第31話 駐屯地祭計画part1
2023年9月15日am9:00 幻想駐屯地 仮設司令部
この駐屯地司令部には(と言ってもあくまで仮設なのでそんな大層なものではなく、少し大きめのテントではあるのだが)陸海空自衛隊の各幹部や責任者がたむろしており、自衛隊側にとってこの計画がいかに重要であるかを暗示させていた。
「よし、全員そろったな。諸君には幻想駐屯地創立記念式典の内容を話し合ってもらいたい。この行事は幻想郷側の求めに応じる為だけではなく、幻想郷側に敵対する意思が無いことを広く知らせることが出来る良い機会である。しかし、同時にこの行事が失敗することがあれば一挙に幻想郷側からの信頼を失うことになりかねない。以上のことに留意しつつ慎重に議論してほしい。諸君らの活発な議論に期待する」
珍しく船を降りてきた古賀海将の演説を兼ねた説明の後、真っ先に発言を求めたのは第38普通科連隊第3中隊の中隊長、長沢悠人三佐だった。
「それでは我々から提案させて頂きます。幻想郷側からの要望は我々の戦力の開示です。ですが安全確保の問題や、弾薬の数等から全ての装備の威力を開示することは極めて困難です。そこで弾薬の調達が可能な装備を積極的に使い誤魔化そうと思います」
「弾薬の件は私も賛成だがそんなに上手くいくかね?」
「例えばですよ。この狭い敷地で射程の長い特科の大砲や護衛艦の主砲等を使うことはできませんよね。このような現実的な視点から説得してみてはいかがでしょう? 幻想郷側もきちんと理由を示せば理解を示してくれると考えられますが...…」
「だが、あまり威力の低い武器ばかり使っていたら幻想郷の住人達に舐められるんじゃないか? 我々としては今回の演習で力を見せつけ、敵対する意思を挫く抑止力となってもらわないと困るのだが……」
「それは……その通りです」
「発言良いですか?」
反論に困った長沢三佐に代わって【みょうこう】の砲雷長菊池三佐が発言した。
「弾薬をできるだけ使用せずに相手に我々の力を知らしめるのでしたら、イージス艦の対空戦闘訓練を幻想郷の権力者に披露するというのはどうでしょうか? 中央戦闘指揮所を見学させれば実際には撃たなくても我々の実力を示すことができます」
これに対しては【みょうこう】艦長の田中一佐からすぐに反対の声が上がった。
「砲雷長、君もわかってると思うがイージス艦の中央戦闘指揮所は国防上の絶対的な機密だ。これは見せるわけにはいかない」
国防の最高機密を預かる艦長としては正しい判断だったのだろう。
だが、田中一佐が続けて言おうとしたことは古賀海将の一言で打ち消された。
「いいじゃないか」
「はっ!? いや、しかし流石にそれは……」
「田中一佐、君も知っての通り、こちら側の文明レベルは我々に比べ低い。そこに住む人間が中央戦闘指揮所を見ただけで何が機密事項なのか判別できると思うのか?」
「いえ……しかし、それは防衛機密を漏らす理由にはなりえません」
「もちろん機密であることに変わりはない。だが猫に小判ということわざが指すように、その価値がわからなければ最高機密でさえ紙切れ同然なのだよ」
「なるほど……」
「では、取り合えずこの提案は採用ということで」
この場で最も階級の高い海将の発言であったから、田中一佐も一応は納得の姿勢を見せた。
しかし、特定機密保護法にも触れる際どい発言であることには変わりないので、艦隊主席幕僚がそっと議論を終わらせた。
「ありがとうございます」
内心でこんな提案が受け入れられるはずがないと決めつけていた菊池三佐は、目を白黒させながらなんとか返答した。
「よし、この調子でどんどん意見を出してくれ」
海将の際どい発言は結果として、階級や職種にこだわらない多様な意見を噴出させることになった。
今回の話は1話で完結する予定だったのですが時間の都合上2話分割になってしまいました。
そのため1話ごとの文章量が非常に少なくなっております




