分隊長、山崎巡査部長視点)
SITの松村巡査部長の指示で回収地点に向けて前進を開始したが開始数分で壁にぶち当たった
「前方の建造物の様子は先ほどと変わりません。まだ監視を続けるんですか?」
「監視は続ける。建物の内部に人の姿は確認できなかったのか?」
「確認できませんでした」
「わかった。SITの方に強行突入を具申する。向こうに伝えてくれないか?」
「了解しました。しかし、本当に良いのですか?中に人が住んでいた場合「すいません間違いました」なんて言うわけにはいきませんよ」
「大丈夫だろ。ここは危険地帯の魔法の森で人里からもかなり離れた場所にあるんだ。休憩小屋の可能性が高い」
「しかし、SITの観測班は人がいる形跡があると」
「仮に何かいたとしても俺達には相手の文明レベルをはるかに凌駕した銃器がある。大丈夫だ」
「であれば、わざわざ人の形跡がある場所をあたらなくても他の場所を見つければいいのでは。ここにこだわる理由がわかりません」
部下はなおも食い下がってくる
まぁ犯罪者の住居ならともかく無辜の民が住む家に強行突入となれば納得しづらいだろう
だが、納得してもらわねば作戦に支障が出る
ここははっきりと言うべきか…
「お前SITの連中の顔色見たか?」
「えっ?まぁ見ましたが…」
「どんな顔してた?」
「…ひどい顔でした。全員どこか疲れ切っているような感じで…でもあれは肉体的な疲れというより精神的なもののような…」
「ほぉ、よく観察してるな。全くその通りだ。俺たちは何回か経験したが連中は殺した経験も殺された経験もないんだ。そんな奴らがいきなり死にかけたらああなっちまうのも無理ないだろ」
「つまり隊長は部隊が休息できる場所を確保するためにあの建物を占拠するということですか?」
「まぁそうなるな」
「自分は納得できません!!例え安全の為とはいえ他人の所有物を一時的にとはいえ占拠するなんて…これじゃあ我々が検挙してきた凶悪犯と変わらないじゃないですか!」
「確かに本質的には変わらないな」
「だったら!!」
「俺は…この世界にきて何を守っていくかずっと悩んでいた…ここには守るべき都民はいない。では俺は誰を守ればいいのか?…俺が出した答えは、お前たちを無事に日本に…家族のもとに帰すことだと思った。お前は何を守る?」
「…自分はこの世界の住民を守りたいです。例え異世界の住民だとしても我々に助けを求める人がいる限り全力でその人たちを守りたいです」
「そうか…お前はSITの分隊長と同じような考えだな。あいつも同じことを言ってたよ。そこに俺達を必要とする人がいる限り俺はその人を助けたい…だっけか。警察としては良い判断だと思うぞ」
「失礼します。SITから伝令です」
「しまった、だらだら話し過ぎたな。向こうの方で意見が固まっちまった感じかな」
「ご明察ですね。SIT全体の意見としてお伝えします。『強行突入には断固として反対なれど部隊の状況から素通りするのは好ましくないため住民との交渉を前提とした作戦を立案するということでよろしいか?』との事です」
「やっぱりそうきたか。『了解した。その前提での作戦を立案する』と伝えてくれ」
「了解しました」
俺だって無用な出血は望んでいない。平穏に事が片付けばいいのだがな…
2023年9月14日pm2:45 魔法の森(SIT分隊長、松村巡査部長視点)
「SATもこの方針に賛同してくれたか…」
「はい、正当防衛が必要な事態では発砲を辞さずとの条件付きですが」
「そこはあっちの方が正しいと思うぞ。警視庁の精鋭である君たちをこんなところで失うわけにはいかないからな」
「問題はどんな作戦を立てるかですね」
「基本的に武装を極力まで抑えた隊員に正面玄関から堂々と交渉させてしまったほうが良いのでは」
