第35話 制作依頼
2023年9月14日am11:32 妖怪の山 河童の工房(木島三尉視点)
「我が隊で制作を依頼したいのは以下の装備品です」
あの後すぐに施設科小隊を含めた全隊員がこの場所に通された
取り敢えず部下には待機を命令したが主要責任者の施設科中隊長と俺は小屋に通された
「え~と、これはもしかして回転式拳銃の弾薬と同じ仕組みだったりするのかな?」
にとりと名乗った少女は手渡された5.56mm弾をつまんで興味深そうに観察している
「リボルバー拳銃の事ですか?よく知ってますね」
小隊長が驚きもあらわに聞き返す
見学で回った人里の文明レベルから見てリボルバー拳銃のような火器の製造能力があるのか甚だ疑問だったようだ
「私たちも結構作ったんだよ。けど、弾幕を使うことができる私たちには銃は必要なかったんだよね」
「そうなんですか?弾幕より手ごろに使える自衛手段としての利用が考えられると思ったのですが」
「ふーん。外来人の目にはそう映るんだ。興味深いね」
どうやら彼女の興味の対象は5.56mm弾から施設科中隊長の回答に移ったようだ
「違うのですか?」
「弾幕ごっこっていうのは基本的に死なないんだよ。けど銃で撃ち合ったら確実に死者が出る…この違いは分かるよね」
「成る程、ここでは自衛のために銃を使うことをやめたと」
「そんな感じかな、あとはこの幻想郷のバランスを崩さない為ってとこかな」
この場合のバランスとは人間と妖怪の力関係を指しているのだろう
下手に銃器で武装した人間とやりあうことにならば彼女達も少なくない犠牲を強いられることを研究を通して知ってしまったのだろう
「苦労してるんですね」
「いや、そうでもないよ。いろいろなものを作るのは楽しいし…ただ私たちは今何が必要で何を世間に公開すべきか慎重に判断しなくちゃいけないけどね。科学者の責任として…」
「開発者の悩みを聞いたのは今回が初めてです。あの、もし差し支えなければほかの発明品などを見せていただけませんか?貴方達が作り恐れた科学をぜひ見てみたい」
「待ってください。今回は任務で来てるんですから私用で部隊を動かすわけには…」
話の流れがぶっ飛び過ぎて置いてきぼりにされかけていた俺でも施設科中隊長のこの発言だけは見逃すわけにはいかなかった…がしかし…
「こちらの科学技術を知ることはこちらの利益になるだろ」
と言い返されては無理くり止めることもできなくなり仕方なく彼女たちの作った発明品を見せてもらうことになった
そんな流れでにとりに案内されて部屋の奥に通されたのだが…
「取り敢えずここから降りてもらうよ」
案内されたのは地下に向かって深く伸びる階段だった
「えっと、どうして降りるんですか?」
「私たちの研究施設はこの下、正確にはこの小屋の隣にある滝つぼの下なんだけどね」
「滝つぼの下?つまりこちらはダミーということですか」
「いや、本来は研究施設に人間を入れるための階段だけだったんだけどね。あれこれ付け足していくうちに今の形で落ち着いたって感じなんだよね」
「はぁ…成る程」
会話の途中で階段を降りるよう促されたのでいろいろ質問しながら降りることにする
「そういえばこの周囲を隠していたのは幻術ってやつですか?」
存在しないのにあるように見える崖…これには少し心当たりがあった
人里に滞在していた時に何人かの人間にこの世界の事、特に妖怪などについてを中心に聞き込みを行ったのだ
その際、少しばかり小耳に挟んだのがこの”幻術”だ。幻術とは簡単に言えば幻を見せ他者を欺くために使われる業だという
俺はこの線を疑っていたのだが…
「幻術?残念だけど私たちにそんな技は使えないよ。あれは映像投影技術を発展応用したものなんだ。君たちが3Dホログラムって呼んでるものに近いかもね」
「3Dホログラム!?あれが!?全く見分けがつかなかった…」
3Dホログラムと言えばアニメや映画の中だけの話だと思っていたがここまでクオリティの高いものを造れるとは…
「妖怪とかが侵入してこないように作ったんだけどね。私たちは科学技術こそ優れているけど魔術とかの特殊能力では天狗とかの妖怪に及ばないからね」
「いろいろ苦労してるんですね」
話してる最中に地下工房についた
「これが…あの滝つぼの中にこれだけの施設が…」
「驚いた?その様子だと現代にもこれだけの施設はないのかな~」
「ここまで広い水中施設はなかなか無いですね」
「よっしゃ~外来人達よりも優れた技術を持つことができた!あっ、こっちだよ」
機嫌を良くしたにとりについて行くとそこには拳銃からライフルまで様々な武器が置いてあった
「私達が作ったのはこれくらいかな」
「では、拝見します」
施設科中隊長がひと声かけ近くに有ったライフルを手に取ったのだが…その銃の形を見て慄然とした
「中隊長、今すぐその武器を置いてください!」
かなり強い口調で言ったので中隊長はすぐに銃を手放した
「どうしたんだ!?そんなに慌てて」
「まだ指を残しておきたいのでしたらその銃は触らないことをお勧めします」
中隊長が手に取ったのはリボルバー式拳銃にライフル並みの銃身と銃床を取り付けたものだった
「どういう事だ」
「そのタイプの銃は一度アメリカで作られたことがあります。リボルビングライフルってやつですね。これはシリンダー前部から噴出するガスにより火傷を負った兵士が多数出たほか暴発した場合シリンダーからでた弾丸で手をえぐられたという話もありまして…」
「もういいやめろ。その銃がどれだけ危険なのかは分かった。感謝する」
「間に合ってよかったですね」
口調はぶっきらぼうだが顔色は青ざめていた
こういう話は刺激が強すぎたのかもしれない
何故自衛官になったのか甚だ疑問だ
「へぇー詳しいね。実を言うと私たちも同じ理由で廃止にしたんだ」
「お前そんなに武器に詳しかったのか?いや、元特戦なら当然なのか?」
「まぁ覚えていても損はないですからね…」
「もう少し見せたいとこだけど、取り敢えず私たちの技術は理解してもらえたかな?」
「ええ、お任せできるほどの技術があることが確認できましたので我々としては問題ありません」
「それは良かった。弾薬の大量生産の目途が立つのは早くても一か月後になりそうかな」
「わかりました、宜しくお願いします」
「任せといて、盟友」
「あの、会った時から気になってたんですがなぜ我々を盟友と呼ぶのですか?」
「え?いやだって私たちは古来から助け合ってきた仲じゃないか」
「はぁ、身に覚えはありませんが…取り敢えずこれからよろしくお願いします」
用例解説
ホログラム…レーザー光線を使って立体映像を記録するフィルム。作中では空中投影ディスプレイ(空中に映像を投影する技術)を指している