「この状況で武装解除は危険すぎるだろ」
「しかし、装備を固めたりしますと相手の警戒心をあおり交渉がスムーズにいかなくなる恐れがあります」
「だったら全隊員を家の前の広場に整列させてみたらどうだろうか?」
「分隊長、それはいくら何でも…」
「もちろん、前列には盾を装備した隊員を配置し不測の事態に備え部隊は完全武装、交渉要員のみ一部武装解除といった感じなら相手を威圧できるし、抑止力にもなる」
「成る程、SATにスナイパーを配置してもらえばさらにいいかもしれせんね」
「報告、SAT分隊長からです」
「どうした」
「SATとしてはSITが正面から交渉をしてる間、別動隊を住居の裏で待機させ不測の事態に対処したいとの事です」
「わかった。それで行こう」
2023年9月14日pm3:00 魔法の森 (SIT隊員視点)
『全隊員へ通達、これより作戦を開始する』
無線から分隊長の声が聞こえ他の隊員が住居前広場に整列を開始する
俺は拳銃と防弾チョッキを身に着け他の隊員を尻目に一人で正面玄関へと進む
緊張の為か手のひらから出る汗は一向に収まる気配はない
いくら後方にSATの凄腕狙撃手が控えているといっても扉があいた一瞬に防護されてない首を刃物で刺突されてしまえば俺はいとも簡単にお陀仏だ
だがそうなるわけにはいかない。覚悟を決め扉をノックする
「日本国警視庁のものです危害を加える意思はありません。扉を開けてもらいますか?」
返答はなかった
しかし、ゆっくりとドアノブが回転していく
いよいよ恐怖で手が震え始めた時
『落ち着け、こっちはいつでもカバーに入れるぞ』
「了解」
分隊長の声で多少落ち着きを取り戻したとき扉が完全に開いた
どんな相手が来るのかと内心ビクビクしていたのだが……
出てきたのはかわいらしい女の子の人形だった
それも日本人形ではなく西洋人形でこちらをじっと見つめて首をかしげている
あれだけ緊張し命の危険まで感じていた自分がバカバカしくなると同時に分隊長に指示を仰がねばと考え無線に手をかけた
その時、人形がしきりに手招きしていることに気付いた
建物の中に入ってしまうと狙撃での援護は期待できなくなってしまうが今の俺にはそんなことはどうでも良かった
人形に案内されて建物の中を進んでいくとやがて椅子に腰かけた女性を見つけた
「こんにちわ、私はアリス・マーガトロイド。あなたは人間のようだけどこんなところで何してるの?ここは魔法の森よ。危険な妖怪が沢山でるわ」
「私は日本国警視庁所属のものです。この森へはある人物の…いえ、ある妖精を捜索するために入った次第です」
「日本国?…もしかしてこないで魔理沙が話してた外来人だったりする?」
「はい、その通りです」
「成る程、そういうことか。貴方達ケガしてないの?」
「けが人はいませんが外は危険なのでここで休ませてもらえないものかと…」
「良いわよ。少し狭いけどね」
「わかりました。仲間を呼んできます」
作戦成功だ
そう考えアリスと名乗る女性から距離をとり分隊長に無線をつなぐ
「分隊長、受け入れてくれるそうです。……はい…わかりました。それで…」
「彼が外来人ということは裏に隠れてた奴らもきっとそうね…殺さなくてよかった」
そんな彼女のつぶやきを知らず隊員は緊張感のない笑顔で分隊長との交信を続けていた
用例解説
アリス・マーガトロイド…魔法の森に住む魔法使い。彼女は魔法使いにして人形師である。人形作りが得意で、大量の人形を魔法で一度に操ることが可能である
追伸…投稿時間の設定を誤ってしまったためいつもの時間に投稿することができませんでした。申し訳ありません。
今後も何かあれば私の活動報告の方でご報告させていただきますので更新ペースが乱れているときなどはこちらをご確認ください




